三木笙子/金木犀二十四区
かつての支配者が園芸を愛し、それに応えてそこに住まう諸侯たちが数々の庭園を作ったため現在でも「花の都」と呼ばれる東都。
その首都である二十三区から少し離れたところにその町はあった。
樹齢千二百年の金木犀がご神木の神社を擁し「金木犀二十四区」と通称される小さな町で祖母と2人花屋を営む青年・秋。
ある日、店に山伏の修行をしているという青年・岳志がやってくる。
岳志の目的は「天狗を退治すること」だった-。
残念ながら今ひとつ。
前半は面白かった。
秋と岳史、そしてあとからやってきた陰陽師の流れをくむ天文学者・敦志も加わっての噛み合ってるのかいないのか分からないような微妙なやり取りとか、二十四区の穏やかな町の様子とか。
そこで起きる事件とその謎解きも物語にふさわしく無理のないものであったと思う。
ところが後半も同じように進むのかと思ったら急に雰囲気が変わってしまい、その雰囲気に馴染めないまま終わってしまった印象。
後半出てきた敵役の大倉のキャラがどうしても好きになれなかった。
加えて内容にあまり説得力がなかったのも原因かも。
もともと三木さんの作品って会話で話が進んでいくという印象が強かったけど、この作品はその傾向が更に顕著だったように思う。
それなのに、その内容に説得力がないのでは話が上手くまとまるはずはない、というか。
だって、人ひとりをどうにかしようとしてるのに、あんな口先だけの話で納得させられるとは思えないんだけど。
「証拠がない」のはお互い様じゃないの?としか思えなくて、全然共感出来なかった。
なので、それに動揺しちゃう秋たち、特に冷静で情報に強そうな敦志までその口車に乗せられそうになることがどうしても納得できなかったんだよねえ。
まあ、もちろん指摘されてる本人には切り札があったからそれを回避出来たわけだけど、その切り札にしても彼にとって(読者にとっても)気分のいいものではなかったのもマイナスポイント。
そういう事情はあるんだろうけど、あの態度はないんじゃないのかなあ。
一瞬でも彼を思う気持ちが表現されていて欲しかった。
それに秋のおばあちゃんの存在がちょっと中途半端だったのも気になった。
何をどこまで知っているのか、あるいは知らないのかが判然としない存在。
なので何となく最後に活躍してくれるのかと思ったら、そうでもなく最後まで判然としないまま終わってしまったのはどういうこと。
あの秋の窮地にこそ、おばあちゃんが出てくるべきじゃないの?と思ったんだけど。
秋の持つ「靡」という特質も結局は何に由来するものなのか、どのくらいの能力なのか曖昧なまま終わってしまったしねえ。
ファンタジーのふんわりした部分と、現実的なドロドロしてる部分が上手く融合できてなかったような気がする。
舞台設定、人物設定はよかったので非常に残念。
個人的には敦志とおばあちゃんは最初から全部知っていて、最後はこの2人が全面解決するという展開で読みたかったな。
ところで樹齢1200年の金木犀ってホントにあるんですねえ(・・;)
■静岡県三島市の三嶋大社
花の盛りにはどんな香りがするんだろう。
一度見てみたいな。
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