カテゴリー「読了本」の404件の記事

2009/11/03

三浦しをん/風が強く吹いている

風が強く吹いている (新潮文庫 み 34-8)
風が強く吹いている (新潮文庫 み 34-8)

内容(「BOOK」データベースより)
箱根の山は蜃気楼ではない。襷をつないで上っていける、俺たちなら。才能に恵まれ、走ることを愛しながら走ることから見放されかけていた清瀬灰二と蔵原走。奇跡のような出会いから、二人は無謀にも陸上とかけ離れていた者と箱根駅伝に挑む。たった十人で。それぞれの「頂点」をめざして…。長距離を走る(=生きる)ために必要な真の「強さ」を謳いあげた書下ろし1200枚!超ストレートな青春小説。最強の直木賞受賞第一作。

すごく面白かったです。

文章もストーリー展開もキレとスピード感があって、ぐいぐい先へ先へと引っ張られます。
竹青荘のメンバー10人もそれぞれ個性的で、しかもその個性がきちんと描き分けられしっくりとその人物たちに寄り添っているのでそれぞれに感情移入が出来ました。
昨日の朝読み始めて通勤途中やお昼休みにちょっとずつ読んでいたのですがあまりに面白くて続きが気になって仕方ない。
その後、帰宅してから読み始めたら止まらなくなって今日は休みということもあって午前3時まで掛けて読了しました。

私は運動は苦手だし嫌いです。
特に足がすごく遅いので、小さい頃から走ることでいい思い出は一つもなくて体育の授業も運動会も大っ嫌いな子供でした。
なので、大人になって一番よかったのは「無理矢理走らされることがなくなった」ことです(笑))
そんなふうにスポーツとは無縁の生活を送ってしまったため自分がやることはもちろん人がやっているスポーツにもあまり感心はないのですが、お正月に放送している箱根駅伝は何故か毎年(といってもここ数年のことですが)けっこう楽しみに見ています。
(他に面白いTV番組がないというのもありますが(笑))
優秀なメンバーを揃えたチームが圧倒的な強さで勝つという方程式があまり当てはまらず、それぞれのコースを走るメンバーがどんどん代わっていくことで展開が一気に変化する可能性があることや、団体競技と個人競技の2つの特徴を1つの競技の中に合わせ持っているその微妙なバランスを面白く感じます。
また、試合中に生まれる悲喜こもごものドラマもこの競技の魅力。
工程が長く、ランナーが多い分いろんなことが起こりがちですよね。
なので試合終了後に放送される舞台裏ドキュメントなんかも見ちゃったりします(TV局の思うつぼですね(笑))

でも、そう思いつつも自分自身が楽しさを知らないので、心のどこかには「なんだって正月早々こんな寒いところを必死で走ってるんだ、この若者たちは」という根本的な謎があったりするんですよね。
(これはマラソンとか見てても同じ感想を持つのですが)

そんな私にとって、これは「走ることの快感」をちょっとだけ疑似体験させてくれるような作品でした。
特に10人のメンバーがそれぞれの想いを抱きながら与えられた自分のコースを疾走するシーンにたくさんのページを割いてあったのがとても良かったです。 彼らが感じた風の感触の何万分の1かを頭の中でほんの一瞬イメージできたような気がします。

10人のメンバーがみんなムチャクチャいいヤツばっかりだとか、10人のうち7人は陸上経験がないし予選会の半年前から本格的に練習を始めたばっかりなのにこの結果、とか「それはちょっとあり得ないでしょう」ということもけっこうあるのですが、それはそれで「お話」としてアリだ、と思えました。
逆に「こうなるからこそ「小説」なのだ」という気がしますね。

良質な青春小説だと思います。お薦めです。

ちょうど映画化作品が公開中なのでこちらも見てみようかなという気になりました。
ただ、この小説の文体自体が非常に映像的で、読みながらずっと走(カケル)や灰二(ハイジ)たちが走ったり笑ったりケンカしたりする様子を思い描きながら読んでいたので、実際の映像とギャップがあるとガッカリするかも、という心配もあるのですが。

映画「風が強く吹いている」公式サイト

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2009/11/01

'09年11月の読了本

  • 三浦しをん『風が強く吹いている』(新潮文庫)

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2009/10/12

赤川次郎/霧の夜の戦慄 百年の迷宮

霧の夜の戦慄 百年の迷宮 (角川文庫)
霧の夜の戦慄  百年の迷宮 (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
16歳の少女・綾は、父親を不慮の事故で亡くし、スイスの寄宿学校に留学することになった。寄宿舎での1日目、不思議な睡魔に襲われた綾は意識を失う。そして気がつくと、なんと1888年のロンドンで「アン」という名で暮らしていたのだ!街は、殺人鬼(切り裂きジャック)の影に怯えていた。以前からこの事件に興味をもっていた綾は、自分の手で捕まえると意気込むのだが―。時空を超えて繰り広げられるミステリー。

赤川氏の作品を買うのは(多分)初めてです。
(読んだことは何度かあるかも。『ふたり』とか)
買わないことに特に理由があったわけではなく、あまりにもたくさん売っていると却って買う気がしなくなるという天の邪鬼な性格のせいです(笑)
今回は新刊文庫の棚に平積みになっていて、しかもいつもの赤川氏の作品らしからぬ暗いイメージの表紙だったので手にとってパラパラ読んでみて「面白そうかな」と思ったので購入しました。
(文庫版の表紙イラストは、以前読んだ有栖川有栖の『白い兎が逃げる』のカバーを描いたのと同じ牛尾篤さんです。)

両親を失ったあとスイスの寄宿学校に留学した16歳の少女・綾が、現代と1888年のロンドンを行き来して「切り裂きジャック」の正体を突きとめる、というお話。

冒頭からすごくスピーディな展開で、いろんな要素が次々出てくるので飽きることはありません。
文章も非常に判りやすいので、内容がかなり込み入っているのにすんなり読めるし。
しかも、この綾(=アン)が16歳の女の子(しかも社長令嬢)とは思えないほど肝が据わっていて、自分からどんどん危険な場所に足を踏み入れていくのでハラハラする場面がたくさんあったのも楽しかったです。
逆に「あまりにも順応性が高すぎじゃないですか?」と心配になるくらいでした^^;
普通のタイムスリップものみたいに本人として時間移動するわけではなく、また時代によって別の人格になるのにそれぞれの時代の記憶をお互いに保持したままになっているというのも結構斬新な設定でした。

ただ、いろんな要素をたくさん詰め込みすぎたため、物語の中で消化し切れていないエピソードもあったような気がします。
例えば、アンドリューの死んだ兄・ケンのこととか、綾が死んだ父の跡を継いで会社の社長になる話とか、母親が失踪した原因とか…「え、この話はこれで終わり?」って話がけっこうたくさんありました。
特に綾の両親の話はあれでホントによかったの?という終わり方。
「それじゃあ、あまりにも勝手すぎませんか?」と私なんかは思ってしまったのですが、当の綾はニッコリ笑ってエンディング。
「あれで納得できるなんて、なんて大人なんでしょう」…と思ったのでした。

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大倉崇裕/福家警部補の再訪

福家警部補の再訪 (創元クライム・クラブ)
福家警部補の再訪 (創元クライム・クラブ)

内容(「BOOK」データベースより)
鑑識不在の状況下、警備会社社長と真っ向勝負(「マックス号事件」)、売れっ子脚本家の自作自演を阻む決め手は(「失われた灯」)、斜陽の漫才コンビ解消、片翼飛行計画に待ったをかける(「相棒」)、フィギュアに絡む虚虚実実の駆け引き(「プロジェクトブルー」)…好評『福家警部補の挨拶』に続く、倒叙形式の本格ミステリ第二集。

以前読んだ『福家警部補の挨拶』に続く、シリーズ第2弾。
「マックス号事件」「失われた灯」「相棒」「プロジェクトブルー」の4編を収録。

背が低く、地味で童顔、年齢不詳。およそ警察関係者それも殺人事件の現場の責任者には見えない外見の福家が、相変わらず飄々と難事件を解決していきます。
現場で見つけた小さな欠片から、その向こうにあるものを見透かてその姿を捉え、そうしたものを積み上げることによって犯人が隠そうとした真実を確実に辿り着く福家の手腕が小気味いいです。
あまりにも真っ直ぐにそこに向かっていくので少し「出来すぎ?」と思えてしまう部分もなきにしもあらずなのですが、それ以上にストーリーの持つスピード感と「次は何をするんだろう、言い出すんだろう」という期待感が優っていて最初から最後まで一気に読めました。

また、今回は事件の関係者(証言者)たちから事件とは関係のないところで(しかも福家本人はそうと意識しないうちに)、一目置かれる存在になってしまっているという描写がさりげなく入っているところが「巧いな~」と思いました。

次が楽しみなシリーズです。

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2009/10/01

'09年10月の読了本

  • 赤川次郎『霧の夜の戦慄 百年の迷宮』(角川文庫)
  • 門井慶喜『おさがしの本は』(光文社)
  • 山本一力『牡丹酒 深川黄表紙掛取り帖【二】』(講談社文庫)
  • 近藤史恵『寒椿ゆれる【猿若町捕物帳】』(光文社)
  • 赤川次郎『怪異名所巡り 神隠し三人娘』(集英社)
  • 伊坂幸太郎『死神の精度』(文春文庫)
  • 岳真也『土方歳三 修羅となりて北へ』(学習研究社)

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2009/09/13

海堂尊/ひかりの剣

ひかりの剣
ひかりの剣

内容紹介
『チームバチスタの栄光』の舞台でおなじみの東城大と帝華大。『ジェネラル・ルージュの凱旋』の天才外科医・速水晃一は「東城大の虎」とよばれた剣道部主将だった。かたや、「帝華大の伏龍」とよばれた清川。二人のあいだには、医鷲旗(東日本医科学生体育大会の剣道部の優勝旗)をめぐる伝説の闘いがあった。

「バチスタ」シリーズの外伝、という感じの作品。
『ジェネラル・ルージュの凱旋』に登場した速水と、『ジーン・ワルツ』(こちらは未読)の清川がまだ大学生だったころの物語。
大学医学部の学生だけで開催される剣道大会で医鷲旗(いしゅうき。大会の優勝旗)を争う各大学の剣道部員たちの姿を、お互いにライバルと認め合う速水と清川を中心に描いた「スポ根」小説です。

登場人物がシリーズのメンバーとかぶるのと、途中にちょっとだけ『ブラック・ペアン1988』で出てきた、速水、島津、田口3人の病院研修のシーンが出てくるので「バチスタ」シリーズなんだなあと感じる程度で、あとはひたすら剣道の話です。
相変わらず(剣道の)専門用語とかバンバン出てきてストイックに話は進んでしまうのですが、登場人物の書き分けも巧いし、ストーリーに勢いがあるので全編飽きずに読めました。
特に最後の医鷲旗を巡る速水vs清川の試合のシーンは迫力があって読み応え満点でした。

ただ、天才的な剣道の腕を持つ帝華大剣道部の新入部員「朝比奈ひかり」の存在はちょっと微妙な感じ。
清川の剣を、そしてその後(間接的とはいえ)速水の剣も変えていくという、物語の中で重要な役割を担っているのは確かなんだけど、それでも結局これは「速水と清川の物語」にしか読めなかったので。
タイトルにまで彼女の名前を使う必要があったのかなあ、と。
(しかも、あまりいいタイトルとも思えないし^^;)

高階院長は、剣道部の顧問(しかも最初は帝華大の、そしてその後東城大の)として登場して、速水と清川、そして2つの大学の剣道部員をいいように「弄んで」います(笑)
こんなに若い頃から「たぬきオヤジ」だったのね~。
「バチスタ」あたりよりも登場シーンが多い分、タヌキっぷりが堪能出来ると思います。

この剣道部での経験が速水を「ジェネラル」にしたのね、と納得できる作品でした。
清川の出てる『ジーン・ワルツ』も読むのが楽しみです♪(現在、図書館の順番待ち中)

ジェネラル・ルージュの凱旋
ジェネラル・ルージュの凱旋
ジーン・ワルツ
ジーン・ワルツ
ブラックペアン1988
ブラックペアン1988
 

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2009/09/01

'09年9月の読了本

  • アラン・ベネット『やんごとなき読者』(白水社)
  • 海堂尊『ひかりの剣』(文藝春秋社)
  • 北村薫『街の灯』(文春文庫)
  • 北村薫『玻璃の天』(文春文庫)
  • 石田衣良『Gボーイズ冬戦争』(文春文庫)
  • 山本弘『アイの物語』(角川文庫)
  • 大倉崇裕『福家警部補の再訪』(東京創元社)

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2009/08/03

大石直紀/輪廻の山 京の味覚事件ファイル

輪廻の山―京の味覚事件ファイル (光文社文庫)
輪廻の山―京の味覚事件ファイル (光文社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
「奥様料理研究家」を目指す凪子は、結婚生活五年目に夫である準平とともに京都に引っ越すことになった。準平が、勤務先のソース会社で京都転勤になったのだ。食文化が異なる京都で苦戦する準平を尻目に、京都での料理生活を満喫する凪子であったが、食材や料理の陰には、なぜか、ミステリアスな事件が潜んでいて…。古都を舞台に、ミセスが魅せる名推理!文庫書下ろし&オリジナル。

何となく全体の設定がずれている感じがして、違和感を持ったまま読み終わってしまいました。

主人公は料理好きで「奥様料理評論家」になることが夢の主婦・凪子。
ソース会社の営業マンである夫・準平の転勤に伴って京都に引っ越してきた凪子は「料理の勉強のため」と近所のスーパーのおばさんに京都特産の野菜農家を紹介してもらって訪ねて行くのですが、何故か行く先々で事件に遭遇する・・・という展開の話(短編集)です。

