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2013年6月の6件の記事

2013/06/29

篠田真由美/ホテル・メランコリア

ホテル・メランコリア

かつて横浜にあった小さなホテル。
少女時代に父親とそこをよく利用したという老婦人に依頼された人物が、ホテルに関わりのある人物を探して話を聞く、という形式の短編集。

その名の通り、幻想的で現実からちょっと離れた物語が心地よかった。
ホラーというほど怖い話はなく、そんな「気配」だけという感じ。
怖いもの苦手な私にはこのくらいが丁度よかった。

冒頭の老婦人による独白形式の「赤い靴を履いて」が印象的。
彼女の依頼を受けて物語がまわり、また最後はこの老婦人のもとに戻ってくるのだろうなという予想は当たっていたけれど内容は期待していたのとはちょっと違っていたのが残念。
「赤い靴を~」で語られなかった彼女の思い出や後悔、葛藤などが昇華された結末が読んでみたかった。

それでも表紙の装丁、普通の本よりもしっかりした質感のページ、物語の随所に1ページを割いて差し込まれるモノクロの写真も含め、きちんと計算された素敵な作品だった。

<収録作品>
赤い靴を履いて / 憂鬱という名のホテル / 黄昏に捧ぐ / 影に微笑むカッサンドラ / ビロードの睡り、紫の夢 / 百合、ゆらり /あなたのためのスペシャリテ / 時過ぎゆくとも(アズ タイム ゴーズ バイ)

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2013/06/22

赤瀬川原平✕山下裕二/日本美術応援団 オトナの社会科見学

日本美術応援団 オトナの社会科見学 (中公文庫)

'37年生まれで画家、作家の赤瀬川さんと'58年生まれの大学教授・山下さんの「オトナ」2人組が国会議事堂やお寺、美術館、博物館などを見学してその楽しさ、面白さについて語り合った対談集。

面白かった♪
指定されたルートではなく、人があまり注目しないような場所に入り込んで行って楽しさ、面白さを見つけてくる2人の姿勢に共感。
好奇心に溢れた行動力に刺激を受けた。

特に国会議事堂は面白そう!
一般人も見学出来るようなので是非今度行ってみよう(^^)

<収録作品>
国会議事堂 / 東京大学総合研究博物館 / 東京国立博物館 / 聖徳記念絵画館・根津美術館 / 正福寺・増上寺 / 鎌倉 / 長崎 / 奈良

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2013/06/15

富樫倫太郎/信長の二十四時間

信長の二十四時間

信長が本能寺で襲われた日を中心にそこに至る周囲の目論見や暗躍を描いた作品。

明智、秀吉、信忠ら織田の身内だけでなく、公家や伊賀の忍者一族を物語に加えたことで話に奥行きや広がりが出て面白く読めた。
忍者たちも仲間を虐殺した仇として信長の命を狙う百地党、対して織田を守る藤林党、更に徳川家に仕える服部一族がそれぞれの役割を果たしつつ絡んでくる構成で読み応えあり。
ただ、それぞれ主要なメンバーとして数人が描かれるわりには描き分けが今ひとつだったようにも思う。

ストーリーは百地党の頭首である連歌師・里村紹巴こと百地丹波が企てた信長暗殺計画に公家で太政大臣の近衛前久や信長の家臣・羽柴筑前守秀吉を巻き込んで進行する。
まあ、あっちもこっちも騙し騙されの連続で、まさに「権謀術数が渦巻く」展開。
主要な登場人物は限定されるものの、あまり思い入れを持つように描かれた人物は出てこないので全体的にわりと淡々と読み進められる感じ。

ラストはそんなに意外性はなかったけど、全体の流れから行くと上手くまとまっていたと思う。

それにしても今回、光秀は可哀想すぎる役回りであった(涙)

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2013/06/07

西條奈加/閻魔の世直し 善人長屋

閻魔の世直し: 善人長屋

「閻魔組」と名乗る手練の三人組によって江戸の裏側を仕切る大物たちが次々に襲われ、惨殺される事件が発生。
長屋の主・儀右衛門が私淑し、長屋との関わりも深い大盗人・月天の丁兵衛もその被害にあったことを知った善人長屋の面々は命に替えても閻魔組を見つけ出し凶行を止める算段を始める-。

