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2013年8月の9件の記事

2013/08/31

中島要/ひやかし

ひやかし

江戸・吉原の遊女たちとその想い人、家族たちの姿を描いた短編集。
吉原に身を置く様々な立場の女達の周辺が丁寧に、でもスッキリとしたリズム感のある文章で描かれていて読みやすかった。
中島さんの作品はこのところ何冊か読んでるけど、文章のテンポはこの作品が一番好きだな。

5編の中では大見世の花魁・朝霧を主人公にした「色男」が好き。
大店の主人で朝霧を根引きしようとする清右衛門とその甥で貧乏旗本の伊織。更にかつて朝霧が本気で惚れた伸太郎の三人の男たちに対する花魁の心の動きが印象的。
また、殆ど他の人物の会話や回想の中にしか出てこない伸太郎が最後には非常に印象に残る設定になっているのが面白かった。

最終話「夜明」のラストニ行も秀逸。
このラストのおかげで全体が読後感のいい作品になった。

<収録作品>
素見(ひやかし) / 色男 / 泣声(なきごえ) / 真贋 / 夜明

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2013/08/27

小路幸也/蜂蜜秘密

蜂蜜秘密

世界によってその存在を守られている、誰のものでもない村<ポロウ>。
ここにだけ咲く花からここにだけ生息する蜜蜂が摂る蜂蜜は人の病や傷を癒やす効果があると言われていた。
その溢れる自然と蜂蜜を守り育てている静かな村に、ある日一人の少年がやってきた-。

タイトルと装丁から「恋愛ものかな?」と思って読み始めたら、少年少女が出てくるファンタジーだった。なんとなく意外。
でも、小路さんの独特の柔らかい、優しい文体が静かで平和な村を舞台にした物語にあっていてとても読みやすかった。

クライマックスの、敵(?)と対峙するシーンがちょっとひとりよがりな展開で盛り上がりに欠けたのが残念だったけど、きれいな文章でゆったり優しい気持ちになれる素敵な物語だった。
これは児童書なのかな?

表紙の装丁も好きだけど、1枚白いページをめくったあとに出てくる、表紙と同じデザインが白で印刷されたトレペのような半透明な紙が入ってるのがすごく好き。
そういえば昔の本ってこういう紙が挟まっていたような記憶が…。
ページ中の小さいイラストもすごく可愛かった♪

できればジャック視点の物語も読んでみたいな。

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2013/08/25

石持浅海/カード・ウォッチャー

カード・ウォッチャー

塚原ゴム株式会社の研究員・下村が深夜のサービス残業中に椅子から落ちて手首を負傷。
それが原因で研究所に「カード・ウォッチャー」こと労働基準監督署の臨検が入ることに。
慌てて準備する研究総務の米田と小野。
そんな2人の前に研究員の死体が…。

前半の会社側と労基署側のやりとりも興味深かったし、後半の研究員の死の真相を暴く展開も面白かった。
(何が原因かは途中で分かっちゃったけど)

説明的な内容を違和感を感じさせずに自然に物語に取り込んでいく文章が相変わらず巧い。
更に登場人物の心の動きもきちんと丁寧に描かれていて、読み応えがあった。

最後の一人が帰ってきたところの描写がうまかったなあ。
その人物のその後を考えると泣けてしまうけど…そこまで書かないのがまた巧い。
これはシリーズ化されないのかな。是非また読みたい。

この会社は会社としてやってることはブラックだけど(サービス残業や勤務中の軽微な事故などの申告漏れ、危険な機器の安全配慮不足など)社内の人の考え方や応対は比較的まともだってところが、却って怖さを表現していたように思う。
その会社にしかいないとそれが当たり前って思っちゃうのかもね。

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中島要/晦日の月 六尺文治捕物控

晦日の月 六尺文治捕物控

日本橋の名親分として名高い十手持ちの辰三が上方を荒らしまわる盗賊「名なしの幻蔵」一味を追ったまま突然姿を消してから半年。
その留守を預かり島の見回りを引き受けた子分の文治と、辰三の娘・お加代が事件の謎を解く時代ミステリー。