警察関係者ならともかく、一般人が普通に生きてきて事件(それも人の生き死にに関わるような)に遭遇する確率なんてそんなに高くないですよね。
そんな経験、それこそ「未曾有の出来事」だと思うんですよ。
まあ、それでもたまたまその「未曾有の出来事」に遭遇してしまった、そして素人ながらたまたまその事件に深く介入する事態に巻き込まれてしまったと言う「お話」があってもいいと思います。
でもその人物が動くたびに待っていたかのように新聞沙汰になるような事件が起こるなんてお話だとしても設定としてちょっとどうなのよ、と思ってしまうのです。
そんな人がいたとしたら、事件そのものよりもその人のほうが「危ない」ってことになると思うのですが。

しかも、どの話もその前半、事件現場に行くまでの凪子がやけにハイテンションなのもイラッとする原因でした。
料理のことで頭がいっぱいで、スーパーのおばさんに強引に頼み込んで相手先を紹介してもらい、しかも「面倒くさいからいやだ」と言ってる旦那を無理やり同行して初めての場所に乗り込んでいく。
それなのにいざそこに行ってみると、初対面の凪子たちに向かって何故か相手はみんな「実は・・・」と内緒の話をし始めて、その話が「何だか気持ち悪い、何か起こりそう」と早々に退散してくる。
その直後にその家で惨劇が起きて、それを知った凪子は「ああ、やっぱり…」と思うという「なんじゃ、そりゃ」な展開の連続。

しかも、凪子は事件を「解決」も「解説」もしないんですよ。
「こういうことなのでは・・・」と予測(推測)する程度で、最終的な回答はその事件の当事者によって独白で語られるという形式なのです。

何だか勝手に人の家に押しかけて明けちゃいけない扉を開けて「ヤダ、気持ち悪い」って言って開けっ放しでサッサと帰ってくる、そしてその後は急に傍観者になってしまうような自分勝手な人にしか思えませんでした。
そういう頭で呼んでいるせいか、凪子は「霊感が強い」とか「一度見た人の顔は忘れない」とかいう怪しげな特徴が少しずつ出てくるのも「都合がいいなあ」と感じてしまいました。

全体的に残念な感じの話が多かった中で表題作の「輪廻の山」だけは、凪子の友人の身内の話であり過去の話として完結していてキレイにまとまっていたと思います。
(ただ、後味はあまりよくありませんでしたが…^^;)

私の個人的な好みの問題だと思うのですが、ミステリーの場合、人物や物語の設定と、謎の性質が乖離している作品ってあまり好きじゃないんですよね。
お料理好きで好奇心旺盛でちょっと強引で社交的な凪子の性格(私はどうしても「サザエさん」を連想してしまう…(笑))はいいと思うし彼女の作るお料理は確かに美味しそうだったのですが、その設定を活かすならもっと彼女の日常やお料理にまつわるちょっとした謎や不思議をテーマにしてラストもちょっと笑えたり、温かい気持ちになれる物語にしたほうが座りがよかったんじゃないかなあと思いました。

表題作他「呪詛の森」「怨霊の屋敷」「霊気の古樹」「幽鬼の沼」「鎮魂の塚」の6編を収録。

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2009/08/01

'09年8月の読了本

  • 恩田陸『中庭の出来事』(新潮文庫)
  • 山川健一『「書ける人」になるブログ文章教室』(ソフトバンク新書)
  • 梓澤要『阿修羅』(新人物文庫)
  • 酒井順子『女子と鉄道』(光文社文庫)
  • 瀬尾まいこ『図書館の神様』(ちくま文庫)

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2009/07/29

樋口裕一/読ませるブログ 心をつかむ文章術

読ませるブログ (ベスト新書)
読ませるブログ (ベスト新書)

内容(「BOOK」データベースより)
ブログは「簡単に自分を表現できるツール」として、短期間で世の中に広まった。ところが、ネットの世界にあふれているのは、日記レベルの「おもしろくないブログ」ばかり。一般人が芸能人のブログの真似をしたところで、読者を獲得できるはずはない。ブログを書くということは、世界中の顔も名前も知らない人々に、自分のメッセージを発信すること。一昔前なら、作家や芸術家しかできなかった体験を、一般人でもできるということなのだ。さらに、読み手を意識した情報発信は、文章力を筆頭に、思考力や観察力や表現力など、さまざまなスキルを高めていく。人に読ませる「おもしろいブログ」を書くことで、あなたの人生は変わっていく。

読んでもらえるブログにするためにはどんな文章を書けばいいか、という内容について書かれた本です。
著者自身が「文章のプロ」なので、細かい章立てで簡潔にまとまっていて非常に読みやすいです。

でも、なんか物足りない…。

思うに、「ちゃんとした文章を書こう」と意識しながらブログを書いているひとは、もうこのレベルのことは出来ている(あるいは理解している)んじゃないかなと思うんですよ。
一方、「とりあえずみんなやってるから始めてみた。ブログって日記を書けばいいんだよね」って思っているような人は始めからこんな本に手を出さないんじゃないかなあ、と。

「もっと」を求める人が読むには初心者向けだし、「全然」な人が読むには面白みがなくてとっつきにくい感じがしました。
いや、書いてある内容は平易だと思うんですよ。
例文が多用されていて判りやすいし。
ただ、普段あまり本を読まない人がわざわざ手にとって「お、読んでみよう!」と思えるような工夫がされているわけではないかなあ、と。
(偏見かもしれませんが、文章があまり上手くない人って本を読まない人と重なる気がします)

もっと柔らかいタイトルにして、内容(例文)も実際のブログ画面を模したものにしたり視覚的に訴えるもの(直感的に違いが判るもの)だったりするとよかったんじゃないかなあ、と思いました。

ところでこの本の著者って『頭のいい人、悪い人の話し方』を書いた人なんですね!
本の中にそういうくだりが出てくるのを読んで初めて気がつきました(笑)

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2009/07/18

大倉崇裕/七度狐

七度狐 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M お 4-3)
七度狐 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M お 4-3)

内容紹介
名跡継承をめぐって開かれる落語会の取材に、僻村を訪れた間宮緑。折からの豪雨で孤立した村に見立て殺人が突発、頼みの牧編集長が到着できない状況下で第二の事件が……。 『三人目の幽霊』に続く大人気シリーズ第2弾!

以前読んだ『三人目の幽霊』に続くシリーズ2作目です。
前作を読んであまり好きなタイプの内容ではないなあ、と思ったのですが、そのあと読んだ『福家警部補の挨拶』は面白かったので、ちょっと期待して読んでみました。
…が、残念ながら今ひとつ…。

といっても決してつまらないわけではないんですよね。
むしろ物語の構成や展開はすごく緻密でそれでいてスピード感があり、どんどん読み進むことができる作品でした。
ただ、物語全てが事件とその謎解きに終始していて遊びというか余裕がない(殺人事件が起きているのに「余裕」も何もないと言われればその通りですが)、また事件の動機や犯行方法に容赦がない、救いがないというのが私にとってはちょっとツラかったです。
展開が緻密な分ずっと緊迫した場面が続くし伏線も次々出てくるので、読んでいるこちらも息付く暇なくどんどん追い込まれて行くようでした。

このシリーズは「落語」という古典芸能が重要なモチーフとなっています。
主役が落語を扱う雑誌の編集者であり、その他の主要な登場人物も落語家が殆どですし、物語に重大な影響を与える噺の内容も展開に合わせて丁寧に解説されていて、落語に対する著者の造詣の深さ、愛情が伺われます。
ただ、それがあまりにも密接に悲惨な事件と絡んでいるので、果たしてこれは落語のためになっているんだろうかと逆に心配になるくらいでした…。
う~ん、やっぱり巧い話だったんですねえ。
巧すぎてちょっと苦手、って感じでしょうか。

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小路幸也/マイ・ブルー・ヘブン-東京バンドワゴン

マイ・ブルー・ヘブン―東京バンドワゴン
マイ・ブルー・ヘブン―東京バンドワゴン

内容(「BOOK」データベースより)
国家の未来に関わる重要な文書が入った“箱”を父親から託され、GHQを始め大きな敵に身を追われるはめになった、子爵の娘・咲智子。混血の貿易商・ジョー、華麗な歌姫・マリア、和装の元軍人・十郎、そして、がらっぱちだけれど優しい青年・勘一にかくまわれ、敵に連れ去られた両親の行方と“箱”の謎を探る、興奮と感動の番外編。

「東京バンドワゴン」シリーズの4作目。
舞台は前3作から遡ること約65年、終戦直後の東京。
現在堀田家4世代の家長となっている勘一と、既に鬼籍に入っているが見えない存在のまま堀田家を見守り物語の語り手となっている勘一の妻・サチの出会いと結婚に至るまでの顛末を描いた長編です。

勘一の若い頃の話だというのはWebで読んだあらすじで知ってはいたのですが、こんな展開だとは思わなかったのでちょっとビックリしました。
勘一もサチさんもその時代の国の重要機密に影響力のあるようなお家の出身だったのですね。
そのために何も判らないまま危険に巻き込まれつつあったサチを、これまた何も知らないまま勘一が助けたのがきっかけで物語が動き出します。

前3作では堀田家とそれを取り巻くご近所さん中心のホームドラマだった「東京バンドワゴン」とは全然違うキャラクター(元陸軍の諜報部員だの、日本の政財界に影響力のある大人物だの、その部下の日米ハーフの美形青年だの、東北地方一帯を牛耳る大物の父を持つ美貌のジャズシンガーだの、そしてその全てに顔が効く勘一の父親だの)がどんどん出てきて、サチ自身と彼女がご両親から託された「秘密」を命懸けで守る、果ては当時日本を支配していたGHQの幹部と直接対決する、というサスペンス小説のような内容でした。

ただ、そういう流れではありながら、堀田家にみんなが集まって楽しそうにご飯を食べている様子とか、人が行動する基本は相手への思いやりであり、信頼であること、どんな相手にもまずは誠意を持って対すること、など物語の底に流れるメッセージは前の作品と何ら変わりがないので、「東京バンドワゴン」シリーズの一作として違和感なく読むことが出来ました。
その分「サスペンス」の部分が弱くなってしまい何が起こってもあまりハラハラしたりはしなかったという部分はありますが・・・そのあたりは「痛し痒し」ですかね~^^;

いろんなことが起こっていろんな人が出てきますが、一つ一つの設定や疑問にきちんと結末と回答が準備され全てあるべきところに収まっていく展開が見事。
多少唐突+出来すぎな展開もありましたが全体的にはとても面白く読めました。

シリーズ全体に言えることですが、これも映像化しやすそうな作品ですね。
現在の堀田家を描いた作品を連ドラにして、これは2時間くらいのスペシャルでやってほしいです。
原作を大事にしてくれるドラマ化してくれるTV局関係者様、いらっしゃいましたら是非。

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2009/07/05

児玉憲宗/坂道尾道書店事件簿

尾道坂道書店事件簿
尾道坂道書店事件簿

内容紹介
著者・児玉憲宗が勤める啓文社は、昭和6年、尾道にある商店街に十坪ほどの店舗、わずか3人で創業した。もともとは、煙草の元売捌をしていたが、制度廃止後、今まで、身体の害になるものを売ってきたから、今度やる商売は人の役に立つものにしたいと、薬局か書店かに絞られた末、書店をすることにしたという。今では広島県内に二十店舗を展開する書店チェーンである。
そのお店で、先輩から仕事を盗み、良いお店に向かってがむしゃらに突き進んでいた児玉を襲ったのは、脊髄の悪性リンパ腫だった。新店オープンを前に入院することになるが、児玉は一切泣き言をもらさず、現実と立ち向かい、手術、リハビリの末、退院。手に入れたのは車椅子とバリアフリーの家、そして「わしはおまえに障害があろうと特別扱いはせんよ。バンバン仕事をやってもらうから。」と肩を叩く社長をはじめ、同僚だった。現在本部として啓文社の売り場を支えているが、そのフットワークは、誰よりも軽く、改造した車に乗って各店舗を見て歩く。そんな書店員人生と地方の書店の現状、本部という仕事を描いた1冊。

タイトルに<事件簿>と付いていますが、ミステリーではありません。
著者の児玉さんは広島県内でチェーン展開する書店「啓文社」の一社員。
その児玉さんが実際にお店や社内で起こったこと、経験したこと、本を扱う人間として思うこと、仕事仲間やお客さんとのエピソード、そして著者自身の日常などを描いたエッセイです。

とても面白かったです。

さまざまなエピソードから児玉さんの書店員という仕事への真摯な、前向きな思いがストレートに伝わって来ます。
地方書店としての悩み、その中で出来ることを積極的に取り入れていくアイディアや実行力、サービスに対する考え方、同僚との関係など、ただ「書店員」だけに限らずどんな職業にも当てはまるエピソードがたくさんあってとても参考になりました。

児玉さんは(上記の「内容紹介」にも書かれているように)10年ほど前に難病(悪性リンパ腫)を患い、その治療のための手術により下半身不随になり車椅子での生活を余儀なくされています。
そのため書店員としての活躍の他に、その発病からリハビリ、会社復帰までの様子が「闘病編」として約50ページにまとめられています。
そこには、普通であればかなり悲劇的、絶望的であるとも思える難病とハンデキャップに真正面から向き合い、決して諦めず前向きにそれを受け入れ、乗り越えていく児玉さんの力強い姿が描かれています。
そんな児玉さんのために会社をバリアフリーに改築してまで「また一緒に働こう」と待っていてくれた手塚社長を始めとした啓文社という会社の懐の深さ、温かさが感動的でした。
もちろん、その待遇は破格のものだなと思います。
一般的には会社はそこまでしてくれないと考えるのが普通でしょうし、仮にそうしたくとも出来ない場合も多いでしょう。
でも、児玉さんはそうした対応をしてくれる会社に出会うことが出来た、それはとてもラッキーなことだったと思います。
でも、児玉さんは何もせずにそのラッキーに巡り会ったわけではなく、そういう状況や関係を可能にしたのもまたそれまでの児玉さん自身の努力や働きがもたらしたものだと素直に理解できる内容でした。
本当は社会全体がこんなふうにきちんと努力した人が、正当に報われる仕組みであるべきなんですけどね…。