「善人長屋」の続編。
前作がちょっと笑えるほのぼの系の人情モノだったので今回もそうした作品かと思ったら、かなり重い内容だったのが意外。

込み入ったストーリーで登場人物も多いけどそれを上手くコントロールしてあって読みやすかった。
ただ、ちょっと人が死にすぎ。
それにあれだけのことをやったわりに黒幕の最期もあっけなかった。
(といってあまりジタバタされてまた死人が出ても困るけど)

最後は笑顔で終わったのでちょっと救われたけど、やっぱりモヤモヤしたものが残るなあ。
読み終わって温かい気持ちになれる話が読みたかった。
(そういう読者の感想も予期した上でのこの内容なんだろうとは思うけど)

ちなみに今回、加助はあまり出番なしだった。
(出たら出たで鬱陶しいんだけど、いないとなるとちょっと寂しいw)

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2013/06/06

畠中恵/ひなこまち

ひなこまち

「しゃばけ」シリーズ11作目。

「お願いです。助けて下さい」-
誰が書いたとも判らない木札に出会った若だんなが救いを求めている誰かに出会うために長崎屋にやってくる厄介事を解決していく短編集。

非常にきれいにまとまっていて、ここ数作では一番楽しめた。
若だんなを始め、それぞれの登場人物の役割のバランスがとてもよくて読みやすかった。
人物(妖たち)や舞台設定、行動範囲、物語の雰囲気からいうとこのくらいのスケールの話がいちばんピッタリくるような気がするな。
一枚の木札から始まってグルっと回ってまたその木札に戻ってオチがつく構成も効果的。

特に若だんなを守るために外に飛び出した屏風のぞきとそれを追いかけていった仁吉が活躍する表題作「ひなこまち」は勢いがあってとてもよかった。
屏風のぞき、可愛いなあw

最近新作を読んでもイマイチ楽しめないことが多くて「もうこのシリーズは読まなくてもいいかなあ」と思い始めていただけに今回の復活は嬉しい。
今後もこんな感じの話で続いてほしいな。

<収録作品>
ろくでなしの船箪笥 / ばくのふだ / ひなこまち / さくらがり / 河童の秘薬

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2013/06/01

有栖川有栖/江神二郎の洞察

江神二郎の洞察 (創元クライム・クラブ)

学生アリスシリーズの短篇集。

アリスが大学に入学して江神と出会い推理小説研究会に入ってから翌年の春にマリアが入部するまでの1年間の出来事を追った9編の作品が収録されている。

面白かった。

謎そのものよりも研究会のメンバーたちによって語られる「ミステリー論」が楽しかった。
こうやって結論が出ない話を延々と(作品中に出てくる言葉を借りれば「無為」に)続けられるのは学生の特権だという気がするな。
そういう空気感をとてもうまく表現している作品だと思う。

9編の中では、アリスと江神が2人だけで大晦日の夜を過ごす「除夜を歩く」が好き。
望月の書いたミステリー小説を肴にその謎解きをしつつ、その中で交わされるミステリー論。
更に京都の大晦日の風物詩、八坂神社の「おけら参り」の様子が描かれる。
新年を迎える高揚と、同時に往く年を見送る静けさに満ちた静謐な空気が漂う雰囲気がとてもよかった。

著者のあとがきによればこのシリーズは「長編五冊と短編集二冊で完結させるつもりでいる」とか。
今までに長編が四作出ているようだけど、私はこのシリーズ、短編をいくつか読んだだけで長編は未読なので今度挑戦しよう。
まずはこの作品の中でも何度も出てくる矢吹山を舞台にした事件『月光ゲーム』かな。
ちなみに五冊目の長編はまだいつ出せるか未定、とのこと。
また、短編集も今回の作品がなんと27年後し(!)だということなので、(そこまで時間は掛けられないにしても)次はまだしばらく先になりそう…かな?
いずれにしても楽しみに待ちたい。

<収録作品>
瑠璃荘事件 / ハードロック・ラバーズ・オンリー / やけた線路の上の死体 / 桜川のオフィーリア / 四分間では短すぎる / 開かずの間の怪 / 二十世紀的誘拐 / 除夜を歩く / 蕩尽に関する一考察

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