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2014年6月の8件の記事

2014/06/29

坂木司/僕と先生

僕と先生

地方の田舎出身で怖がりの大学生・二葉と都会育ちで頭がよくコミュ力も抜群の中学生・隼人を主人公にした日常の謎系ミステリー。

『先生と僕』の続編。
お気に入りの作品で続編をずっと待っていたので、6年ぶりの再会は嬉しい限り。

冒頭の「レディバード」、何となく曖昧なまま終わってしまい「え?これで終わり?」と思ったら犯人がその後キーパーソンとして他の話にも出てくる設定。
なるほど。

今回は二葉の大学の推理研究会のメンバーも巻き込んでの事件が多かった。
物語が広がった一方で、登場人物が増えたので分かりにくい部分もあり。

しかし、いくら都会っ子だとはいえ隼人はちょっとスレ過ぎだし、いくら田舎っ子とはいえ二葉はちょっと鈍すぎだよね~という感想は8年前と変わらなかったw ま、そこが魅力なんでしょうけど(^^;

<収録作品>
レディバード / 優しい人 / 差別と区別 / ないだけじゃない / 秋の肖像

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2014/06/26

田中啓文/鍋奉行犯科帳 道頓堀の大ダコ

道頓堀の大ダコ (集英社文庫)

シリーズ2作目。

今作も軽快で読みやすく楽しかった。
ただ前作よりも話を盛り込み過ぎて分かりにくくなっている部分もあった。
キャラとテーマだけで楽しいので話はもっとシンプルでいいのにな。
特に4本目の「長崎の敵を大阪で討つ」はちょっと無理があったような…。

太郎をめぐる恋の鞘当ても当人たちだけでやってるならいいんだけど、母親が微妙に絡んでるのはあまりいい感じがしない。

でも、ただの大食らいのダメ奉行に見える久右衛門が時折見せる部下や家人を思いやる言動は印象的。
特に「地獄で豆腐」での喜内とのやり取りは泣けた。

<収録作品>
風邪うどん / 地獄で豆腐 / 蛸芝居 / 長崎の敵を大阪で討つ

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2014/06/21

君と過ごす季節 春から夏へ、12の暦物語

君と過ごす季節 春から夏へ、12の暦物語 (ポプラ文庫 日本文学)

二十四節気のうち春から夏にかけての12の季節をテーマにしたアンソロジー。
執筆陣は原田ひ香、大島真寿美、栗田有起、宮崎誉子、小手毬るい、川本晶子、西加奈子、藤谷治、原宏一、三砂ちづる、大崎梢、中島たい子の各氏。

季節がテーマなのに、季節感をあまり感じない作品もいくつか。
私の感覚が鈍いのかもしれないけど。
タイトルも二十四節気の名前だけがポンと書いてあるだけでちょっとそっけない。
簡単でいいのでその名前の由来や意味が書いてあるとよかったな。

作品で好きだったのは西加奈子さんの「立夏」、藤谷治さんの「小満」、原宏一さんの「芒種」。
西さんのは設定も内容もすごく変で面白かった(笑)
藤谷さんのは綺麗な薔薇が実はあんな会話をしているという落差が面白い。そして野滝と僕の関係が謎なところも。
そういう点で行くと原さんのは正統派かも。ちょっととぼけていて最後にじんわりくる話。
ネコさんが元気に出所出来ますように。
あと淡々と日々を描いてるだけで事件も何も起こらない宮崎誉子さんの「春分」もよかった。

<収録作品>
原田ひ香:立春 / 大島真寿美:雨水 / 栗田有起:啓蟄 / 宮崎誉子:春分 / 小手毬るい:清明 / 川本晶子:穀雨 / 西加奈子:立夏 / 藤谷治:小満 / 原宏一:芒種 / 三砂ちづる:夏至 / 大崎梢:小暑 / 中島たい子:大暑