児玉さんは本屋さんであって文筆を職業にしている方ではないのですが、やはり毎日本に触れているだけあって(読書量も相当とか)文章がとても上手なんですよね。
いわゆる「美文」というわけではありませんが、感情がセーブされ、人間関係や時系列などがスッキリまとめられている判りやすい文章で読みやすかったです。
プラス、そこにちょっとした笑いの要素や、話の内容に合わせた本の紹介などもさりげなく挟み込んでまとめあげてしまうセンスもあって、下手な小説家の装飾語ばかりで何が書いてあるか判らない文章よりもずっと好感が持てました。
文章というのはその人の性格や思考方法の反映だと思うので文章を読むとその人がどんな人かよく理解できると思うのですが、その視点で行くと児玉さんは頭が良くて、情熱的だけど同時に理性的、そして気さくで信頼出来る人というイメージですね。
こんな児玉さんが愛して止まない啓文社書店。
機会があったら是非行ってみたい本屋さんです。

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2009/07/01

ピーター・トレメイン/修道女フィデルマの叡智

修道女フィデルマの叡智 修道女フィデルマ短編集 (創元推理文庫)
修道女フィデルマの叡智 修道女フィデルマ短編集 (創元推理文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
法廷弁護士にして裁判官の資格を持つ美貌の修道女フィデルマが、もつれた事件の謎を痛快に解き明かす傑作短編集。巡礼として訪れたローマの教会で聖餐杯のワインを飲んだ若者が急死、偶然居合わせたフィデルマが犯人を突きとめる「聖餐式の毒杯」ほか、宿屋の幽霊騒動に巻きこまれる「旅籠の幽霊」、大王位継承をめぐる事件に挑む「大王の剣」など、バラエティ豊かな5編を収録。

7世紀のアイルランドが舞台のミステリー短篇集。
「聖餐式の毒杯」「ホロフェルネスの幕舎」「旅籠の幽霊」「大王の剣」「大王廟の悲鳴」の5編を収録。

物語自体は文章も読みやすいし、謎解きも明解で判りやすくて面白かったのですが、なんとなくしっくり来ないまま読み終わってしまいました。

7世紀って言ったら今から1300年も前の時代ですよね。
(日本だったら「大化の改新」の頃ですよ!)
その割にみんな、やたら考え方が合理的過ぎませんか?
自分の利益のために宗教的、道徳的な禁忌を破って悪事を企み実行するような人々が普通に出てくることにちょっと違和感がありました。
国を動かすような高位にいる人間や、知識・教養があるような人間ならそうした言動も理解出来るのですが、そうではない一般的な人々ならばもっと「死」とか「霊」とか「タブー」に対して、大いなる恐れを抱いていたのではないのかしら?と思ってしまうんですが。
なんだかあまりにも軽々とそういう禁忌を飛び越えて犯罪を犯していることにちょっと納得出来ないなあ…という気持ちがずっとついて回っていました。

あと、聖職者には敬称(尼僧殿とか院長様とか猊下とか)を付けて呼ぶのに、それ以外の上位者(上司とか、王族とか、王様その人にも)は何の敬称も付けてないことや、その当時の慣習とか物の名前はそのままの名前で表記されているのに時間の単位が「分」だったりするのや、「アリバイ」なんて言葉が出てくるのも「なんだかな~」って感じでした。

と言っても私には「7世紀のアイルランド」についての知識は皆無で、「古い時代だったらこんな風だったに違いない」という思い込みによる考えでしかないので、単なる言いがかりかもしれませんが。(というかその可能性大?^^;)
フィデルマのように女性でもきちんと高い教育を受け性別による区別なく高い地位を与えられ社会に参加していたというのは事実のようなので、私が想像しているよりも7世紀アイルランドというのは進んだ世界だったのかもしれませんね。

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'09年7月の読了本

  • 天野ミチヒロ『放送禁止映像大全』(文春文庫)
  • 光原百合『銀の犬』(ハルキ文庫)
  • 高田郁『八朔の雪 みをつくし料理帖』(ハルキ文庫)
  • 山本一力『銀しゃり』(小学館文庫)
  • 小路幸也『マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン』(集英社)
  • 大倉崇裕『七度狐』(創元推理文庫)
  • 似鳥鶏『さよならの次にくる 卒業式編』(創元推理文庫)
  • 樋口裕一『読ませるブログ 心をつかむ文章術』(ベスト新書)
  • 松尾由美『オランダ水牛の謎 安楽椅子探偵アーチー』(創元推理文庫)
  • 大石直紀『輪廻の山 京の味覚事件ファイル』(光文社文庫)

※感想を書いた本には該当ページへのリンクが張ってあります。

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2009/06/24

柴田よしき/貴船菊の白

貴船菊の白 (祥伝社文庫)
貴船菊の白 (祥伝社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
秋になったら、いつかあなたが話してくれた、京都の紅葉を見に連れて行って―亡き妻が語ったその地は刑事になって初めての事件で、犯人に自殺された因縁の場所だった。刑事を辞めた男が十五年ぶりに訪れたとき、そこに手向けられていた貴船菊の花束。白く小さな花は、思いもよらぬ真相を男に告げる…。美しい京都を舞台に、胸に迫る七つの傑作ミステリー。

柴田さんは巧い作家さんだと思います。
私も以前は「RIKO」シリーズとか「炎都」のシリーズとかけっこういろいろ読んでいたのですが、最近はあまり手が出ません。
あまりにも巧すぎるので読んでいるとこっちまで心理的に追い詰められてしまい息苦しくなってしまうんですよね。
(緊張の持続にすごく弱いのです。TVや映画もついついそういう作品は避けてしまいます・・・)
なので、柴田さんの作品で安心して手に取れるのは「猫探偵 正太郎」シリーズくらいかも。

そんなヘタレな私なので京都が舞台のミステリー、しかも表紙イラストがちょっと暗めと不安材料が多いこの作品も購入前にちょっと迷いましたが、ちょうど手持ちの本が切れて他にめぼしい本もなかったので思い切って買ってみました。
結果、なんとか許容範囲内でした。
内容としては予想した通り「人間関係のドロドロ系」なのですが、1篇のページ数が少ないので展開が早く、苦しくなる前に読み終わることが出来ました。

作品のイメージとしては残念ながら好きなタイプではなかったのですが、登場人物の人間関係や心理描写、事件の内容、経緯そしてそこに京都ならではの風習やしきたり、景色まで入れて短いページ内できれいに完結させる物語の流れはどれも見事でした。

でもどうせ京都が舞台の話なら、以前読んだ『ふたたびの虹』の続編が読みたかったなあ。

表題作他「銀の孔雀」「七月の喧噪」「送り火が消えるまで」「一夜飾りの町」「躑躅幻想」「幸せの方角」の7編を収録。


RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠 (角川文庫)
RIKO―女神(ヴィーナス)の永遠 (角川文庫)
炎都―City Inferno (徳間文庫)
炎都―City Inferno (徳間文庫)
猫探偵・正太郎の冒険〈1〉猫は密室でジャンプする (カッパ・ノベルス)
猫探偵・正太郎の冒険〈1〉猫は密室でジャンプする (カッパ・ノベルス)
ふたたびの虹 (祥伝社文庫)
ふたたびの虹 (祥伝社文庫)

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2009/06/20

ほしおさなえ/天の前庭

天の前庭 (ミステリ・フロンティア)
天の前庭 (ミステリ・フロンティア)

内容(「MARC」データベースより)
自動車事故で意識不明となり、そのまま9年間眠り続けた柚乃。奇跡的に目覚めたとき、すべての記憶を失っていた。そして今、かつての日記に自分にそっくりな少女に出会ったという記述を見つける-。彼女の行き着く真実とは?

何が書いてあるのかよく判らないなあ、と思いながら、それでも最後にはちゃんと解答が提示されるのであろうと思って読み進んでいたのに結局そのまま終わってしまったよ、という印象の作品でした。
いろんな要素が次々と提示されてそれが一見リンクして結末に近づくための鍵のように見えながら、その結びつきに関する情報は曖昧で要素が増えるに従って逆にどんどん全体像がぼやけていってしまうのです。
『ミステリ・フロンティア』シリーズの中の1冊なのでミステリだと思って読み始めたのですが、途中でドッペルゲンガーやタイムスリップなども出てきてミステリなのかSFなのかさえもよく判らないままでした。

でも、それは(他の方のレビューを読む限りでは)「敢えてそういう書き方をしている」っぽいですね。
確かに文章自体は読みにくくはないのですが…やっぱり私には合わないタイプの小説でした。
こればっかりは相性の問題なので仕方ないですね。

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2009/06/12

小路幸也/東京バンドワゴンシリーズ

東京バンドワゴン (集英社文庫)
東京バンドワゴン (集英社文庫)
シー・ラブズ・ユー―東京バンドワゴン (集英社文庫)
シー・ラブズ・ユー―東京バンドワゴン (集英社文庫)
スタンド・バイ・ミー
スタンド・バイ・ミー
 

内容(「MARC」データベースより)
下町の老舗古書店「東京バンドワゴン」。ちょっと風変わりな四世代の大家族が、転がりこんでくる事件を解決する。おかしくて、時に切なく優しい、下町情緒あふれる春夏秋冬の物語。

築数十年の古い建物、季節ごとの自然、そして親密なご近所付き合いが残る、東京のとある下町。
この町で大正時代から「東京バンドワゴン」という変わった名前の古本屋(現在はカフェも併設されている)を営む堀田家は80歳になっても元気な家長の勘一から生まれたての曾孫まで四世代が一緒に暮らす大家族。
この堀田家周辺で起こる小さな謎や事件を中心にした連作短編集。

既刊4冊のうち『東京バンドワゴン』『シー・ラブス・ユー 東京バンドワゴン』『スタンド・バイ・ミー 東京バンドワゴン』の3冊を順番に読みました。

す~ごく面白かったです!

とにかく、登場人物がとても多いのが印象的。
なにしろ中心になる堀田家からして12人(!)の大家族。
(シリーズ1冊目では8人でしたが、その後お嫁さんとお婿さんが1人づつ+赤ちゃんが2人増えて3冊目現在は12人になりました。今後、更に増えそうな予感です(笑))
これだけでも充分多いのに、そのほかにもお嫁さん、お婿さんの親御さん、町内のご近所さん、お店の常連さん、子供たちの同級生やその保護者などなど。
これだけ人が出てくると普通は誰が誰だか判らなくなったり、出てきたけど印象が薄くて忘れちゃったりするものですがこの作品ではそういう人が殆どいないんですよね。
それぞれがきちんと人物設定、性格設定されて物語の中に存在して、それぞれの役割を果たしているので、小説の登場人物の名前や人間関係を覚えるのがあまり得意ではない私でも覚えようと意識しなくても読んでいるうちに一人一人がスーッと自然に入ってきてしまう感じでした。

個性的な登場人物の中でもダントツなのは、勘一の一人息子・我南人(がなと)。
60歳を過ぎて、孫までいるおじいちゃんなのに、職業は「伝説のロッカー」(「自称」ではなくホントの有名人)なのです。
金色長髪に派手な服、あちこちをふらふらしてまともに家に寄り付かず、口癖は「Loveだねぇ」…という奇抜なキャラクター。
とても「下町の古本屋(しかも大家族)」にはそぐわない設定なのですが、そんな我南人でさえ悪目立ちすることもなくちゃんと堀田家の一員、作品の中の登場人物として違和感なくそこに存在している、その世界観がスゴイと思うのです。

このシリーズには巻末に「あの頃、たくさんの笑いと涙を届けてくれたテレビドラマへ」という献辞が入っています。
つまり、この作品は「あの頃」のテレビドラマへのオマージュなんですね。
イメージからいうと「寺内貫太郎一家」あたりかな?
家長の勘一が80歳という高齢という設定なので、ドラマみたいに「毎回ちゃぶ台をひっくり返して喧嘩するシーン」はありませんが(笑) 家族みんなで食事するシーンはどのお話にも出てきて、これがすごく印象的。
お料理は名前が出てくるだけでそんなに詳しいディテールが描かれているわけではないのですが、贅沢ではないけれどちゃんとバランスが考えられた手料理がいっぱいに並ぶ大きなテーブルで、家族全員が集まってワイワイ喋りながらの食事シーンはそのまま「幸せ」を表現しているような気がしました。
(だからといって、一人でご飯食べるのが「不幸」だということではないですけどね)
私は正直あまり大勢の人と一緒にいるのが得意なほうではないのですが、この作品を読むと「家族っていいよねえ」と自然に思ってしまいますね。

物語は堀田家の中やその周辺で起こる小さな謎や騒動を中心に展開します。
それらの事件も伏線がきちんと引いてあり結末も自然でよく出来ているのですが、それ以上にそうした事件や騒動があっても繰り返される堀田家の日常、日ごとに成長していく子供たち、人との繋がりを大切にして真面目にまっすぐ生きている人々がきちんと描かれている部分が素晴らしい作品でした。
感動して大泣きすることはありませんが、読んでいる間も読み終わった後もすごく気持ちよくて、「人に優しくしよう」という気分になります。

これからもずっと続いていって欲しいシリーズです。

取りあえずは今年の4月に出たシリーズ最新刊『マイ・ブルー・ヘブン』(勘一の若い頃を描いた番外編らしい)は現在図書館の順番待ち中。
もうすぐ読めそうなのですごく楽しみです(^^)

マイ・ブルー・ヘブン―東京バンドワゴン
マイ・ブルー・ヘブン―東京バンドワゴン
 

公式サイト発見!
集英社「東京バンドワゴン」シリーズ

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2009/06/10

藤野恵美/ハルさん

ハルさん (ミステリ・フロンティア)
ハルさん (ミステリ・フロンティア)

内容(「BOOK」データベースより)
(瑠璃子さん…今日はね、ふうちゃんの結婚式なんだよ。まさか、この僕が「花嫁の父」になるなんて…)ふうちゃんの結婚式の日、お父さんのハルさんは思い出す、娘の成長を柔らかく彩った五つの謎を。幼稚園児のふうちゃんが遭遇した卵焼き消失事件、小学生のふうちゃんが起こした意外な騒動…。心底困り果てたハルさんのためにいつも謎を解き明かしてくれるのは、天国にいる奥さんの瑠璃子さんだった。児童文学の新鋭が、頼りない人形作家の父と、日々成長する娘の姿を優しく綴った快作。

