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2013年10月の4件の記事

2013/10/27

小林恭二/カブキの日

カブキの日 (新潮文庫)

年に一度の顔見世興行を見るために両親とともに琵琶湖の湖畔に建つ世界座を訪れた少女・蕪は、座主の勧めで若衆の月彦とともに劇場の中を探検に出掛ける。
一方、舞台の上では伝統を重んじるあやめと若衆上がりの京右衛門の戦いが始まろうとしていた。

再読。面白かった!

前回読んだのは10年以上前。
物語のアウトラインは覚えていたものの、詳細は霧の中だったのでそれも含めて楽しく読めた。
というか、むしろ今回のほうが感動したかも。

前回は蕪と月彦の冒険の様子が印象的で、歌舞伎を巡る役者同士の戦いにはそんなに気持ちが動かなかったけど、今回は舞台の上での京右衛門の覚悟と、それを自分の信じる歌舞伎のために覆そうとするあやめの執念のぶつかり合いの凄絶さが心に残った。
あの命を賭けるほどの戦いがあったからこそのエンディングなんだな。
(ただ、あやめ側の攻撃の仕方が直接的でないのと、ちょっとありきたりだったのが今ひとつだったけど)
荒唐無稽な話ではあるけど、感動的。

これは「歌舞伎」が見た夢の話なのかも。

「客が望む最大のものは伝統に則った筋目正しい藝でもなければ、いわゆる新しい演技でもない。彼らは普段見ることの出来ない高度な生の形式が、不意に舞台上で顕現したとき、文字通り熱狂するのだ。受けをとるというのは結局そういうことなのだ。」(『カブキの日』p317)

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2013/10/21

放課後探偵団

放課後探偵団 (書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー) (創元推理文庫)

'80年代生まれの新人作家5人が描く学園を舞台にしたミステリーアンソロジー。
執筆陣は相沢沙呼、市井豊、鵜林伸也、梓崎優、似鳥鶏の各氏。
どれもそれぞれ個性的で楽しかった(^^)

似鳥鶏「お届け先には不思議を添えて」
『理由あって冬に出る』の伊神先輩+葉山くんが登場。
相変わらずキャラの設定が上手い。
今回は英研会長の辻さんがよかったな~w
謎自体はややこしくて途中でよく判らなくなっちゃったんだけど、雰囲気がよかった。

鵜林伸也「ボールがない」
初読の作家さん。
あまり考えるのが得意そうじゃない野球部員がなくなったボールの行方を「ああでもない」「こうでもない」と推理合戦する様子が楽しかった。
結末も青春してて可愛い。

相沢沙呼「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」
こちらも初読。
よく名前を見かけるので何冊かは読んだつもりでいたけど、過去ログを当たってもまったく出てこなかった(^^;
デビュー作に出てきたというマジックをする女子高生と彼女に恋する男の子のバレンタインメモリー。
ちょっとヤキモキするけど、甘酸っぱい結末でマル。

市井豊「横槍ワイン」
こちらは逆に初読かと思っていたら読んだことありました!
「聞き屋」の人だったのねw
今回も聞き屋の柏木と悪友の川瀬が登場。
学園ものならこのくらいのスケールの話のほうがまとまりがよくて好きだな。
鎧坂女史の人物設定が印象的だった。

梓崎優「スプリング・ハズ・カム」
今までの4編は全部登場人物が現役の学生だったけど、最後の梓崎さんのだけはかつて学生だった人物たち。
同窓会で15年ぶりにあった友人達が高校の卒業式で起きた謎を解く話。
ミステリとしてはちょっと反則かなと思える設定だけど、雰囲気は好きだな。
切ないラストが印象的。

アンソロジーは作家によって出来にバラつきがある場合が多いけど、これはとてもよくまとまったよい作品集だった。
舞台が学校で探偵役も学生なので内容が軽めなのは否めないけど、どれも設定を生かした生き生きとした作品に仕上がっていたと思う。

それぞれの作家の作品の扉絵がその作家の自作のシリーズを担当してるイラストレーターの作品になっていた(少なくとも似鳥さん、相沢さん、市井さんはそうだった)のもよかった(^^)

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2013/10/09

似鳥鶏/パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から

パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から (幻冬舎文庫)

気弱な性格が災いして警察に退職願いを出して実家の喫茶店を手伝っている智。
しかしその有能さから退職ではなく休職扱いになっている智を職場に戻すために、大学の後輩で同じ警察の秘書課に勤務する直ちゃんがやってくる。
「上司に居場所を知らせますよ」という脅し文句を武器に復職を迫る直ちゃんによって、智とその兄の季(みのる)が無理やり事件に巻き込まれて行く話。

面白かった!登場人物の設定がみんなしっかりしてて読みやすかった。
特に直ちゃんのキャラは素晴らしい。
「~ッスか」というヤンキー喋りと誰にでもグイグイ行く性格に最初はちょっと引いたけど、読んでいくうちにどんどん好きになってた。
何でもアリの無鉄砲ように見えてその実きちんとした計算されている言動や、清濁併せ呑む思考が印象的だった。
今は本部長の懐刀として活動してるみたいだけど、どんどん抜擢されて幹部になっていくんじゃないかなあ。

そして物語は最初は軽めの短編のように見えながら、徐々にその後ろにある暗い場所に導かれていく構成。
最初と最後の印象が随分違ったけど、そこにまったく違和感がないのが凄いな~と思った。
続編はあるのかな。
直ちゃんとおにいちゃんのその後が気になる。

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2013/10/03

西條奈加/朱龍哭く 弁天観音よろず始末記

朱龍哭く 弁天観音よろず始末記

下町の長屋で長唄の師匠をしているお蝶と、亡き父の跡を継ぎ八丁堀同心となったお蝶の腹違いの兄に嫁いだ沙十(さと)。
義理の姉妹である美人2人が持ち込まれる騒動を解決する連作時代小説。

読み始めは、気風が良くて真っ直ぐな気性の妹と、おっとりしてるけど実は薙刀の名手の姉の2人組が周りを巻き込んで謎を解決する軽めの時代物(短編)かと思ってたのに、読んでたらだんだん重い話になってきちゃって途中で手が止まってしまい読了までに時間が掛かった。
途中、何が起きているのかがなかなか明かされずに不穏な雰囲気だけが広がっていく場面がちょっと長めに続くので、そこがキツかったかな。
でもそこを過ぎて物語が真相究明と解決に動き出すと、一気に盛り上がって面白くなった。
山場の敵方との対決シーンも緊迫感があってよかった。

物語の性質上仕方ないんだろうけど、誰が味方で誰が敵かなかなか判らないのがけっこうストレス。
(普通はそこが面白いところなんだろうけど、へなちょこな私は緊張感に耐えられなくなってくるのであった…(T_T))
でも最後はそのあたりの事情も含めてきちんと伏線を回収しての明るいエンディングで読後感はよかった。

<収録作品>
はなれ相生 / 水伯の井戸 / 手折れ若紫 / 一斤染(いっこんぞめ) / 龍の世直し / 朱龍の絆 / 暁の鐘

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