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2015年5月の9件の記事

2015/05/30

高殿円 / 剣と紅

剣と紅

遠州の名門・井伊家の一人娘として生まれながら15歳で髪を下ろし尼となり、その後「次郎直虎」という男名で井伊家を支えた女性の物語。

初読みの作家さん。
本屋で見た文庫の表紙とタイトルが気になったので図書館で借りてみた。
(ただし、図書館で借りたハードカバー版は表紙イラストが違っていて残念。私は文庫版のが好きだな)
読みやすくて一気読み。

いつもの通り、史実の話になっちゃうと関係性、特に姻戚関係が複雑すぎてさっぱり判らなかったけど、それ以外の部分は面白かった。

特に主人公も著者も女性のため、女性同士の関係を描いた部分が多かったのが印象的。
ただ流れに翻弄されるのではなく、その中で自分の役割と生き方をきちんと把握し、たくましく生きていく女性たちの姿が随所に描かれていた。

人に見えないものを見る力を持ち男名を名乗り地頭として家を支えた香(かぐ / 直虎の本名)よりも、政略結婚させられたと見えつつ女性ならではの情報網で生き抜く他の姫たちのほうがしたたかに見えた。

『おなごが攻略で他国へ嫁ぐのはただの悲劇ではない。哀れ、悲劇で終わらせてはならぬ。男が剣で断ち切ったものを血でつなげるのはおなごだけよ。香、そなたも出家したからとて俗世と縁が切れるわけではないこと、よくよく身に染みさせよ』(p220)

『輿入れはおなごのいくさ。紅はおなごの剣。無為に生きる暇などどこにもない。-わたくしはこれから、松下の家で当分いくさにあけくれまする』(p324)

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2015/05/26

西條奈加/六花落々(りっかふるふる)

六花落々

知識を得ることに何よりも心惹かれる質でありながら下級武士という身分によって学問を諦めていた尚七は、ある日偶然藩の重臣である忠常と言葉を交わす。
その出会いが尚七の運命の扉を押し開ける…。

実在の人物をモデルにした作品だけど歴史小説ほど重くなく読みやすかった。
ただ、偶然の出会いによってふいに拓けた新しい環境と家族や周囲の人々との交わりを中心に描かれる前半に対して、(史実だから仕方ないんだろうけど)世の中の動きが中心だった後半はちょっとテーマが拡散してしまった印象なのが残念。
せめて家族の話は最後まで書いて欲しかったな。

作品の紹介文では「尚七と忠常の出会いの話」みたいになってるけど、個人的には尚七が仕えることになる古河藩主・土井利位が好きだったなあ。
特に後半尚七が暇乞いを申し出るシーンの利位のセリフは泣けた。

他の登場人物もみんな強く心優しいのが西條さんらしい。

ちなみにタイトルの「六花(りっか)」は「雪」の異称とのこと。

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2015/05/21

青崎有吾/体育館の殺人

体育館の殺人 (創元推理文庫)

初読みの作家さん。デビュー作らしい。
高校の体育館で起きた殺人事件を、頭と見た目はいいけどアニメオタクで変人の男子生徒が解決する話。

面白かった。
会話主体に進むけど、全体的にテンポが良くて読みやすかった。

探偵役の裏染天馬を始め登場人物もキャラが立っていて楽しかった。
人を喰ったような各章の名前の付け方も、デビュー作なのに途中で「読者への挑戦」を入れてしまう強気+遊びゴコロも嫌いじゃない。
怒涛の謎解きも一気に読めた。

ただ、謎解きメインの話だから仕方ないのかもしれないけど、心理描写とかはちょっと残念な感じだったな~。
何より校内で生徒が殺されたにしてはみんな普通すぎる。
そりゃあみんなパニックになられたら話が進まないだろうけど、そこを考えてもちょっと。