最愛の妻・瑠璃子さんが夭折して以来、人形作家のハルさんが男手一つで育て上げた一人娘・ふうちゃん。
今日はそのふうちゃんの結婚式。
花嫁の父として結婚式に臨むハルさんの脳裏に、小さい頃からのふうちゃんの思い出がよみがえります。

元気で社交的なふうちゃんの周囲に起きる事件を、人付き合いが苦手で心配性なハルさんが天国の瑠璃子さんの手助けを借りながら解決していくという構成。
「消えた卵焼き事件」「夏休みの失踪」「涙の理由」「サンタが指輪を持ってくる」「人形の家」の5編が収録されています。

最愛の人を早くに亡くし、遺された一粒種のふうちゃんの養育に心を砕くハルさんと、その愛情を一身に受けて明るく頭がよく誰からも好かれる素敵な女性に育っていくふうちゃんの成長の様子が丁寧に描かれたほのぼのした物語だったのですが…私はちょっと苦手でした。
原因はハルさんの人物設定。
人付き合いが下手で気が弱くて心配性、だけど人形作家としての才能は一流で一人娘のふうちゃんを何よりも大切にしている…という設定のようなのですが、どうも私にはマイナス部分ばかりが目に付いてしまったんですよね~。
特にふうちゃんに何かあったときの動転っぷりが尋常じゃない。
一人娘を心配する父親の心情としては当然なのかもしれませんが、それにしても大人なんだからもうちょっと落ち着いたほうがいいんじゃないの?と読んでいてイライラしてしまいました。
しかもただオタオタしてるだけで、建設的な考えや行動に結びついて行かない、結局死んだ奥さんの手助けがないと何も解決されないというのはどうなのよ、と。
物語の中の1つくらい自力で解決してもよかったんじゃないのかなあ、と思いました。

物語の中でふうちゃんは幼稚園、小学校、中学校、高校、大学と成長して行くのですが、それにつれて行動も考え方も発言も少しずつ変わっていく部分はすごく丁寧にリアルに描けていると思いました。
(特に中学生になって反抗期に入ったふうちゃんの描写が良かったです♪)
なのにハルさんの性格だけがずぅっと同じなんですよね。
あまりに変わらないのでだんだん「死んだのは瑠璃子さんじゃなくてハルさんだった」というオチなんじゃ?と穿った見方をしてしまうくらいでした^^;
でもそのくらい頼りなくて現実感がない感じだったんですよ…。
完全に好みの問題ですが、私としてはもうちょっとしっかりした人物像であって欲しかったです。

まあ、ハルさんの周囲の人、特にふうちゃんはそういうハルさんが大好きなんですから、その他の人間がどう思おうとハルさんには関係ないんでしょうけどね。

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2009/06/09

上田早夕里/ショコラティエの勲章

ショコラティエの勲章 (ミステリ・フロンティア)
ショコラティエの勲章 (ミステリ・フロンティア)

内容(「BOOK」データベースより)
絢部あかりが勤めている老舗の和菓子店“福桜堂”。その二軒先に店をかまえる人気ショコラトリー“ショコラ・ド・ルイ”で、不可解な万引き事件が起きた。その事件がきっかけで、あかりはルイのシェフ・長峰と出会う。ボンボン・ショコラ、ガレット・デ・ロワ、新作和菓子、アイスクリーム、低カロリーチョコレート、クリスマスケーキ―さまざまなお菓子をめぐる人間模様と、菓子職人の矜持を描く、小松左京賞作家の鮮やかな力作。

老舗和菓子店の売り子をしているあかりと、人気ショコラトリーのシェフ・長峰が周囲で起こるスイーツ絡みの騒動や謎を解決していく連作短編集。
表題作他「鏡の声」「七番目のフェーヴ」「月人壮士」「約束」「夢のチョコレートハウス」の6編を収録。

コージーミステリーらしく丁寧で穏やかな語り口で話が進み最後もきちんとエンドマークが付けられるのですが、「みんなの誤解が解けてめでたし、めでたし」というまん丸なものではなく、それぞれの気持ちのどこかにちょっとだけ引っ掛かりを残したままのほろ苦い結末の作品が多かったような気がしました。
これも「チョコレート」がテーマだからなのかな。
主役のあかり、長峰を始めとした主な登場人物も、包容力があり大人の分別を持った落ち着いたキャラクターが多く、全体的に大人っぽい雰囲気の作品。
作品中に出てくるお菓子の描写もすごく丁寧で美味しそうだし、物語の中での役割も不自然ではなく上手くまとまっていて気持ちよく読めました。

ただ、読むのに邪魔ってほどではなかったですが、お菓子についての専門用語がすごく多いなあと思いました。
専門家である長峰はともかく、単に「お菓子好き」という設定のあかりの口からもどんどん専門用語や蘊蓄が出てくるんですよね。
いくら父親が菓子職人で、本人も無類のお菓子(スイーツ)好きだとしてもちょっと詳しすぎでは…。
それとも最近の女の子はこのくらい当然なのでしょうか?(汗)
でも、そうした専門的な用語が多用されているにも関わらず 鼻につかないのは、文章や構成がスッキリとまとまっているからなんでしょうね。

ちなみに私はこの本を読んで「ここに出てくるようなチョコレートとかケーキとかにあまり興味がないんだな~」ということを改めて実感しました(笑)
もちろん嫌いではないので目の前にあれば美味しく頂きますが、こういう小説を読んでどうしても食べたくなって思わず買い(食べ)に行ってしまうようなタイプではないみたい。

そんな私でも面白く読める作品でした。
甘いもの好きの人だったら絶対気に入ると思うのでぜひ。

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2009/06/08

西條奈加/金春屋ゴメス

金春屋ゴメス (新潮文庫)
金春屋ゴメス (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
近未来の日本に、鎖国状態の「江戸国」が出現。競争率三百倍の難関を潜り抜け、入国を許可された大学二年生の辰次郎。身請け先は、身の丈六尺六寸、目方四十六貫、極悪非道、無慈悲で鳴らした「金春屋ゴメス」こと長崎奉行馬込播磨守だった!ゴメスに致死率100%の流行病「鬼赤病」の正体を突き止めることを命じられた辰次郎は―。「日本ファンタジーノベル大賞」大賞受賞作。

舞台は近未来の日本の中にある「江戸」という国。
日本から属国として認められているが、基本的に<鎖国>状態であるためその他の諸外国との交渉はない。
日本との行き来も厳密に規制されているという設定。

一見時代小説のようでありながら、実はSFなんですね。
タイムスリップものではないのに現在と過去を同時に描ける、しかもお互いに干渉しあうことも(タイムスリップものよりは)容易であるという、ちょっと緩めの設定。
しかも表紙のイラストに描かれた迫力のある人物!
これがタイトルロールの「ゴメス」だっていうんだから、どんなにハチャメチャな物語が展開しているんだろう…と思いきや、内容は意外なくらい真面目だったのでちょっとガッカリでした。

まず、物語の中で描かれている「江戸」国がその風習や人物も含めてきちんと(時代小説やドラマ、映画でよく見る)江戸なんですよ。
しかも物語の殆どが「江戸」での話なので、読んでいるうちに単純に「時代小説」を読んでいるような錯覚に陥ってしまうのです。
ベースは実在の(あるいは私たちがよく知っていると思っている)「江戸」でもいいのですが、それとは別にもっとこの物語の中の「江戸」特有の設定があったり、江戸との対比として「日本」の状況がもっと描かれていたほうがよかったかなという気がしました。

それにゴメスも、外見や噂の中ではかなり強烈な人物として描かれているのですが、実際の言動はけっこうマトモなのでちょっと拍子抜け。
人間離れした外見で乱暴者という部分は読み取れるのですが、「大泥棒も泣いて怖がる」というほどの極悪非道ぶりがあったかと言われると…。
むしろ「見かけは怖いけど、実は頭が良くて情に篤い有能なお奉行」というイメージのほうが強い人物のように思いました。
(でも、ラスト近くで窮地に陥った辰次郎たちを愛馬に乗ったゴメスが助けに来るシーンは(トラックか戦車なみの)迫力があってよかったです(笑))

舞台設定もキャラクター設定も話の内容もそれぞれを見ると面白かったのですが、お互いが遠慮しあって小さくまとまってしまったような印象を受けました。
設定を生かしてもっと弾けた話でもよかったのでは。

この作品はシリーズ化されているとのこと。
全体的な世界観や、文章の書き方などは嫌いじゃないので、別の作品も読んでみたいと思います。

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2009/06/04

堂場瞬一/雪虫

雪虫 (中公文庫)
雪虫 (中公文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
俺は刑事に生まれたんだ―祖父・父を継いで新潟県警捜査一課の刑事となった鳴沢了は、晩秋の湯沢で殺された老女が、かつて宗教教団の教祖で、五十年前に殺人事件に関わったことを突き止めた。了は二つの事件の関連を確信するが、捜査本部長の父はなぜか了を事件から遠ざけるのだった。正義は、そして歳月は、真実を覆い隠すのか?新警察小説。

刑事・鳴沢了シリーズの1冊目。

鳴沢家は主人公の了自身だけでなく、祖父、父と三代に渡って刑事(しかも「優秀な」)だったという設定。
これをもっと引っ張るのかと思っていたのに、それが軽く裏切られる結末でちょっとビックリしました。
(読んでいるうちにある程度予想は出来るのですが)

一人暮らしの老女・本間あさ殺しに始まる一連の事件の捜査~解決の流れはまあまあ面白かったのですが、その間に挟まる了の個人的な人間関係(家族や恋人)についての記述がかなり多いな~、という印象を受けました。

特にひっかかったのは了と現在は新潟魚沼署の署長を務める父親との確執(というか、了の一方的なこだわり?)が何度も描かれるのですが、その理由が明確に説明されていないこと。
作中で「(了が)刑事になるときに一方的に反対されたから」との記述はあるのですが、「ホントにそれだけ?」って感じがする嫌い方なんですよね。
なので、もっと深い理由があるんじゃないかと思っているのですが…。
(もしもホントにそれだけの理由だとしたら、了ってかなりガキだなあ、と思うんですが…^^;)
また「鳴沢家の男は15歳で独立する」ってことで、高校から東京で一人暮らしするっていうのもなんだかわかったような判らないような…って感じの設定でしたし。
更にそうやって多くのページを了の個人的な感情や人間関係に費やしている割に「鳴沢了」という登場人物のアウトラインはどうも曖昧なままに終わってしまったような気がしてちょっと消化不良でした。

これからシリーズが進むにつれてその辺りの事情も明らかになっていくのでしょうか。

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2009/06/02

高井忍/漂流巌流島

漂流巌流島 (ミステリ・フロンティア)
漂流巌流島 (ミステリ・フロンティア)

内容(「BOOK」データベースより)
宮本武蔵は決闘に遅れなかった!?赤穂浪士は浅野内匠頭が殿中刃傷に及んだ理由を知らなかった!?近藤勇は池田屋事件を無理やり起こしていた!?鍵屋ノ辻の仇討ちは都合よく行きすぎた!?人使いの荒い監督に強引に引きずり込まれ、チャンバラ映画のプロットだてを手伝う羽目になった主人公。居酒屋で額を寄せ合い、あーでもない、こーでもないと集めた史料を検討すると、巌流島の決闘や忠臣蔵の討ち入りなどよく知られる歴史的事件の、目から鱗の真相が明らかに…!綾辻行人・有栖川有栖両氏に絶賛された第二回ミステリーズ!新人賞受賞作を含む、挑戦的歴史ミステリ短編集。

ここの所、1冊当たり1~2日でどんどん読み終わっていたので「読むスピードが上がったのかな」とちょっと喜んでいたのですが、この本は読了までに1週間掛かってしまいました。
やはり歴史ミステリーは情報が多いので時間が掛かりますね…。
(といっても、古文書の引き写しとか読み下し文など漢字が山盛りの部分は殆ど読み飛ばしていたのですが^^;)

でも、内容は面白かったです。

登場人物は歴史的な事件を扱ったオムニバスの短編チャンバラ映画を製作することになった監督と脚本家。
その資料として脚本家が集めたその事件の過去資料を元に事件のあらましを説明すると、監督が同じ資料の中から隠された事実を見つけ出す。
それを組み立てていくことでその歴史的事件に一般的に知られていたのとは別の姿が浮かび上がってくる…という構成。

2人が打ち合わせする数時間のうちに事件全体の説明から矛盾点の指摘、新説の解明までが完了するというスピーディな展開のため無駄がないし、話の内容もあまり広がりすぎないので分かりやすかったです。
(途中で殺人事件が起こったりもしないしね…(笑))
その分多少強引なところもありましたが、基本的に作品中に提示された資料の中で推理が完結しているので読者に対してもかなりフェアな内容であったと思います。

表題作他「亡霊忠臣蔵」「慟哭新選組」「彷徨鍵屋ノ辻」の4編を収録。

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2009/06/01

'09年6月の読了本

※感想を書いた本には該当ページへのリンクが張ってあります。

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2009/05/25

越水利江子/花天新選組-君よいつの日か会おう

花天新選組―君よいつの日か会おう
花天新選組―君よいつの日か会おう

内容(「BOOK」データベースより)
現代の少女がタイムスリップし、幕末の新選組隊士に!否応なく戦闘に巻き込まれ、泣いたり、わめいたりしながらも、やがて総司への想いを胸に、鳥羽伏見の戦いに…。壮絶に燃える幕末ファンタジー。

前作では幕末の沖田が秋飛のいる現代に飛んできた、という設定でしたが、今回は秋飛のほうが幕末にタイムスリップして新選組の隊士になる(死にかけた隊士の身体に秋飛の意識だけが入り込む)という設定になっています。

新選組の隊士たちのキャラクターや史実、時代の中で果たした役割などは丁寧に判りやすく書いてあるのですが、そこがあまりにもカッチリし過ぎていて「秋飛」という異分子が入り込んだことによる「ずれ」とか「遊び」の部分があまりなく、全体的に普通の「新選組もの」になってしまっているのが残念でした。

