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2014年9月の7件の記事

2014/09/29

天祢涼/セシューズ・ハイ 議員探偵・漆原翔太郎

セシューズ・ハイ 議員探偵・漆原翔太郎

有力な国会議員だった父の急死により、跡継ぎとして担ぎ出されたおバカな二世議員・翔太郎とそれに振り回される公設秘書・雲井が事務所に持ち込まれる厄介事を解決する話。短篇集。

ミステリーというほどの謎はないけど、テンポが良く読みやすかった。
一話ごとにきちんとオチが付きつつ、次の話に係る伏線も織り交ぜてあるのも効果的。
そして最後に意外な事実が!という展開もうまい。

ただ、ボンクラなようでいて、いつの間にか問題を解決している翔太郎のことを雲井が「バカなのか、天才なのか」悩んでるシーンが多すぎるのがちょっと鬱陶しかった。(気持ちは判るけどね)

この作品としては綺麗にまとめたうえで更に次に繋がりそうなエンディング。
でも、「東京」と地域限定しちゃうといろいろ規制があるのかも?

…と思ったら、もう次が出てたw

<収録作品>
第一話 公園 / 第二話 勲章 / 第三話 選挙 / 第四話 取材 / 第五話 辞職

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2014/09/23

内館牧子/十二単衣を着た悪魔

十二単衣を着た悪魔

59社から不採用通知を受け取り就職が決まらないまま二流大学を卒業した雷(らい)。
一方4つ違いの弟 水(すい)は京都大学医学部に現役合格。
頭も見た目もよく非の打ち所のない弟に小さい頃から劣等感を抱いていた雷は失意の中ハケンの仕事を続けていたが、ある日突然別の世界に紛れ込んでしまう…。

雷が紛れ込んだ先は平安時代…ではなく、「源氏物語」の世界。
しかも、メインで描かれるのが「源氏」の中では脇役(しかも源氏の敵)として登場しあまりよく書かれていない弘徽殿女御というところが面白かった。
原本ではちょっとヒステリー気味の可愛げのないオバサン扱いの女御を美しい上に頭がよく決断力があり誰にも頼らずに自分の生き方を貫く女傑として描いているのが印象的。
確かに弘徽殿女御サイドから見るとそういうタイプの女性だったのかも。

ただ、それと平行して書かれる雷自身の自分語りが過剰すぎて鬱陶しく、物語に入り込めなかった。
確かに本人にとってはキツイ人生だったのかもしれないけど、同じことを何度も繰り返すのは逆効果だと思うけどな~。

源氏の解釈として面白かったので、雷の感情表現はもうちょっと淡々とした感じのほうがよかったな。

ちなみに雷はそれまで「源氏物語」を読んだことはなく、「あっちの世界」での拠り所は派遣先の源氏物語関連のイベントで渡された「あらすじ本」という設定。
それがすごく細かいところまで出てくるので「どんだけ詳しく書いてあるあらすじなんだよっ!」と突っ込んだ部分が多々ありましたw

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2014/09/17

石田衣良/キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春編

キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇 (文春文庫)

池袋Gボーイズに君臨するキングことタカシが如何にしてキングになったか、という話。

最近本編は随分ご無沙汰してしまっているのだけれど、今回は文庫書き下ろしの番外編、しかも主役はキングだというので「これは読むしかないでしょ!」ってことで読んでみた。
面白かった♪
物語としてはそんなに意外性はないけど、だからこそいつもの登場人物たちの想いや行動、言葉を噛みしめる余裕があった。

この作品の持ち味は何といっても文章だと思う。
今回も弾むように、滑るように、流れるように小気味いいテンポで綴られる文章が本当に気持ちよかった。

それにしてもタカシもマコトも「そういうふうに出来ている」って感じだったのね。
まあ、タカシの場合はそれが開花するために多大な犠牲が必要だったわけで、それが彼にとって幸せだったかどうかは判らないけど。

普通の高校生だったタカシがキングになるためのすべてを高校2年生の夏休み1ヶ月にすべて凝縮したところがよかった。
そしてそれを隣でただ黙って見つめていたマコト。
タカシとマコトの結びつきの深さを改めて感じた一冊。

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2014/09/15

川瀬七緒/水底の棘 法医昆虫学捜査官

水底の棘 法医昆虫学捜査官

シリーズ3作目。今回も面白かった~♪

前作(2作目)は赤堀の行動が(いくら虫絡みとは言え)ちょっと「法医昆虫学」の範疇から外れているのでは?と思えるような行動もあったけど、今回はきっちり死体から採取した虫たちの生態のみで徐々に真相に近づいていく緻密さがよかった。
更にそうした制限された中での行動でありながら、先の読めない期待感と不安感、意外性を失っていなかったのもいい。

岩楯の相棒が1作目に出てきた鰐川だったのも嬉しかった~♪
生真面目でメモ魔のワニさん、岩楯といいコンビ。
出来ればずっとこの2人の組み合わせで読みたいけど、次回はまた変わるんだろうな。
あと、今回初登場の所轄の変人・鑑識 堀之内も面白いキャラ。
また出てきて欲しい!