あと、袴田兄妹もなんか兄妹って感じがしなかったなあ。
単に「お兄さん」「妹」って呼んでるだけみたいな印象。
もう一捻り欲しかった。

でも全体的には楽しめたのでヨシ。
この後シリーズで作品が出てるようなので、読んでみよ~っ♪

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2015/05/19

富樫倫太郎/土方歳三(下)

土方歳三 (下)

池田屋から歳三の死まで。

もしかしたらどこかで面白くなるのかも?とちょっぴり期待して読んだけど、残念ながらそのまま淡々と終わってしまった。

「新選組って何?」「土方歳三って誰?」な感じの人にはいいかもしれないけど、やっぱりかなり食い足りない印象。

上巻はまだ歳三が何を考えているのかとか個人的な視点が入っていたから多少感情移入しやすかったけど、下巻はただひたすら戦況を追いかけるだけになってしまっていて読むのが辛かった。
あれもこれも書きたいのは判るけど敢えてどこかを切り取ったほうがよかったような気がするな

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2015/05/14

富樫倫太郎/土方歳三(上)

土方歳三 (上)

ストレートなタイトルだから内容もきっとシンプルなんだろうなあ、と予測した通り、というかそれ以上のシンプルさだった。

でも歳三が11歳当時から始まる作品は初めてだったかも。
2度の丁稚奉公をしくじった経緯が丁寧に描かれていてそのあたりは面白かった。
ただ、丁寧に書いてあったわりにどうしてそういう少年になったかの説得力が今ひとつだったかも。
こんなに少年時代にページを割いていて終わるのかな?と心配したけど、試衛館に居候するようになって以降はかなり飛ばし気味。
上巻で池田屋まで来るとは思わなかった(^^;

シンプルでストレートな物語でありながら「ここでその人出してきますか」的な意外性もあり。
個人的には伊庭八郎くんが出てきたのが嬉しかった♪
(このあと、函館で再会するのね…)

あと古高俊太郎の拷問のシーン、何故そこ丁寧に書くかな…。

浪士組(新選組)の仕組や組織についての説明や、土方、近藤、沖田以外の隊士個人への言及もほとんどないので物語が平面的になっている。
特に浪士組募集に乗って江戸を経ってからは特に史実の列挙が中心になってしまっているので、この後どんな展開になるか少し不安。

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2015/05/12

小野不由美/営繕かるかや怪異譚

営繕かるかや怪異譚

家にまつわる怪異と、それを営繕という手段で鎮める青年の物語。

絶妙。
怖すぎないし、追求しすぎないし、明らかにしすぎない。
怖いもの苦手な私でもスルリと読めるホラー。
読みやすかった。

「家」に顕れる障りについての描写は丁寧に描かれるのに、それに対する営繕屋の青年・尾端についての言及がほとんどないのが面白い。
ただ仕事をするだけという立ち位置が独特で面白かった。

3話目の「雨の鈴」がシンと怖くて印象的。
有扶子と千絵の関係もよかった。

ただ、私があまり「家」というものに興味がないせいか、構造の描写のところは読んでもあまりイメージ出来なかった。
(だからあまり怖さを感じなかったのかも)

こんなホラーならもっと読みたい。続編に期待。

<収録作品>
奥庭より / 屋根裏に / 雨の鈴 / 異形のひと / 潮満ちの井戸 / 檻の外

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2015/05/10

知念実希人/天久鷹央の推理カルテII: ファントムの病棟

天久鷹央の推理カルテII: ファントムの病棟 (新潮文庫nex)

シリーズ2作目。

内容は面白かった。
病気と事件(謎)の絡め方、そして鷹央の導き出す解答も専門的でありながらスムーズで分かりやすく興味深かった。

ただ、登場人物の設定が前回よりも強くなった分、ウザさも増した感はあり。特に研修医の鴻ノ池のキャラはかなり鬱陶しかった…。
あと小鳥遊のグダグダさもどうなのよ、と。
あれじゃあ、鷹央に怒鳴られるのも仕方ないと思うけどな~。
わざとそうしてるのは判るんだけど、緊迫したシーンにもまずお笑いを入れるのはちょっとどうなのかなと。