元々は女の子であった、とか剣の修行をしていた、とかいう前提の部分を活かせば、もっと「物語」として膨らますことが出来る部分が多かったような気がするのですが。
逆に考えれば、それだけ著者が「新選組」という集団に対して真摯であったという証なのかもしれませんが。

一番気になったのは、幕末に飛んでから最後まで秋飛が一度も現代に戻る部分がなかったということ。
秋飛にとっては沖田が一番大切な人物になっていたということや自分の意志でどうこうできることではなかったということだと思うのですが、現代にもまた秋飛を心配している家族や友人、仕事仲間がいることを考えれば何かのきっかけで少しの間でも現代に戻るシーンがあってもよかったのでは。
そして本来の秋飛としての人生や生活に心を残しながらも、その上でやはり沖田のいる時代に戻ることを自分の意志で選択して、その時代に戻るという設定にしたほうが秋飛の真剣さがより強調されたような気がしました。
または沖田が死んでから現代に戻ってきて、自分の生きる意味や進む道を真剣に考えて生き始めるとか…。

自分で捨ててきたわけでもないのに突然タイムスリップしてそのままそこで終わってしまい残された現代の状況には何も触れないというのはちょっと不親切だなあ、と思いました。

新選組本として読めば丁寧な文章できれいにまとまっているし沖田や土方ら主要な人物はかなり魅力的に描かれている作品だと思うのですが、せっかく歴史小説以外の要素を持ち込んでいるのですからその視点からのアプローチがもっとあったらよかったのに…と思います。

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2009/05/21

越水利江子/月下花伝-時の橋を駆けて

月下花伝―時の橋を駆けて
月下花伝―時の橋を駆けて

内容(「BOOK」データベースより)
秋飛!天と地があるかぎりおれたちは永遠に共に生きる。激動の時代を駆け抜けた青年・沖田総司と現代の少女・秋飛の出会い。

主人公は17歳の少女・秋飛(あきひ)。
2歳のときに両親を事故で亡くして以来、剣術の道場を営む祖父の元で7歳違いの姉・春姫とともに暮らしていたが、先日その最愛の祖父も病死してしまう。
悲しみにくれる秋飛が気晴らしに家の中から見つけた古い映画のフィルムを見ていたところ、その中から新撰組の沖田総司が現れる…。

読みやすい文章できれいにまとまっているのですが、何が言いたいのかがよく判らないまま読み終わってしまった感じでした。

古い映画のフイルムの中から沖田が出てきたり、秋飛が女優になるという設定自体は面白いのですが、その根拠や意味がきちんと描かれていないのでその設定の重要さや秋飛の真剣さが今ひとつ伝わって来ないんですよね。
秋飛の前に沖田が出てくるのは、おじいちゃんが剣術の達人で小さい頃から秋飛も稽古をつけてもらっていたからという前提があるのでまだ納得できるのですが、女優になる設定の方は「興味があるからやってみたい」以上の、もう少しのっぴきならない、または運命的なエピソードがあったほうが秋飛の行動や心情に感情移入出来るのではないかと思いました。

この後、続編(『花天新選組』)があるのでこちらではもっと深い話が読めることを期待しましょう。
(既に借りてあります(笑))

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高橋克彦/蘭陽きらら舞

蘭陽きらら舞
蘭陽きらら舞

内容(「BOOK」データベースより)
胸にしみる人情話から背すじも凍る幽霊譚まで捕物帖の醍醐味が満載!大好評「だましゑ」シリーズ第4弾!若衆髷を結い、女と見紛う美貌だが、役者仕込の俊敏さで荒事もこなす蘭陽が、相棒の春朗(後の葛飾北斎)とともに江戸の怪事件に挑む―。

『だましゑ歌麿』から始まったシリーズの第4弾。
今回の主役は前作で登場した女形の蘭陽。

戯作者の俵蔵(のちの南北)の引き合いで休業していた舞台の仕事が回ってきて喜ぶ蘭陽。
そんな彼の行く先々で降りかかってくる事件や揉め事を春朗(のちの北斎)や北町奉行筆頭与力・仙波家の人々の助けを借りて解決していく短編集。
表題作他「はぎ格子」「化物屋舗」「出で湯の怪」「西瓜小僧」「連れトンボ」「たたり」「つばめ」「隠れ唄」「さかだち幽霊」「追い込み」「こうもり」の12編を収録。
この中で、蘭陽が役者を辞めた理由や少年の頃愛した人の話、蘭陽が抱える幕府の隠密につけ狙われるほどの秘密の話などが明らかにされていきます。

派手で短気でわがまま、だけど人情に厚く思いやり深い蘭陽と、そんな蘭陽を心配してぶつぶつ文句をいいながらも危険な場所にも一緒についていく春朗のテンポのいい会話が楽しい作品でした。

ただ、全体を通してまとまった作品にはなっているものの、1編づつが短すぎるせいか今ひとつ蘭陽に感情移入出来ずに終わってしまった感じがします。
母親を殺された少年・芳吉を引き取るあたりの話は細かく切ってしまうよりもまとまった話にしたほうがよかったのでは。


このシリーズの1作目『だましゑ歌麿』がテレビ朝日系列でドラマ化されるようです。(放送日時は未定)
歌麿が水谷豊、仙波は中村橋之助というキャスティング。
なかなか面白そうです。

テレビ朝日ドラマスペシャル だましゑ歌麿

だましゑ歌麿 (文春文庫)
だましゑ歌麿 (文春文庫)
 

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2009/05/16

今野敏/蓬莱

蓬莱 (講談社文庫)
蓬莱 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
そのゲームには「日本」が封印されている!?人気沸騰のゲームソフト「蓬莱」を開発したソフトハウスは、パソコン版に続きスーパーファミコン版を計画した。しかし、恫喝し、力尽くでその発売を執拗に妨害する巨大な力が…。バーチャル・ゲームと伝奇世界がリアルに交錯する傑作エンタテインメント巨編。

安積班シリーズの長編です。

主役は小さなゲームソフト会社の社長・渡瀬。
彼の会社の若手社員・大木が中心となって作成された「蓬莱」というゲームソフトを巡って起こる事件に所轄の担当者として安積が関わっていくという構成になっています。

いつもの安積班メインの作品とはちょっと異質な印象でしたが、とても面白かったです。

物語のキーワードとなるのは「蓬莱」と名付けられたシュミレーションゲームなのですが、このゲームのディテールの設定が見事。
重要なアイテムなのですから当然といえば当然なのですが、かなり細かい部分まで手を抜かずきちんと設定してあるし、何よりゲームとして「面白そう」と感じました。
このゲームソフトが全ての鍵を握っていて、これを中心に事件が動いていることを考えると、そのアイテムをどれだけ魅力的にみせることが出来るかがポイントだと思うのですが、そういう意味で「蓬莱」の描写は成功していたと思います。
といっても私自身はこういうシュミレーションゲームのような手の込んだゲームにはあまり興味も知識もないので、あくまで「小説の中の設定として」という判断しか出来ませんが。 

また、今回の作品では「蓬莱」自体の解説の他にも設定の元となる史実や学説、人物についての解説がかなり詳しくページ数を割いて記述されています。
私はこういう歴史的薀蓄みたいなのも好きなのでけっこう面白く読んだのですが、いつもの「安積班シリーズ」の1作品として読み始めるとちょっと面食らうかもしれません。
確かに事件のベースになる考え方だし、すごく判りやすく書いてあるのですが、物語の展開の上でここまでの分量が果たして必要だったのかどうかはちょっと疑問を感じました。
(「QEDシリーズ」に比べればカワイイものですけどね…って比べる対象が違うか^^;)

この作品では渡瀬の目を通した安積が描かれています。
(特に前半)
通常の作品では安積の心理描写が(しつこいくらい)出てくるので、安積は仕事が出来るし部下や同僚からの信頼も篤いのに心配性で気にしぃというイメージあるのですが、こうやって第三者(しかも心当たりのない暴行を受け不安な一般人)の目から見た安積は、その表情の内側で何を考えているか判らないため事務的でとっつき難い印象に映るということが(当然のことではあるのですが)新鮮でした。
(その後、時間の経過とともに渡瀬にも安積の本質が理解されていくのですが)
誰の目から見るかで同じ人物でも違った印象で見えてくるのが面白いですね。

導入部、設定、伏線、展開、エピソード、どれもスムーズですが同時に緊迫感がある展開で、非常に面白い作品でした。
登場人物も一人一人丁寧に設定されていて、物語に説得力と厚み、深みを与えていました。

これで現在出版されている安積班シリーズは全て読了。
充分楽しみましたが、もう次に買うものがないのが寂しいです…。
でも、このシリーズのおかげで今まであまり意識していなかった「警察小説」というジャンルに、興味が湧いたのでこの系統の本から次のお気に入りを探してみたいと思います。
※面白い作品をご存知の方、教えて下さい!

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2009/05/14

今野敏/ST警視庁科学特捜班

ST警視庁科学特捜班 (講談社文庫)
ST警視庁科学特捜班 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
多様化する現代犯罪に対応するため新設された警視庁科学特捜班、略称ST。繰り返される猟奇事件、捜査陣は典型的な淫楽殺人と断定したが、STの青山は一人これに異を唱える。プロファイリングで浮かび上がった犯人像の矛盾、追い詰められた犯罪者の取った行動とは。痛快無比エンタテインメントの真骨頂。

「警視庁科学特別捜査班」という架空の部署に所属する特殊な能力を持つ5人のメンバーを中心にしたシリーズの1作目。

普通の刑事たちの地道な捜査活動を描きリアリティを追及した「安積班シリーズ」に対し、超能力とも呼べる頭脳や身体能力、五感を持つ5人のSTたちを主役にしたこちらのシリーズはかなりエンターテイメント性が強いです。

STのメンバー5人それぞれが別々の特殊脳力を持っているんだけど、個性的すぎて(?)却って特徴と名前を覚えられない…^^;
結局どちらもちゃんと覚えられたのは「もう帰っていい?」が口癖の美貌のプロファイラー・青山くんと地獄耳の紅一点・翠ちゃんだけでした(笑)
あとの3人は名前は覚えたけど(赤城と山吹と黒崎)、どの人が何が得意なのかよく覚えてません…。
同じ5人でも安積班の地味な(笑)メンバーズはすぐに覚えたのにな。
しかも一つの場所に(彼ら以外にも)何人も一緒にいるシーンが多いので、しゃべり始まると誰のせりふかよく判らない部分もあったりしてその点でもちょっと混乱してしまいました。

さらに安積班シリーズの場合は、捜査の状況が全て読者に開示されているイメージなのでどこでどうなっているのか何が起こっているのか読んでいるこちらにも判りやすかったのですが、これは実際に捜査に当たる刑事たちが集めてきた事実がSTたち(というかプロファイラーの青山)によってどう解釈されるかが判らないと全体像が見えてこない構成になっているらしく、その辺りが曖昧なまま進んでいくので読んでいてちょっとイライラしました。
しかもプロファイルとか科学捜査がメインになるだけに事件そのものもかなり込み入っているし…。
全体像が見えてきてからは展開がスピードアップして俄然面白くなるのですが、そこに行き着くまでを「長い」と感じてしまいました。
テーマや雰囲気は嫌いじゃないので短編があったらまた読んでみたいです。

ところでこの5人の名前、戦隊ものの登場人物みたい。
だったら紅一点はミドリじゃなくてピンクだよね(笑)

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2009/05/12

今野敏/半夏生

半夏生―東京湾臨海署安積班 (ハルキ文庫)
半夏生―東京湾臨海署安積班 (ハルキ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
東京お台場のビルの狭間で、アラブ系と思われる外国人男性が倒れているのが発見された。事件性の疑いはないと考えられたが、男性は原因不明の高熱を発し、間もなく死亡。それを機に、東京湾臨海署の安積班にただならぬ空気が流れはじめる―本庁公安部が動きだしたのだ。海外からウイルスを持ち込んだバイオテロなのか?地域・道路封鎖に奔走する安積たちの不安をよそに、事態はさらに悪化の気配を見せはじめた!大好評長篇警察小説、待望の文庫化。

シリーズものって、最初は気に入って読み始めても4~5冊読むとだんだん飽きてきたり、表現が鼻に付くようになってしまい途中で投げ出してしまうことがけっこうあります。
中にはあと数冊で全部読み終わるってところで挫折する場合もあったり。

そんな中、この安積班シリーズは順調に読み進みあと1冊(『蓬莱』)でコンプリートというところまで来ました。
びっくりするくらいリーダビリティがいいですね。
時々ちょっとしつこい表現でイラッとすることもあるのですが、それ以上に全体の丁寧な展開や緩急のリズム、登場人物の魅力などが勝っていて、どんどん読めてしまいます。

この作品も面白かったです。

お台場で身元不明のアラブ人が原因不明の高熱で行き倒れているのが発見され、サイバーテロ実行犯の疑いが掛かる。
臨海署からの報告を受けて本庁の公安部が動き、やがて内閣によるテロ対策室が設置されるという大事件に発展していく。
発生場所から最も近い所轄の臨海署もその騒ぎに巻き込まれる、という内容。

サイバーテロといういつも取り扱っている事件とは違った見えない相手との闘いに翻弄され、先の見えない捜査への不信感、疲労感、焦燥感。
そんな中でもいつもの自分たちの仕事を地道に積み上げることで見えてくる事実…そういった様々な要素が判りやすく丁寧に描かれています。

今回「巧いな~」と思ったのは須田の使い方。
須田と黒木は最初に該当の外国人と接触したため、感染の恐れがあるとのことで入院、隔離されてしまい実際の捜査には参加できなくなります。
でも、須田は(どういう手を使っているのか)度々病院から安積に連絡を入れて、自分や黒木の様子、病院の対応などの情報を安積に提供します。
この須田の情報によって、安積は混乱している状況の中で真実を掴み取り事件を解決に導く重要な役割を果たすのです。
「普通の捜査員は立ち入れない」場所に須田を配置し「動けないけど動ける」状態にした(しかも不可抗力で)というのがこの作品の勝因ではないかと思います。

また、この病院内で黒木は発病したけど、須田は大丈夫だったのですがその理由にきちんと伏線が張ってあるのもよかったです。
(その理由も須田ちゃんらしくてgood!)

