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2015/03/01

文豪さんへ。近代文学トリビュートアンソロジー

文豪さんへ。近代文学トリビュートアンソロジー (MF文庫ダヴィンチ) (MF文庫ダ・ヴィンチ)

近代文学の文豪6人の短編をモチーフに現代作家6人が書き下ろした短編を集めたアンソロジー。
現代作家作品、その作品についてのインタビュー、文豪作品と並んで収録されている面白い構成。
文豪作品に馴染みのない私でも読みやすく楽しめた。

面白かったのは葉山嘉樹『セメント樽の中の手紙』を下敷きにした貫井さんの『あるソムリエの話』。
最後、苦笑してしまう感じの意地悪な終わり方がよかった。
オリジナルは作家さんの名前も初めて聞いたくらいだったけど、不思議な雰囲気の作品で印象的。

獏さんの『桜の下に立つ女(ひと)』は陰陽師シリーズ。
掌編だけど、ひたすら優しく美しい。
オリジナルから美しさだけ抽出したような。
安吾のオリジナルはさすがの迫力。鬼気迫る感じ。
なのに、その中に穏やかな空気が流れているのが不思議。
読んでいるあいだじゅう「山に来る前、都で他の男と暮らしていた女はどんな女だったのかな」ということをずっと考えていた。

宮部さん×新見南吉はよかった。
どちらも泣いてしまった。
特にオリジナルの初めて雪を見た子狐が初めて体験する眩しさを勘違いして『母ちゃん、眼に何か刺さった、抜いて頂戴早く早く』っていうセリフがとてもよかった。
驚いたのはインタビューで宮部さんが「自分は絵がまったくダメなので小説の中で色や形を表現するのに苦労する」っていう話をしていた部分。
私は宮部さんの作品は十二分に映像的であると思うけど。むしろ映像的でありすぎて苦しくて読めない作品があるくらいだけどな。
やはり才能がある人の目指すところは更に高いのであるなあ、と。

<収録作品>
北村薫『縁側』×夏目漱石『門』 / 田口ランディ『虎』×中島敦『山月記』 / 貫井徳郎『あるソムリエの話』×葉山嘉樹『セメント樽の中の手紙』 / 夢枕獏『陰陽師 花の下に立つ女(ひと)』×坂口安吾『桜の森の満開の下』 / 宮部みゆき『手袋の花』×新美南吉『手袋を買いに』 / 吉田修一『洋館』×芥川龍之介『トロッコ』

己の珠に非ざることを惧れるが故に、敢えて刻苦して磨こうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々として瓦に伍することもできなかった。己は次第に世と離れ、人と遠ざかり、憤悶と慙恚とによって益々己の内なる臆病な自尊心を飼いふとらせる結果になった。人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当たるのが、各人の性情だという。己の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。これが己を損ない、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外形をかくの如く、内心にふさわしいものに変えて了ったのだ。
(中島敦『山月記』)

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