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2014/06/20

門井慶喜/ホテル・コンシェルジュ

ホテル・コンシェルジュ

京都にあるホテルのベテランコンシェルジュと新米フロント係がスイートルームに長期滞在する財閥のぼんぼんの持ち込む厄介事を解決する連作短編集。

門井さんの作品はテーマは面白そうで興味を惹かれて読み始めるんだけど実際に読んでみると「なんか違う」と思うことが多い。
残念ながらこの作品もそうだった。

まず何よりも桜小路がスイートに長期滞在している理由が納得出来ない。
「留年を繰り返している大学を卒業するために甘やかされている自宅を出て勉強に専念する」という理由付けだけど、その割に勉強しているような気配はなく、適当で優雅な生活を送ってるようにしか見えない。
しかもその滞在によって生じる月に100万円以上にもなる費用をお金に細かそうな伯母さん(桜小路の父の姉)が出しているというのも。
あの伯母さんならもっと効率的な方法を考えそうなものだけど。
あと、そんなお金持ち一族の惣領息子であるにもかかわらず、ホテルのコンシェルジュの存在も知らなかったというのも。
そんな具合に設定に全然納得出来ないまま進むのでずっと気持ち悪かった。

探偵役のコンシェルジュ・九鬼の人物設定も最初から「有能」としてしまったがためにステロタイプの無個性な人になってしまったような気がする。
他の登場人物(助手役の新人フロント・麻奈、桜小路の伯母のあき子など)も共感出来る登場人物がいなくて残念。

タイトルから、もうちょっと落ち着いた雰囲気の重厚な物語を期待してたんだけどな。

<収録作品>
みだらな仏像 / 共産主義的な自由競争 / 女たちのビフォーアフター / 宿泊客ではないけれど / マダムス・ファミリー

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2014/06/17

石持浅海/人柱はミイラと出会う

人柱はミイラと出会う

人柱、お歯黒、参勤交代…そんな習慣が現在も当たり前に実生活に入り込んでいるというパラレルな日本の北海道を舞台にした連作短編ミステリー。

面白かった!
探偵役が「人柱職人」って、何ですかソレ、という感じwその発想力が素晴らしい。

物語世界に登場する「人柱」「お歯黒」「参勤交代」などの風習は、今の日本には(基本的に)残っていないけどたいていの日本人なら大まかな知識は持っているという内容。
これらのテーマの取り方も絶妙で巧い。
しかもそれらの風習の取り入れ方がいかにも理に適っていて、「確かに今でもそれが存在していたらそんなふうに活用されていたかも」って思わせられる部分があった。(特に黒衣とか鷹とか)
また、そのテーマを活かした上でミステリとしてもきちんと成立してるのがさすが。

謎解きのほうはいつもの石持作品同様、ちょっとした違和感をきっかけに博識で勘が鋭い探偵がどんどん解決していってしまうのでアッサリといえばアッサリだけど、私はこのスムーズさがけっこう好き。

探偵役の人柱職人・東郷は頭脳明晰、冷静で紳士的、包容力もある素敵なキャラ。
彼に好意を抱くアメリカからの留学生リリーやステイ先の一木家の人々など他の登場人物のキャラ設定もしっかりしていて楽しく読めた。

ラスト、リリーと共にアメリカに渡り異国の風習に触れた東郷が、日本での活躍とは裏腹に呆然と固まっているシーンで終わっているのも洒落ていた。

アメリカでの話でも、里帰りしてからの話でもいいから続きが読みたいな~。

<収録作品>
人柱はミイラと出会う / 黒衣は議場から消える / お歯黒は独身に似合わない / 厄年は怪我に注意 / 鷹は大空に舞う / ミョウガは心に効く薬 / 参勤交代は知事の努め

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2014/06/09

今野敏/連写 TOKAGE3 特殊遊撃捜査隊

連写 TOKAGE3-特殊遊撃捜査隊

シリーズ3作目。
バイクを使った連続コンビニ強盗の捜査に上野と涼子が加わったトカゲチームが参加する話。

相変わらずテンポのいい展開でどんどんページが進んで一気読み。
前はちょっと頼りない感じだった上野が随分成長した印象。
涼子姐さんは今回も超クールでカッコ良かったw

今野作品を読むといつも思うけど、犯人側の描写がほとんどないのにこんなにグイグイ引っ張られてしまうのが不思議。
一方的な見方だけだったら途中で飽きそうなものだけどそうならないのが凄いと思う。
情報の出し方が上手いせいかな。

トカゲと交通機動隊がうまくチームを組んで動いているのにも好感が持てた。

新聞記者の2人組は面白いけど、同じような会話が堂々めぐりしていてちょっとウザい部分もあり。
それと湯浅は年齢(35歳)の割に考え方が古すぎるのでは。
今どきパソコンも使えない新聞記者ってアリ?