あと、1話目の「甘い毒」は謎は解明されたし患者の病名もわかったけど、患者は病気が治った後どうなるのかなあという不安が…。
そこまでするのは病院の仕事ではないにしても、そういう設定にしてしまったからには会社の方もどうにかする展開が欲しかった。

3話目の「天使の舞い降りる夜」はズルい展開だなあと思いつつ泣けた。

<収録作品>
甘い毒 / 吸血鬼症候群 / 天使の舞い降りる夜

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2015/05/06

小路幸也/ヒア・カムズ・ザ・サン 東京バンドワゴン

ヒア・カムズ・ザ・サン 東京バンドワゴン

毎年恒例、春のプレゼントが今年も到着!相変わらずのハートウォーミングストーリー in 堀田家を堪能♪

今回のメインテーマは研人の受験。
結果は悲喜こもごもという感じだったけど、そこまでの苦しさや悔しさではなくその周囲の優しい、柔らかい思いやりをそっと届けてくれるのが小路さん流。
これからも研人がどんな大人になっていくのか楽しみ。

あと、カッコ良かったのは花陽ちゃん。
最近、ちょっと後ろに引き気味だったけど、研人の姉貴分として繰り出した切れ味抜群の啖呵の見事なこと!研人だけじゃなく、男性陣みんな斬って捨てていくところが痛快だった。
花陽ちゃんも来年は受験…無事に桜が咲きますように♪

第三話での我南人とその仲間たちの決断も素敵だった。
あと守護神の話も(今読み返して泣いてしまった)。

第四話前半の夏樹くんの話もよかった。
ただひたすら真面目にきちんと生きてる人はもっと評価される世の中であってほしい。
お話の中だけじゃなくって。

ちょっと引いて読んでしまうと、いろんな説明が多くてなかなか物語が始まらないし、本筋に関係のないシーンが多い作品だと思う。
私のようなシリーズ大好きな人にはそういう部分こそが物語の中の堀田家を身近に感じることが出来る「待ってました!」なシーンだけどあまり慣れていない人は余分に感じてしまうのかも。
こういうシーンが好きになれるかどうかで作品のファンになるかどうかが分かれるのかも?なんてことを思ってしまった。
私はもちろん、ずっと続けてほしい。
できれば丸々一話朝食の会話だけってのを読んでみたい(笑)

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2015/05/04

森谷明子/花野に眠る 秋葉図書館の四季

花野に眠る (秋葉図書館の四季)

秋葉図書館の地主でもある秋葉家。
古い時代は荘園主としてその地方を治め、現在も広大な土地を所有する秋葉家の裏山から白骨死体が発見される。
その白骨体の身元を調べていくうちに現在の当主も知らなかった意外な事実が…。

『れんげ野原のまんなかで』の続編。
といっても前作が出たのが10年前なので「田舎の新設図書館で起こる謎を新米司書の女性が解決する日常の謎系ミステリー」程度の記憶しか残ってなくて、当時の記憶を頼りに設定を確認しながら読んだ。

今回の作品は文章自体は読みにくくないんだけど、いろんな情報が錯綜しすぎていて整理しながら読むのが大変だった。
特に百合落雁が行ったり来たりするあたりの話は正直「そこ、必要ですか?」と思ったし、全体的な謎も図書館にはあまり関係なかったような気がしてなんとなく違和感が残った。

図書館の本来の業務、途中に挟まれる本のレファレンスや子どもに本を紹介するシーン、それによってその子が変わっていくシーンはすごくよかった。
これだけで本を1冊書くのは難しいのかもしれないけど、個人的にはこっちを中心にした話が読みたかったなというのが正直なところ。

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