今回のメインはサイバーテロ騒動という非現実的な事件ですが、仕事も家も家族もなくし絶望の淵にあった男が再び生きる希望を見つけるというストーリーを絡めたり、珍しく安積と村雨、安積と桜井が業務連絡以外の会話をして、安積の認識の変化があったり、いつもは同じ署内にいても会話も殆どない他の課同士が協力しあって職務に当たって成果を上げていくといった人間的な展開が自然に挿入されていつもの安積班シリーズらしい人情味溢れる演出も健在でした。

今作が他とちょっと違うなと思ったのは、全編を通して日本のテロ対策への批判とも取れる記述が散見されること。
速水が「この国は、じきに滅びるぞ」なんてせりふもあったりして結構過激です。
まあ、ここに書かれていることが現実だとしたらそれも当たらずとも遠からずって感じでしょうか。
しかも現実には安積も速水も、物分かりのいいキャリアもいないわけだし。

はからずも世界的な病気の流行に右往左往している現在。
これは自然発生的なものだから伝播が緩やかだし、情報もきちんと入ってくるし、政府の対応も(今のところ)功を奏しているようなのでマスコミの報道の割にはみんな落ち着いているかなと思いますが、これが明確な悪意を持った何者かが意図的に仕掛けたものでその原因が長時間特定できず、その間にもどんどん感染は広がり患者、死者が増えていく…なんて状況になったら実害がなくても想像だけでパニックになりそう…。 
この本が出版されたのが2004年、それから少しでも状況が好転していることを祈らずにはいられません。

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2009/05/11

今野敏/最前線 東京湾臨海署安積班

最前線―東京湾臨海署安積班 (ハルキ文庫)
最前線―東京湾臨海署安積班 (ハルキ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
東京・お台場のテレビ局に出演予定の香港映画スターへ、暗殺予告が届いた。東京湾臨海署の安積警部補らは、スターの警備に駆り出されることになった。だが、管内では、不審船の密航者が行方不明になるという事件も発生。安積たち強行犯係は、双方の案件を追うことになる。やがて、付近の海岸から濡れたウェットスーツが発見され、密航者が暗殺犯の可能性が―。安積たちは、暗殺を阻止できるのか。(「暗殺予告」より)新ベイエリア分署・安積班シリーズ、待望の文庫化。

安積班シリーズの短篇集。
表題作他「暗殺予告」「被害者」「梅雨晴れ」「射殺」「夕映え」の6編を収録。

何冊も読んでくるうちに安積の独白の多さがちょっと鼻に付き始めてきたので、サックリ終わってくれる短編のほうが面白く思えてきた今日この頃。
更に短編では安積以外のメンバー視点で展開する新鮮さも魅力です。

この本では表題作の「最前線」が、安積班の最年少メンバー・桜井の視点で描かれています。
安積に「村雨に犬のように飼いならされているのではないか」といつも心配されている桜井くんだけど、彼なりに考えて村雨に対応し日々の仕事に当たっている姿が垣間見えます。
そんな彼の前にかつて同僚として過ごした大橋が都内で異動先の警察署で活躍する刑事として登場、桜井は自分とはかけ離れた存在になってしまったように見える大橋に憧れと同時に焦りを感じます。
でも最後に安積や村雨の存在の大きさ、大切さを大橋から聞かされて自分も前向きな気持ちを取り戻す…という内容。

安積視点だと説教くさくなってしまいそうな話を、桜井視点で書くことで熱血な部分もありつつ爽やかな雰囲気に仕上げているのが巧いと思いました。
でもそれよりも(順番を適当に読んでいるため)いつのまにかいなくなってしまい「どこに行ってしまったの?」と気になっていた大橋くんの行方が判ったのが嬉しかったです(笑)
彼が安積班を去るときの話もあるのかな~?

他には、ある現場で偶然再会したもうすぐ定年を迎えるかつての上司と安積の交流を描く「夕映え」もしみじみした中に強い決意が感じられるいい作品でした。

また今回は「暗殺予告」で中国マフィア、「射殺」でアメリカ人の狙撃犯が出てくるという国際色豊かな展開。
そんな相手にも安積はいつもの地道で誠実な捜査でキッチリ犯人の足取りを掴み事件を解決していきます。
「射殺」では一匹狼のアメリカ人刑事の心も動かす、安積。
なんでそんなにオジサンに好かれるのでしょうか(笑)

ところで速水には「上司」はいないのかなあ?
本庁所属なのに所轄の事件のためにパトカーを出動させたり、自分の判断で勝手に持ち場を離れたり。
「射殺」では銃を持った犯人と対峙している安積を助けに白バイでウィリーして来るという無謀さ!自由すぎるっ!(爆)
部下と上司の間に挟まれていつも細心の注意を払って行動している安積に対して、速水の自由さはカッコいいけど謎ですね。

そういえばこの小説には女性の警察官って一人も出てこないなあ、ということにふと気がつきました。
まあ、いいんですが。

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2009/05/09

坂木司/短劇

短劇
短劇

内容(「BOOK」データベースより)
たとえば、憂鬱な満員電車の中で。あるいは、道ばたの立て看板の裏側で。はたまた、空き地に掘られた穴ぼこの底で。聞こえませんか。何かがあなたに、話しかけていますよ。坂木司、はじめての奇想短編集。少しビターですが、お口にあいますでしょうか。

タイトルどおり、10ページ前後の短編ばかり26作が並んだ作品集。

普段は柔らかい語り口と丁寧な描写で最後にパワーや癒しを与えてくれるものが多い坂木さんの作品ですが、この本にはそうした作品の中では見えてこない人間の悪意や苛立ちがストレートに描かれています。
でも、こんな作風もまた「意外」と思わせず、「やっぱりこういう作品も書けるんだなあ」と納得させてしまうところが坂木さんの巧さだろうと思います。

長い物語ではちょっと重く生臭くなってしまいそうな内容を、短い枚数の中でサラッと書くことによってそれを回避してピリッとスパイスの効いた佳作に仕上がっています。
また、ダークな内容であっても弱い者が徹底的にいじめられるといった類のものはなく、最後まで読むと小心者の読者もちょっとした「共犯者意識」を持って思わずニヤリとしてしまう結末になっているあたりにいつもの坂木さんの姿が覗いているように思いました。

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2009/05/06

今野敏/残照

残照 (ハルキ文庫)
残照 (ハルキ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
東京・台場で少年たちのグループの抗争があり、一人が刃物で背中を刺され死亡する事件が起きた。直後に現場で目撃された車から、運転者の風間智也に容疑がかけられた。東京湾臨海署(ベイエリア分署)の安積警部補は、交通機動隊の速水警部補とともに風間を追うが、彼の容疑を否定する速水の言葉に、捜査方針への疑問を感じ始める。やがて、二人の前に、首都高最速の伝説を持つ風間のスカイラインが姿を現すが…。興奮の高速バトルと刑事たちの誇りを描く、傑作警察小説。

面白かった~!
何なんでしょう、この落差(笑)

捜査の展開もすごくキッチリ作ってあるし、捜査の停滞や敵対関係など緩急の変化に富んでいて物語の中でリズムが何度も変わるのでそれがすごく面白かったです。
この作品で何より魅力的だったのは、安積と本庁交機隊の速水がコンビを組んで捜査に当たるという設定。
この2人のオジサンコンビにはそこはかとない色気があっていいですよね~(笑)
普段は速水が一方的に安積に絡んで行って安積はそれを迷惑に思っているように見えるのに、安積がふと気になって速水のほうを見ると速水は何でもない顔をしているので安積が「あれ?」ってなっていたり。
でも、2人とも大人なのでお互いに気にはなるけどそれ以上深入りしたりしないのがいいですね。
速水がこれだけ安積にこだわるには何か理由があるのだろうと思うので、それについて触れている話なんかも読んでみたいですね。

更に今回は速水の運転するパトカーで容疑者とカーチェイスをするシーンがあってすごく盛り上がります!
速水小隊長、カッコいい~!

容疑者の設定もなかなか魅力的だったし、またまた本庁の相楽くんが悪役で出てきて安積のいいところを強調してくれるし…展開としてはほぼ完璧な感じじゃないですかね。

ああ、でも須田以外の安積班メンバーズがほとんど活躍していないのはちょっと寂しかったかな。

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今野敏/虚構の殺人者

虚構の殺人者―東京ベイエリア分署 (ハルキ文庫)
虚構の殺人者―東京ベイエリア分署 (ハルキ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
東京湾臨海署―通称ベイエリア分署の管内で、テレビ局プロデューサーの落下死体が発見された。捜査に乗り出した安積警部補たちは、現場の状況から他殺と断定。被害者の利害関係から、容疑者をあぶり出した。だが、その人物には鉄壁のアリバイが…。利欲に塗れた業界の壁を刑事たちは崩せるのか?大好評安積警部補シリーズ、待望の文庫化。

安積の独白がいつも以上にすごく多くて、ちょっと「イラッ」とするくらいでした。
最初のページで既に被害者の死体が見つかっているのに、そこから捜査が始まるまでのなんて長いこと!
村雨が融通が利かないのも、須田が見た目と違って有能な刑事なのも、黒木がスポーツマンのような神経質さを持っているのも、桜井が村雨に飼いならされてしまっているのではと心配しているのも、もう判ったから早く事件の捜査に入ってくださ~い!って何度も思ってしまいました(笑)
更に捜査に入ってからも、メインの事件には直接関係のない別の事件がいくつも入ってきたり、安積の個人的な(家庭的な)話も入ってきて話がなかなか進展しないし。

まあ、本当の警察の仕事というのは、TVドラマや小説みたいに起きた事件に全員がずっと張り付いていられるわけではなく、いくつもの事件を掛け持ちしているのかもしれないけど…でも、これはあくまで「小説」なんだからそんなところにリアリティを求められても…って感じ。
メインの事件は短編くらいの長さなのにそれに無理やりいろんな要素をくっつけて文庫一冊分にした作品という印象が残りました。

残念ながら今まで読んできた安積班シリーズの中で一番つまらなかったです。

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2009/05/01

'09年5月の読了本

※感想を書いた本には該当ページへのリンクが張ってあります。

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2009/04/26

今野敏/安積班シリーズ

警視庁神南署 (ハルキ文庫)
警視庁神南署 (ハルキ文庫)
二重標的(ダブルターゲット)―東京ベイエリア分署 (ハルキ文庫)
二重標的(ダブルターゲット)―東京ベイエリア分署 (ハルキ文庫)
陽炎 (ハルキ文庫―東京湾臨海署安積班 (こ3-16))
陽炎 (ハルキ文庫―東京湾臨海署安積班 (こ3-16))
硝子の殺人者―東京ベイエリア分署 (ハルキ文庫)
硝子の殺人者―東京ベイエリア分署 (ハルキ文庫)
花水木―東京湾臨海署安積班 (ハルキ文庫)
花水木―東京湾臨海署安積班 (ハルキ文庫)
 

ドラマ化に合わせて読み始めた安積班シリーズ。
安積班のメンバーを始めとする捜査員たちの掴んでくる事実を丹念に積み上げてジワジワと真実に近づいていく長編、そこに関わるメンバーの行動や考え方の違いに焦点を当てつつキッチリ事件を解決していく短篇、どれを読んでも面白いしリーダビリティがいいのでどんどん読了中です。
(そのおかげで今月は月間読了数の記録更新中です(^^))

事件の捜査の話の中に刑事たちのプライベートなエピソードがさりげなく入ってくるのもいい感じです。
事件の部分を邪魔していないし、乖離しすぎてもいない絶妙なバランスで描かれていて、しかもラストではそのエピソードが活かされてホッとする雰囲気で終わっている作品が多いのも好印象でした。

ただ、一気に何冊も読むとキャラクターの設定とか同じ内容が毎回繰り返されるのがちょっとウルサイかな~と思ったりもしました。
特に安積はいつも同じことで迷っていたりするので(村雨との関係についてとか)、何度も同じことが出てくると「一人で困ってないで本人に訊けばいいじゃん!」って思ってしまうことが何度もありました(笑)
こういうシリーズものの宿命だとは思うし、それがなければないで物足りない気がするのかもしれませんが。

それにしても警察の階級や上下関係って複雑すぎてよく判らない!
「巡査部長」というのは「警部補」の下なんだそうです。
しかも警察全体の階級で言ったら下から2番目。
会社で「部長」って言ったらもうすぐ役員ってイメージなのでこのギャップが大きいですね。
あと「刑事」というのもドラマによく出てきて派手なイメージがあるので組織の中でも花形なのかと思ったらそんなことないんですね~。
そういう、一般人には馴染みのない警察内部の力関係とか慣習とか操作手順などの知識や、組織の中での振る舞い方、生き方、仕事への取り組み方、人との接し方なども丁寧に判りやすく描かれているのでいろんな角度から楽しめる作品だと思います。

まだ読んでない作品がたくさんあるみたいなのでまだまだ楽しめそうです(^^)
他のシリーズ(「ST警視庁科学特捜班」とか)も面白そうなのでこちらも楽しみっ!