犯人の目的がハッキリするまでの展開に比べて、逮捕までの流れがアッサリしすぎていていたのがちょっと残念だったかな。
でもスピード感があって読みやすく面白い作品だった。
次回作も楽しみ♪

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2014/06/06

大島真寿美/ゼラニウムの庭

ゼラニウムの庭

成長速度が異常に遅い体質を持って生まれたがために世間に隠されて生きてきた嘉栄(かえい)。
その嘉栄の双子の妹・豊世(とよせ)が晩年になって語った一族の物語を、後に作家となる孫のるみ子が綴った物語。

うーん、残念ながらまったく内容を消化しきれずに読み終わった、という感想。文章は読みやすいし内容もよく分かるんだけど、書いてあるすべてのこと、そして人物にほとんど感情移入できなかった。
彼らの感じていた嘉栄に対する畏怖の感情を理解することが出来なかったのが原因かなあ。
もちろん身近にそんな人物がいたら「怖い」「気持ち悪い」と感じるだろうというのは想像できるんだけど、嘉栄は彼らにとっては血縁のある家族なわけだから他人が頭で想像するのとは別の何かがその底にあったのではないか。
その「何か」が掴みきれなかったという感じ。
あと、彼女たちの実家が尋常じゃなくお金持ちの設定だったというのも大きいかも。
あえてそう書いたのかもしれないけど、本当に家族、一族の中だけで閉じている物語だったので、読者としての自分はどの立ち位置にいればいいのかが判らなかった。

るみ子が書いた物語のあと、それを読んだ嘉栄の独白のような文章が付記されている。
全体の9割を占めるるみ子の書いた物語はもしかしたら壮大なプロローグで、その嘉栄が書いた付記こそが本編なのでは。
それを読んだら今までのモヤモヤしたものが晴れるのでは、と期待したけど(少なくとも私にとっては)そうではなかった。残念。
(るみ子の物語を補完する内容ではあったけれど)

スッキリと見通せるのに先の景色が曖昧といったような物語の中で唯一、冒頭の豊世とるみ子の会話の部分が心に残った。
それと最後に出てきた葵も、嘉栄の個性に負けない(というか意に介さない?)サバサバしたキャラでよかった。
人とは違った運命を持って産まれ生きた嘉栄を、恐れずまた敬うこともなく、そのままそういう人として受け入れたという意味では、タイトルにある「ゼラニウム」の名前を付けられた葵こそが嘉栄が求めていた人物だったのかもしれない。

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2014/06/04

有栖川有栖/菩提樹荘の殺人

菩提樹荘の殺人

火村シリーズの短篇集。

相変わらずテンポがよく読みやすい。
火村とアリスのつかず離れずの距離感も絶妙。

今回はいつもよりも警察との連携が密だったような気がする。
どの警察関係者も2人に対して友好的なので「気に入らないと思ってる人はいないのかな」と思っていたら、そのすぐ後にそういう設定の刑事が出てきてちょっと笑ってしまった。
と言ってもアリスが「苦手だな」と感じている様子がチラリと描かれるだけで、露骨に邪魔をしたり喧嘩をふっかけたりして捜査の(ひいては物語の進行の)邪魔をするところまでは行かないバランスが上手い。

若手漫才コンビの片割れが殺される「雛人形を笑え」に火村とアリスの漫才めいたやり取りが出てくるんだけど、これを書きたいがためにこの設定にしたのでは?なんて穿った見方をしてしまった(笑)

<収録作品>
アポロンのナイフ / 雛人形を笑え / 探偵、青の時代 / 菩提樹荘の殺人

このように、私は作中人物たちについて知らないことだらけなのだが、たまに「ああ、そうだったのか」と知る(考えだすのではない)瞬間がある。火村英生の語られぬ過去についても、今はまだ知らないが、いつか突然に知る瞬間がくるかもしれない。(p292 著者あとがきより)

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