小林頼子、朽木ゆり子/謎解きフェルメール
フェルメールの作品と画家本人についての考察、さらに有名な贋作事件や盗難事件の背景に迫る美術本。
簡潔だけど丁寧な解説でわかり易かった。
作品とフェルメールの生涯の解説を担当する小林氏の文体はちょっと砕けてて大学教授が書いた解説文というより、ブログに書いてある文章みたいな感じ。
最初ちょっと違和感があったけど、リズムがある文章だったのでだんだん読みやすくなった。
フェルメールの作品を解説するときに必ず触れられる「カメラ・オブスキュラを使用していた」という説に対して否定的な立場らしくその根拠についても簡単に触れられていて興味深かった。
贋作および盗難事件の解説はジャーナリストの朽木氏の担当。
有名なメーレヘンによる贋作事件について、深く掘り下げてはいないけれど全体像が分かりやすい内容で面白かった。
意外だったのは政治的な目的による絵画窃盗(盗んだ絵画を政治的な取引の材料にする)は効果が殆どない、という部分。
世界的に有名な絵画で、その価値が何千万、何億というものであれば何らかの効果があるのかと思っていたけれど、(少なくともここに書かれている限りでは)絵画の価値と政治的な価値は別物であるらしい。
名画が損なわれてはならないものであることは確かだが、芸術品は人間が蓄積してきた知識を体現するものであり、特定の作品が破壊されても知識の総体に影響がないことを私たちはよく知っている。さらに、政治的大義と芸術品を天秤にかける方法自体が矛盾しているという考え方も社会には行き渡っている。その意味で、政治的目的達成手段としての絵画窃盗には、最初から勝ち目はない。(p105より)
ただ、それにしてもラスボロー・ハウスの警備体制はどうなっているのか、と思ったのは私だけではないはずw
この本に書かれているだけでも4回も盗難にあっているらしい。(すべてが政治目的ではないらしいけど)
美術館ではなく個人の邸宅らしいけど、そんなに貴重な美術品を所有しているならもうちょっと警備体制をどうにかして欲しいなあ。
紹介されている内容に合わせた図版が豊富で更にすべてカラーなのが好印象。
また、フェルメールが生涯を送ったデルフトの写真もたくさん掲載されていて楽しめた。
巻末にはフェルメールの作品が見られる世界の美術館一覧と年譜付き。
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