小林恭二/カブキの日
年に一度の顔見世興行を見るために両親とともに琵琶湖の湖畔に建つ世界座を訪れた少女・蕪は、座主の勧めで若衆の月彦とともに劇場の中を探検に出掛ける。
一方、舞台の上では伝統を重んじるあやめと若衆上がりの京右衛門の戦いが始まろうとしていた。
再読。面白かった!
前回読んだのは10年以上前。
物語のアウトラインは覚えていたものの、詳細は霧の中だったのでそれも含めて楽しく読めた。
というか、むしろ今回のほうが感動したかも。
前回は蕪と月彦の冒険の様子が印象的で、歌舞伎を巡る役者同士の戦いにはそんなに気持ちが動かなかったけど、今回は舞台の上での京右衛門の覚悟と、それを自分の信じる歌舞伎のために覆そうとするあやめの執念のぶつかり合いの凄絶さが心に残った。
あの命を賭けるほどの戦いがあったからこそのエンディングなんだな。
(ただ、あやめ側の攻撃の仕方が直接的でないのと、ちょっとありきたりだったのが今ひとつだったけど)
荒唐無稽な話ではあるけど、感動的。
これは「歌舞伎」が見た夢の話なのかも。
「客が望む最大のものは伝統に則った筋目正しい藝でもなければ、いわゆる新しい演技でもない。彼らは普段見ることの出来ない高度な生の形式が、不意に舞台上で顕現したとき、文字通り熱狂するのだ。受けをとるというのは結局そういうことなのだ。」(『カブキの日』p317)
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