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2009/04/21

松井今朝子/吉原手引草

吉原手引草
吉原手引草

内容(「BOOK」データベースより)
なぜ、吉原一を誇った花魁葛城は、忽然と姿を消したのか?遣手、幇間、楼主、女衒、お大尽―吉原に生きる魑魅魍魎の口から語られる、廓の表と裏。やがて隠されていた真実が、葛城の決意と悲しみが、徐々に明らかになっていく…。誰の言葉が真実なのか。失踪事件の謎を追いながら、嘘と真が渦巻く吉原を見事に紡ぎあげた、次代を担う俊英の傑作。

07年前期の直木賞受賞作。
以前図書館で借りようと思ったらすごい順番待ちだったので「どうしようかな~」と思ってるうちに、文庫になってしまいました。
(どんだけ迷ってるんだ(笑))

吉原五丁町一と謳われながらある日忽然とその姿を消して行方が知れなくなった花魁・葛城。
吉原の中ではタブーとなっているその話題について茶屋の女将や店の主、芸者、幇間、葛城の贔屓客など葛城に関わった十数人の人々に次々に話を聞きまわる謎の人物。
それが誰なのか、何の目的なのか全く判らないまま読者はその人物の視点で吉原の中で暮らす様々な役割の人間たちの話を聞き、葛城の人となりや生き様を少しずつ理解し組み立てて行きます。
そしてその数々の証言の中から最後に葛城が吉原から消えうせた方法と理由、同時に謎の人物の正体とその目的が明らかになるのです。

人物の書き分け、吉原という特殊な場所のしきたりや慣習、そしてその中で見事に生き抜き自分の使命を全うした葛城という一人の女の人生の見事さ…どれもが圧倒的な迫力で、しかもバランスよく描かれていて最後まで一気に読ませる素晴らしい作品でした。

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2009/04/20

今野敏/イコン

イコン (講談社文庫)
イコン (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
マニアを熱狂させるバーチャル・アイドル、有森恵美。主役が登場しない奇妙なライブで、少年が刺殺された。警視庁生活安全部少年課の宇津木真は、仮想現実の世界で生まれたリアルな殺意の真相を探る。電脳メディアに宿る、現代の「聖画」とは!?若者たちの神々は降臨するのか…。傑作長編ミステリー。

安積班シリーズの長編。

この作品が書かれた1985年当時は「バーチャルアイドル」なんて概念はまだまだ「知る人ぞ知る」って感じだったんでしょうねえ。
情報だけの存在に人々の関心が集まり、熱狂し、ビジネスになり、やがてそれが実体を持って行く…今まで考えたこともないそんな存在をどう理解したらいいか判らず右往左往する(安積班を含めた)警察の捜査陣の混乱ぶり、そしてその混乱の中にあっても、刑事としての勘や積み上げてきた捜査資料から着実に真実に迫っていく様子が非常に丁寧にしかも読みやすく描かれていて読み応えがある作品でした。

それにしてもいまやインターネットという情報網は私たちの生活にとって当たり前のものになりそこから発信される膨大な情報、知識を日々受け取り続けている現在の状況を考えると、その侵食力・影響力の大きさに改めて脅威を感じますね。

この作品では事件の捜査を通して安積、速水、そして本庁生活安全課の宇津木という3人の同年代の警察官が登場します。
この3人の対比もかなり興味深いものがありました。
特に今までは仕事にもやりがいを見出せず、家庭も崩壊寸前だった宇津木が、安積と捜査活動を共にし、その仕事ぶり、部下との接し方に触れることで少しずついい方向に変わっていく過程が非常に印象的でした。

公的な犯罪捜査の部分と、こうした私的な部分が乖離せずにどちらも一人の男の人生の要素として自然に描かれている部分に深みを感じました。

3人の中ではやっぱり一番速水がカッコいいなあ、と思うのですが、彼はある意味ズルい役ではありますよね(笑)
でも安積がいつも細かいことに心を砕いて周囲と接しているように、速水には速水なりの気遣いや想いや迷い、悩みがあると思うので、そういう部分が描かれている作品が読んでみたくなりました。

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2009/04/11

今野敏/神南署安積班

神南署安積班 (ハルキ文庫)
神南署安積班 (ハルキ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
人と犯罪の溢れる街、渋谷。その街を管轄とする警視庁神南署に張り込む新聞記者たちの間で、信じられない噂が流れた。交通課の速水警部補が、援助交際をしているというのだ。記者の中には、真相を探ろうとするものも現れ、署内には不穏な空気が―。刑事課の安積警部補は、黙して語らない速水の無実を信じつつ、彼の尾行を始めるが…。警察官としての生き様を描く『噂』他、8編を収録。大好評安積警部補シリーズ待望の文庫化。

13日(月)から始まるドラマ「ハンチョウ 神南署安積班」の原作本。
東京の新設の警察署・神南署というに籍を置く安積警部補以下5名の強行犯係メンバーの活躍を描いた短篇集。
「スカウト」「噂」「夜回り」「自首」「刑事部屋の容疑者たち」「異動」「ツキ」「部下」「シンボル」の9編を収録。

かなりたくさんの既刊があるシリーズものらしいけど、私は今回初読。
他にもたくさんあったのですが、ドラマと同じタイトルだったし短篇で読みやすそうだったのでこれを選んでみました。
かなり面白かったです♪

警察を舞台にした作品だけど、トリック解明やアリバイ崩しなどミステリーの要素はなし。(この作品だけなのか、シリーズ全体そうなのかはまだ不明ですが)
犯人も犯行の内容も判った上で、犯人逮捕、事件解決に至るまでの安積班メンバーのさまざまなエピソードが描かれています。
そこから安積をはじめとしたメンバーのキャラクターやお互いの信頼関係が浮き彫りになっていくという構成。

安積班の個性的な刑事たちのキャラクターもそれを生かしたそれぞれのエピソードも短い枚数のなかで丁寧に描かれていてとても読みやすかったです。
安積班メンバーの人となりがすごくよく判って私のような初めての読者でもスムーズに面白く読めました。

安積警部補はちょっと「鬼平」みたいな感じですね。
個性的な部下たちを信頼して、その行動をきちんと把握していて、彼らが困っていたり失敗をしたらそれを切り開く手助けをすることが自分の仕事だと納得した上で行動している、という理想的な上司像になってます。
ただ「鬼平」みたいにカリスマ的な絶対的な力を持つというところまでは行っていないし、時折部下に対する苦手意識なども文章の中に散見されるのですが、逆にそのあたりの人間的な揺れや弱さの部分もまた魅力になっている気がします。

シリーズの他の作品もどんどん読んでいきたいと思います。
プラス、ドラマにも期待!

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北森鴻/虚栄の肖像

虚栄の肖像
虚栄の肖像

内容(「BOOK」データベースより)
舞い込んだ不思議な仕事。墓前での奇妙な花宴。そこで依頼されたのは肖像画の修復。報酬は、桜を活けた古備前というが…表題作ほか、藤田嗣治の修復を依頼された佐月が偶然、十五年前に別れた恋人に再会する「葡萄と乳房」。暁斎の孫弟子らしき謎の絵師を探るうちに思わぬ真実が立ち現れる、書き下ろし「秘画師遺聞」の全三篇。北森ワールドに浸る絵画修復ミステリー傑作連作短篇集。

花師と絵画修復師の2つの顔を持つ佐月恭壱を主人公にしたシリーズの第2弾。

前作同様、恭壱に依頼された絵画を巡り周囲の人間の思惑が複雑に絡み合っていて、読んでいくうちに「???」となってしまう部分も多少あったのですが、1つの話に出てくる登場人物が整理されていた分前作よりも読みやすかったです。

恭壱の別れた恋人が登場する「葡萄と乳房」「秘画師異聞」では恭壱の過去が少しずつ明らかにされていきます。
北森さんの作品にしてはかなり官能的なイメージを含む作品になっていますが、このシリーズ全体の持つ深く暗いイメージにとても合っていると思いました。
特に彼女の恭壱への想いが全て注ぎ込まれた「秘画師異聞」は迫力がある内容で読み応え充分。
他の作品よりも物語の構成がシンプルになっていることも、その迫力を最大限に引き出していたと思います。
でも、嫌いで別れたわけじゃない昔の恋人にここまでされたら(良くも悪しくも)一生忘れられなくなってしまうだろうなあ…と思うと、かなり怖い話ではありました^^;

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2009/04/01

北森鴻/深淵のガランス

深淵のガランス (文春文庫)
深淵のガランス (文春文庫)

内容(「MARC」データベースより)
大正末に活躍した洋画家の傑作を修復することになった佐月恭壱は、パリの町並の下に隠された別の絵に気が付くが…。花師と絵画修復師、2つの顔を持つ男が絵画の謎に迫る表題作と、その続編「血色夢」を収録。

銀座を根城にする花師、そして一流の腕を持つ絵画修復師という二つの顔を持つ佐月恭壱を主人公にしたシリーズの1冊目。
表題作他「血色夢」「凍月」の3作を収録した短篇集。

好きな分野の話ではあるのだけど、いかんせん好きだというだけで知識がない私にはちょっと難しかった。
登場人物の言動に専門的な部分が多くて、具体的にどんなことをしているのか、起こっているのか、とか、その会話の持つ意味合いを把握するのが難しくて、物語を「楽しむ」というところまでは辿り着けなかった感じ。

ただ、恭壱を始めとする登場人物たちはいずれも一癖二癖あって魅力的だし、普段の生活では縁のない「絵画修復師」という仕事の一端を垣間見られたのは良かった。
既に2冊目(『虚栄の肖像』)も出ているようなので、こちらも読んでみよう。

この作品にも、北森氏の他のシリーズもの同様お馴染みの作品の登場人物とおぼしき影がちらついています。
そのうち全部がクロスした作品が読める日が来るのかな~?
楽しみですね。

虚栄の肖像
虚栄の肖像

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'09年4月の読了本

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2009/03/27

海堂尊/ブラックペアン1988

ブラックペアン1988
ブラックペアン1988

内容(「BOOK」データベースより)
外科研修医世良が飛び込んだのは君臨する“神の手”教授に新兵器導入の講師、技術偏重の医局員ら、策謀渦巻く大学病院…大出血の手術現場で世良が見た医師たちの凄絶で高貴な覚悟。

『チーム・バチスタ~』に東城大学医学部付属病院の院長として登場する高階が、講師として初めて病院に現れた1988年当時のことを描いた作品。

面白かったです!

国家試験に合格したばかりの1年生医師世良の目を通した形で物語が進むので『チーム・バチスタ~』以降の作品のように専門用語や略語、大げさすぎるあだ名の濫用がないし、ストーリーの構成自体もかなりシンプルなのでとてもスムーズに読み進められました。

ミステリーではないので謎解きの要素はないのですが、その分病院内のそれぞれの立場の人間たちの信念や思惑、駆け引きなどがストレートかつ緻密に表現されていて、どっしりした骨太な作品に仕上がっていたと思います。

ラストはその前の流れから想像出来る範囲の展開で意外性はないのですが、そこに至るまでに描かれた経緯や人間関係をきちんと踏襲した内容になっていて説得力があったし表現も緊迫感があり読み応えがありました。

高階院長だけでなく、その後のシリーズに登場する面々の若き日の姿が描かれているのも、シリーズを読んでいる読者には楽しめるポイントなのでは。
田口、速水、島津の同期トリオも研修生としてちょっとだけ登場します。
その後のそれぞれの行く末を暗示するキャラクター設定がされているのはさすがです。

『チーム・バチスタ~』とは舞台設定の時期が異なるためか一緒の流れで取り上げられることが少ない作品ですが、海堂氏の作品の中でもかなり上質な作品だと思います。

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坂木司/夜の光

夜の光
夜の光

出版社 / 著者からの内容紹介
慰めはいらない。癒されなくていい。本当の仲間が、ほんの少しだけいればいい。
本当の自分はここにはいない。高校での私たちは、常に仮面を被って過ごしている。家族、恋愛、将来……。問題はそれぞれ違うが、みな強敵を相手に苦戦を余儀なくされている。そんな私たちが唯一寛げる場所がこの天文部。ここには、暖かくはないが、確かに共振し合える仲間がいる。そしてそれは、本当に得難いことなのだ。

面白かったです。

家族との関係や自分自身の存在に疑問や苛立ち、違和感を抱えいつか自分らしく生きられる場所に辿り着くために「本当の自分」を隠して学校生活を送る4人の男女。
その4人がたまたま入部した天文部で、それぞれが自分と同じように「戦っている」ことに気付き、クールだけど得難い仲間として友情を育てていく物語です。

仲間を見つけたからといって自分の悩みが解決するわけではないけれど、自分以外の人間の言動から問題に直面したときの対処法、柔軟さ、他者に対する優しさ・強さを学び、そして前に進む勇気を貰って成長していく4人の姿が愛情に満ちた優しい筆致で描かれています。

4人の周囲で起こるちょっとした謎を解決することで、少しずつそれぞれの親密度、信頼感を増していくという流れなのですが、謎(事件)自体は高校の校内で起こる事件なのでそんなに派手だったり意外性があったりするわけではありません。
ただ、その特別過ぎない、本当に実際にあり得そうなリアルな感じが却って物語に説得力を与えているように思いました。
特に学園祭のバザーで買ったセーターが原因でトラブルが起こる話は愛のある結末も含め、とても印象的なエピソードでした。
(あと、Gunsの曲が山ほど出てくるエピソードは意外すぎてビックリでした!(笑))

それぞれが語り手になった作品が各1編ずつ(「季節外れの光」「スペシャル」「片道切符のハニー」「化石と爆弾」)と、4人が高校を卒業しそれぞれの道を歩み始めてしばらくしてまた再会する様子を描いた1編(「それだけのこと」)の計5編を収録。
びっくりするようなどんでん返しもなく、全体的に淡々とした展開のまま終始しますが、自分の人生を自分の意志で歩み始めた若者たちの確かな決意が伝わってくるいい作品でした。

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2009/03/01

'09年3月の読了本

  • 黒川博行『てとろどときしん』(講談社文庫)
  • 大石英司『女神(ミューズ)のための円舞曲(ワルツ)』(中公文庫)
  • 有栖川有栖『ダリの繭』(角川文庫)
  • 柳広司『シートン(探偵)動物記』(光文社文庫)
  • 鯨統一郎『なみだ特捜班におまかせ!』(祥伝社文庫)
  • 坂木司『夜の光』(新潮社)
  • 海堂尊『ブラックペアン1988』(講談社)

※感想を書いた本には該当ページへのリンクが張ってあります。

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2009/02/23

東野圭吾/嘘をもうひとつだけ

嘘をもうひとつだけ (講談社文庫)
嘘をもうひとつだけ (講談社文庫)