ところで途中で出てきた↓の話は本当なのかな?(^^;

「昆虫の体液はO型の形成にすごく近いわけ。つまり、AとBの抗原を持っていない。ヒトとの輸血を可能にする研究が進めば、少なくともO型の血液不足問題を解決できる可能性を秘めてるんだよ。だからね、O型の人間と虫との間にはシンパシーがあると思うんだな。(p116より)

もし仮に本当だとしても昆虫の体液を輸血したいとはちょっと思えないけど…(-_-;)
というか、昆虫の体液って1匹あたりどのくらいなのよ。
ヒト一人に輸血するために昆虫何匹必要なんだって話もあるよねえ。
それって昆虫にとっては「いい迷惑」なんじゃ…。

以前「今野敏さんの作品は犯人がほとんど出てこなくて警察側の話ばっかりなのに飽きなくて面白いな」と思ったけど、『法医昆虫学捜査官』も同じタイプだということに気づいた。
そして、精神が軟弱で人の悪意からすぐに目をそらしてしまう私にはこういう話は非常に読みやすくて好き。
(犯罪発生の部分から書き始められると、途中で読むのが辛くなって結末まで辿りつけない場合もあるので)
虫の描写は確かにグロいけど、人間の悪意の描写よりは神経に響かない分私にとっては楽だな。

いずれにしてもこれからも続いて欲しいシリーズ。
なお、岩楯と赤堀はあまり近づき過ぎないほうが好ましい。

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2014/09/13

世界堂書店/米澤穂信・編

世界堂書店 (文春文庫)

作家の米澤穂信氏がセレクトした東西の作家の短編小説集。
すべて国籍の違う作家の作品が15編収録されている。

どれも個性的で面白いし訳文も読みやすかったけど、今ひとつリズムに乗れず読み終わるまでに1週間くらいかかった。
外国文学は読み慣れないせいかな。
巻末の米澤さん本人による作品紹介で「ああ、そうだった」と再度確認。

好きだったのは「シャングリラ」、「私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない」、「トーランド家の長老」あたり。
特に「私はあなたと~」の不条理な設定が印象的だった。
中国の作家・蒲松齢(『聊斎志異』を書いた人らしい)の『連瑣』もよかったな。

日本や東洋に関係する作品が多かったのは、意識してそういうセレクトにしたのかな。

しかし、こうやってアンソロジーでまとまってれば読もうと思うけど、自分で発掘して面白い作家に辿り着くのはホント大変そう。
ここに載ってる作家の作品も多分これ以上は読まないと思う…。

<収録作品>
源氏の君の最後の恋 マルグリット・ユルスナール / 破滅の種子 ジェラルド・カーシュ / ロンジュモーの囚人たち レオン・ブロワ / シャングリラ 張系国 / 東洋趣味(シノワズリ) ヘレン・マクロイ / 昔の借りを返す話 シュテファン・ツヴァイク / バイオリンの声の少女 ジュール・シュベルヴィエル / 私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない キャロル・エムシュウィラー / いっぷう変わった人々 レーナ・クルーン / 連瑣 蒲松齢 / トーランド家の長老 ヒュー・ウェルボール / 十五人の殺人者たち ベン・ヘクト / 石の葬式 バノス・カルネジス / 墓を愛した少年 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン / 黄泉から 久生十蘭

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2014/09/08

山本兼一/利休の茶杓 とびきり屋見立て帖

利休の茶杓 とびきり屋見立て帖

とびきり屋シリーズ最新刊にして最終刊。
短編6編を収録。

物語としてはちょっと輪郭が曖昧でぼんやりした部分があったけど、ゆずと真之介の変わらぬ仲の良さやとびきり屋の奉公人たちの誠実で心温まる仕事ぶりが読んでいて気持ちよかった。
(それに対して、ゆずの親元や茶の湯の若師匠は相変わらずのいけずっぷりでちょっとうんざり)
そういった店の様子と平行して、急激に時代が変わっていく不穏な空気が描かれる。
それは物語のメインではないけれど、だからこそ却って先が見えない不安な空気が京都の町に色濃く漂っていたことが感じられた。

長い時間をかけて人々から愛されてきた「道具」を扱い誠実に商いを営むとびきり屋の人々とそれに関わりなく血を流しながら変わっていく時代。
その先に著者は何を描こうとしていたのだろうか。

数々の伏線を残したまま物語は終わる。
たくさんの物語の種を抱えたまま旅立ってゆかれた山本さんのご冥福を改めてお祈りします。

<収録作品>
よろこび百万両 / みやこ鳥 / 鈴虫 / 自在の龍 / ものいわずひとがくる / 利休の茶杓

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2014/09/02

東野圭吾/マスカレード・イブ

マスカレード・イブ (集英社文庫)

長編『マスカレード・ホテル』の前日譚。
主人公のホテルウーマン・尚美と刑事の新田があの事件で出会う前の姿が描かれる連作短編集。

最初入り込むまでにちょっと時間が掛かったけど、後半はスムーズに読めた。特に最終話はなかなか結末が見えず引き込まれた。
尚美と新田のニアミス具合もいい感じ。

ただ、最初に出てきた「それぞれの仮面」での最後の尚美の相手に対するセリフはちょっとどうかなと思った。
物語としては面白いけど、あんなことホントに言ったらクレームどころの騒ぎじゃないでしょ(いくら相手に弱みがあっても)

あと、重要なこと。
『マスカレード・ホテル』のネタバレがあるので、『~ホテル』未読の方は『~ホテル』から読むことをオススメします。

<収録作品>
それぞれの仮面 / ルーキー登場 / 仮面と覆面 / マスカレード・イブ

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