十手持ちとして文治が出くわす数々の事件と、突然消えた辰三の行方を探るという2つの内容が同時進行する形。
事件自体は面白かったけど、そこに関わる登場人物たちの描かれ方が殺伐としていて共感出来る人がいなかった。
特に辰三の娘・お加代は可愛げがなく、セリフが煩くてイライラした。
いくら「美人で頭がいいけど口喧嘩なら男にも負けないキツイ性格」という設定でも、「その反面~」みたいな描写がなかったら全然魅力的に思えないんだけど。
しかも相手役の文治もイマイチ頼りないし…。
もうちょっと2人の関係に、気持ちが通じるほのぼのする部分が欲しかったな。

あと、何より終わり方が唐突すぎる。
多分シリーズ化されるんだろうけど、だとしてももうちょっとこれはこれで一段落、という終わり方が出来たような気がするんだけど。

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2013/08/24

出久根達郎/猫の似づら絵師

猫の似づら絵師

勤めていた貸本屋が左前になり暇を出された銀太郎と丹三郎。
今夜寝るところもなく困っていた二人に声を掛け長屋を世話してくれた源蔵の発案で銀次郎は猫の似顔絵を描く商売を始める。
御用聞きに回る銀太郎が出くわす厄介事を源蔵たちが解決する…という話。

その日暮らしなのにのんびりしていて気がいい銀太郎と貧乏神売りの丹三郎、饂飩が好きで毎日作っているのに全然上達しない源蔵などキャラや内容は面白いし、セリフもちょっと落語を思わせるような軽快さで読みやすい。
ただ、それに対する地の文の反応が妙に淡白であまりツッコミがないのでそのままスルーっと流れてしまう感じだったのが残念。
もうちょっと内容に緩急があったほうがよかったな。

途中にさりげなく出てくる当時の風習、風俗は今まで知らなかったことが多く興味深かった。
夏は布団も火鉢もいらないし着物も単衣だけでいいので家財道具を全部質に入れてそのお金で仕事をせずに涼しくなるまで過ごす、という描写にビックリw
江戸庶民、自由すぎるw

日がな一日働きもせず趣味の(不味い)饂飩づくりをして、絵が驚くほど上手く、知恵も回る…という謎めいたキャラクターの源蔵の正体は何だったのか気になる。

途中に挿入された中一弥さんの挿画が、軽いタッチなのに線がしっかりしていて素敵だった。
中さんは今年103歳!
まだ現役で描いていらっしゃるのかしら。素敵だな。
作家の逢坂剛さんのお父様とのこと。

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2013/08/12

中島要/藍の糸―着物始末暦2

藍の糸―着物始末暦2 (ハルキ文庫 な 10-2 時代小説文庫)

シリーズ2作目。

物語自体は「着物」にまつわる話ではあったけど、前作ほど余一の生業である「着物の始末屋」としての技術は前面に出ていなかったのが残念。
ただその分全体的には物語にまとまりがあって前作よりも読みやすかった。

登場人物たちそれぞれの心情が行動やセリフに丁寧に描かれていたし、結末も温かさがあって読後感もよかった。

縮まりそうで縮まらない余一とお糸の関係が気になる。
お嬢さんのお玉がけっこうしっかり者だったのが印象的。
相変わらず見当違いなバカ息子ぶりを発揮している綾太郎には勿体なさすぎる。

<収録作品>
藍の糸 / 魂結び(たまむすび) / 表と裏 / 恋接ぎ(こいつなぎ)

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里見蘭/さよなら、ベイビー

さよなら、ベイビー (新潮文庫)

母親の死をきっかけに引きこもりになった雅祥。
ある日父親が「知り合いから預かった」と赤ん坊を連れ帰って来て面倒を見始めるが、その最中に急死してしまう。
謎の赤ん坊と二人だけで取り残された雅祥の奮闘と複雑に絡み合う人間関係を描いた長編小説。

面白かった。
引きこもりの青年が他人、それも言葉の通じない赤ん坊と二人きりで残されてしまった状況での心情や行動、そしてそれが時間の経過によって変化していく様子がとても丁寧に描かれていて説得力があった。

二人を取り巻く人間関係はちょっと複雑過ぎるし、時間関係とかわざとわかりにくいように書いてあるのでなかなかすんなり話が見えてこないけど、それでも途中で飽きさせることなく最後まで引っ張る力はあった。
赤ん坊の存在によって変わっていく雅祥の姿が印象的だった。

ただ、年上の従姉妹の呼び名がなんで「しーちゃん」だったのかが判らなかった。
どこかに説明あったのかな?

スカイエマさんのイラストの表紙も印象的。

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2013/08/09

高橋克彦/紅蓮鬼

紅蓮鬼 (角川文庫)

人の身体に取り憑き異性とまぐわうことで宿主を替えてゆく淫鬼と、深い恨みを抱いたまま大宰府に眠る人物の墓から淫鬼に呼び出された怨鬼。
この2匹の鬼によって京の都は蹂躙されようとしていた。
その気配を察知した加茂一族の末裔・忠行と大叔父・忠峯の2人の鬼退治が始まる-。

エロい鬼が主役なので、エロい描写がたくさんあって電車で読むのを躊躇いました(^^;(別に挿絵があるわけじゃないけどw)
淫鬼のほうはすごく性格が悪くてすんごいヤなヤツなんだけど、怨鬼のほうはけっこう剽軽で面白かった。
(高橋さんはこういうキャラ得意だよね)
と言っても怨鬼だって、かまいたちで何の罪もない人間をガンガン殺しちゃうんだから「いいヤツ」ではないわけだけど。
対する鬼祓いの家系、加茂さんちの2人はちょっと真っ当すぎてイマイチ面白みに欠ける感じ。
もうちょっと個性があってもよかったんじゃないかな。

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2013/08/04

宮部みゆき/<完本>初ものがたり

<完本>初ものがたり (PHP文芸文庫)

本所深川一帯を預かり「回向院の旦那」と呼ばれる十手持ちの茂七親分の活躍を描いた短編集。

まるで映画かドラマを見ているかのように文字が頭のなかでするすると映像に変換されていく心地よさと、その世界の中で紡がれてゆく人の世の優しさ切なさを堪能した。

この作品は’97年に文庫化された作品に、新作3篇を追加した作品とのこと。確か読んだはずの元の作品の内容も(例によって)記憶になく(^^;、全編新しい気持ちで楽しめた。

どの作品もその季節ならではの「初もの」と、四季おりおりの江戸の風習、人々の生活の様子が丁寧に描かれていて事件の内容だけでなくそういった周辺を読むのも楽しい。
そうした歴史を踏まえた記述の中に宮部さんオリジナルと思える工夫が出てくるのも素敵。
特に「鬼は外」での、節分で追い出された鬼の居場所のために椅子を一つ開けて置く稲荷寿司屋のエピソードがとてもよかった。

複雑な事件ではなく、人と人のすれ違いとか思い込みとかちょっとした違和感を物語に仕立て上げるのが本当に巧い。
そしてそれに対する茂七親分の落としどころの見事さ。
手下の二人、若くて落ち着きがないけど愛嬌があって疾走っこい糸吉と、四十過ぎで前は大店の番頭という経歴を持つ体つきも物腰もゆったりした源三という組み合わせも絶妙だった。

更に(最初にも書いたけど)文章が読んだ瞬間に違和感なく映像に転化されるのが素晴らしい。
まるで自分もその中のひとりであるかのようにあっという間にその世界に入り込んでしまえる。
素晴らしい才能だと思う。
(ただ、その圧倒的な筆力が逆に私を宮部さんの最近の現代物から遠ざけている原因でもあるのだけど。(リアルすぎて読めない…(T_T)))

謎の稲荷寿司屋の親父の正体や船宿のは結局不明なままのエンディング。
あとがきによると「今後は他のシリーズと合わせて、多くの登場人物をにぎやかに往来させながら、ゆっくり語り広げていきたい」とのことなので今後の展開が本当に楽しみ。
個人的にはまだ名前しか出てこない茂七の若い上役・加納新之介の姿も見てみたいところ。
あと、源三の昔の話とかも読んでみたいなあ。

<収録作品>
お勢殺し / 白魚の目 / 鰹占千両 / 太郎柿次郎柿 / 凍る月 / 遺恨の桜 / 糸吉の恋 / 寿の毒 / 鬼は外

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