バレエ団の事務員が自宅マンションのバルコニーから転落、死亡した。事件は自殺で処理の方向に向かっている。だが、同じマンションに住む元プリマ・バレリーナのもとに一人の刑事がやってきた。彼女には殺人動機はなく、疑わしい点はなにもないはずだ。ところが…。人間の悲哀を描く新しい形のミステリー。

東京練馬署の刑事・加賀恭一郎を主人公(探偵役)にした短編ミステリー集。
表題作の他「冷たい灼熱」「第二の希望」「狂った計算」「友の助言」の5編を収録。

面白かったです。

登場人物は殆ど加賀刑事と犯人のみ。
出てきたとしても犯人の周囲2~3人くらい。
その少ない人数との会話、証言、捜査によって、加賀が真実に迫り、鮮やかに解き明かすまでが描かれています。

短篇のせいか、ストーリーや謎はシンプルでストレートです。 
であるにも関わらず、非常に読み応えがあるんですよねえ。
簡潔で端正な文章の中に、必要な情報と伏線、そして登場人物の想いまでがギュッと詰まっていて、濃厚なのにうるさくない。
決して過剰に書き込んであるわけではないのに犯人の人間関係や心情、行動などが、すごくクッキリと浮かび上がってきます。
なので、読者はそこに描かれている内容以上の物語を、作品から感じ取ることが出来るのではないかと思います。
東野氏が文章巧者なのは認識していましたが、こんなに実感として「巧いな~」と感じたのは初めてだったかもしれません。

短編なのに、2時間ドラマ1本くらい余裕で作れそうな膨らみがあり、余韻も充分な作品ばかりでした。

そして、何より主役として犯人を追い込んでいく加賀刑事が魅力的。
論理的で行動力があり冷静で、でもその奥に情熱を秘めているというタイプです。
私のイメージでは堤(真一)さんをもうちょっと若くした感じかな、と思いました。

私は東野作品ってポツポツとしか読んでいないので知らなかったのですが、主役の加賀刑事はかなり多数の作品に登場しているんですね。
他の作品も読むのが楽しみです。

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2009/02/22

畠中恵/つくもがみ貸します

つくもがみ貸します
つくもがみ貸します

お江戸の片隅、お紅と清次の姉弟二人で切り盛りする、小さなお店「出雲屋」。鍋、釜、布団にふんどしまで、何でも貸し出す出雲屋ですが、よそにはないような、ちょっと妙な品も混じっているようで…。彼らは、生まれて百年を経て、つくもがみという妖怪に化した古道具。気位も高く、いたずら好きでおせっかいな妖怪たちは、今日もせっせと、出雲屋を引っ掻き回すのでありました。ほろりと切なく、ふんわり暖かい。畠中ワールド、待望の最新作。

人間と妖の関係を描いているのは「しゃばけ」シリーズと同じですが、こちらの作品の中の妖は小道具屋兼損料屋の商品として登場するので「しゃばけ」のように全面的に人間の味方だったり協力的だったりはしません。
(といっても「しゃばけ」も妖たちが味方するのは若旦那だけであって、他の人間はいてもいなくても同じ、という部分はあるわけですが)
自分勝手で働くのが嫌いでお喋り好き、詮索好きな彼らはお紅と清次の都合で動かされることにブーブー文句ばっかり。
でも、結局何だかんだ言ってもちゃんと必要な情報を集めて帰ってきてくれる。
それは、自分たちの存在を知っても気味悪がったり売り払ったりせずに大切にしてくれる2人のためであるのと同時に、そういう居場所を失わないための彼らのしたたかな計算だったりもするんですよね。
そういう、一見仲が悪そうなのに、実はお互いに大切に想っているという距離感の関係が巧く描かれていて楽しく読めました。

それぞれの短篇に日本の色を表す名前(「利休鼠」「裏葉柳」「秘色」「似せ紫」「蘇芳」)がついていて、最初のページの紙色がその色になっているのもおしゃれでした。

ただ、作品全体を通じてキーワードとなる「蘇芳」について、最初のお紅のこだわり方とその後明らかになっていく関係性になんとなくしっくりこない部分があったのが残念。

それと、結末が「多分こうなるんだろうなあ」と思っていたそのままだったのが物足りなかったです。
最後はあそこに辿り着くのはいいにしても、その前にもうひとひねりあってもよかったのでは。

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2009/02/15

加藤実秋/インディゴの夜 ホワイトクロウ

インディゴの夜 ホワイトクロウ (ミステリ・フロンティア)
インディゴの夜 ホワイトクロウ (ミステリ・フロンティア)

内容(「BOOK」データベースより)
スタイリッシュで、個性的なホストが集うclub indigoはオープン三年目を迎え、リニューアルを決定。ある伝手で有名インテリアデザイナーに内装を依頼した。改装工事の間、店は仮店舗で営業することになる。そんなバタバタの中、ホスト達はそれぞれトラブルに見舞われて…。ジョン太、アレックス、犬マンがプライベートで巻き込まれた事件の顛末に加え、indigoリニューアルに絡む騒動まで勃発。ますます快調なシリーズ第三弾。ホスト探偵団は、今日も夜の街を駆け抜ける。

「インディゴの夜」シリーズの3冊目。
表題作他「神山グラフィティ」「ラスカル3」「シン・アイス」の4編が収録されています。

今回は、「元の店舗をリニューアルするために仮店舗で営業することになった」という設定のせいか店員全体での動きではなく、ホストの誰かがプライベートの部分で巻き込まれた出来事を解決する、という内容がメイン。
その分内容がシンプルでスピード感があって読みやすかったです。
更に、バラバラに起こっているように見えたそれぞれの事件が、ラストに配置された表題作で実はちょっとずつ繋がっていたというのが見えてくる構成もよかったです。

ただ、表題作は始まって数ページで大体どんなトラブルが起こるか読めてしまうという、ちょっとありがちなパターンの話だったり、最後の謎解きが「真相はこういうことだった」と直接書いてあるのはちょっと残念でした。
この、物語の終わらせ方は一つ前の「シン・アイス」にも同じ印象を受けました。
急激に話の方向性が切り替わるのではなく、話を進めつつ伏線とか会話とかエピソードとかで読者にも推理する余地を与えたり、ちょっとずつ結末が見えてくるような書き方をして欲しかったです。

お店のナンバーワンホスト・ジョン太の不器用な恋模様を描いた「神山グラフィティ」が可愛らしくまとまっていて一番好きでした。

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2009/02/07

柴田よしき/謎の転倒犬-石狩くんと(株)魔泉洞

謎の転倒犬―石狩くんと(株)魔泉洞 (創元クライム・クラブ)
謎の転倒犬―石狩くんと(株)魔泉洞 (創元クライム・クラブ)

内容(「BOOK」データベースより)
深夜のアルバイトを終えた僕が偶然出会った、厚化粧の女性。なんと彼女は連日女の子が行列をなす、カリスマ占い師・摩耶優麗だった。時を遡って過去を見てきたと嘯く彼女に、ズバリ言い当てられた僕の過去。きっと何かカラクリがあるはずだ!ミステリ同好会の僕が必ずこの謎を解いてやる!(株)魔泉洞に持ち込まれる不思議な事件を、鮮やかに解く、優麗の推理(占い?)。そして石狩くんの受難をユーモラスに描いた本格ミステリ連作集。

柴田さんの作品は上手い分、重い作品を読むと自分の気持ちも引っ張られてしまうのでちょっと敬遠してしまうことが多かったのですが、これは「よく判らないタイトルだけど少なくとも重い内容ではないだろう」と見当を付けて読んでみました。
結果、読みやすくて面白かったです♪

大学の卒業は決まったものの就職先が決まらない石狩くんはひょんなことから人気占い師・摩耶優麗(まや・ゆうれ)と知り合い、彼女が社長を務める株式会社 魔泉洞に無理矢理就職させられ裏方と同時に優麗のアシスタントを勤めるハメに陥る。
そのなかで出会う不思議な話、出来事を優麗が解決していく、というストーリー。

短篇集だということもあり謎自体はそんなに手が込んだものはありませんが、その分読みやすく判りやすい内容になってます。
また、強気で我が儘、自分勝手だけど自分の役割と能力を知り尽くして行動する優麗、彼女の右腕として会社の雑務を一手に引き受けるオネエ言葉の中年男性・ウサギちゃんこと宇佐見儀一郎、そして気弱で要領が悪く何の取り柄もないけど何故か優麗に気に入られている石狩くん、といったキャラクターの設定や彼らのちぐはぐな会話が効果的でした。

表題作の他「時をかける熟女」「まぼろしのパンフレンド」「狙われた学割」「七セットふたたび」の4編を収録。
こうやって並べると不思議なタイトルの意味がハッキリしますね。
個人的には「七セットふたたび」というタイトルが一番ウケました(笑)

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畠中恵/いっちばん

いっちばん
いっちばん

内容(「BOOK」データベースより)
摩訶不思議な妖怪に守られながら、今日も元気に(?)寝込んでいる日本橋大店の若だんな・一太郎に持ち込まれるは、訳ありの頼み事やらお江戸を騒がす難事件。お馴染みの妖がオールキャストで活躍する「いっちばん」、厚化粧のお雛ちゃんの素顔が明らかになる「ひなのちよがみ」の他三編を収録。大人気「しゃばけ」シリーズ第七弾。

「しゃばけ」シリーズも七冊目。
安定してますね。
若旦那と周囲の人間たち、そして妖(あやかし)たちの作り出す作品の雰囲気と、物語の内容のバランスがちょうど良くて、安心して読めて、終わった後ほっこりした気持ちが残る素敵な作品ばかりでした。

ただ、以前の作品で出てきた登場人物が再登場する場面がいくつかあるのですが、説明があっさりしすぎているので誰だか思い出せなくてちょっと困りました。
前に出てきた人物についてどこまで書くかの判断は難しいのかもしれませんが、私みたいなメインの登場人物以外はあまり記憶にありませんな読者やたまたまこの作品から読み始めたという読者にはちょっと不親切だったかな、と思いました。

「いっちばん」「いっぷく」「天狗の使い魔」「餡子は甘いか」「ひなのちよがみ」の5編を収録。

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2009/02/01

'09年2月の読了本

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2009/01/30

中野京子/怖い絵

怖い絵
怖い絵

内容(「BOOK」データベースより)
一見幸せな家族『グラハム家の子どもたち』…けれど、この絵の完成後?スポットライトを浴びるドガの『踊り子』…じつは、この時代のバレリーナは?キューピッドのキスを受ける豊満な裸体『愛の寓意』…でもほんとは、このふたり?名画に塗り込められた恐怖の物語。心の底からゾッとする名画の見方、教えます。

小説ではなく、美術作品(絵画)の解説本です。
ドガやムンク、ゴヤなど一般的に著名な画家から、あまり名前を聞いたことのない画家まで20人の作品が集められ、その絵がいかに「怖さ」を秘めているかが解説されています。

新聞の広告で見かけて「面白そう」と思って図書館に予約したら、けっこうな順番待ち。
手元に来るまでに2カ月くらい掛かりました。
だからかも知れませんが、全体的に「思ったよりも…」という読後感でした。
恐怖というのは個人的な体験や想像力、感覚に依るところが大きいので、そうしたものを共有出来なかったということかなと思います。
でも、20作の中には全く知らなかった絵、画家もかなり数多くあったので、新しい作品、芸術家を知るきっかけになったのは良かったです。

紹介されている20枚の中には見た目からして怖い絵(例えば、ゴヤの『我が子を喰らうサトゥルヌス』とかジェンティレスキ『ホロフェルネスの首を斬るユーディト』とかベーコンの『ベラスケス<教皇インノケンティウス十世像>による習作』とか)もたくさん紹介されていますが、私が一番印象的だと思ったのはクノップフの『見捨てられた街』という作品。
一見静けさに満ちた穏やかな風景画のように見えるのですが、ずっと細部まで見ていくとおかしな部分が見えてきてだんだん平衡感覚がずれてくる、やがて精神がこの人の気配が全くない街に囚われてしまう…そんな感じがする絵です。
日本の美術館はどこに行ってもたいてい人が大勢いて一人きりになることは滅多にありませんが、外国の大きな美術館の誰もいない部屋などでこの絵と対峙してしまったらかなり怖いかも…と想像してしまいました。
この絵はクノップフがローデンバックの小説『死都ブルージュ』に触発されて描いた絵だとのこと。
この小説もおもしろそうなので今度読んでみようと思います。

死都ブリュージュ (岩波文庫)
死都ブリュージュ (岩波文庫)
ローデンバック集成 (ちくま文庫)
ローデンバック集成 (ちくま文庫)

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2009/01/19

恩田陸/ネクロポリス(上・下)

ネクロポリス 上 (朝日文庫)
ネクロポリス 上 (朝日文庫)
ネクロポリス 下 (朝日文庫)
ネクロポリス 下 (朝日文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
懐かしい故人と再会できる聖地―アナザー・ヒル。死者たちを『お客さん』と呼び、温かく迎えるヒガンという祝祭空間。連続殺人、不可思議な風習、天変地異、そこに新たな事件が―めくるめく想像力でつづられる謎とファンタジーの結晶体。

面白かった!

本屋の新刊文庫コーナーで見つけたときは、分厚いし、上下巻だし、しかもタイトルも表紙絵もオドロオドロしいのでヘビィな内容だったらヤだなあ…と思って一瞬躊躇したのですが、たまたま出先で待ち時間があって、でも何も読むものがないという状況だったので「いいや!」と思って購入したのでした。
で、読み始めてみたら、最初の印象と違ってすごく読みやすくてサクサク読めて最後まですごく楽しめました。

内容はミステリー風味のファンタジー、または幻想小説といった感じでしょうか。
イギリスと日本が融合したような風土と習慣を持つV.ファーという架空の土地、その中でもまた特別の意味を持つ「アナザー・ヒル」という場所の設定が秀逸でした。
イギリスは私も大好きな国。
大陸を隔てて反対側にあるのに、何故か日本と似てる気がするんですよねえ。
特に空気の重さとか質感とか。
なので「イギリス+日本」という設定は個人的にすごくツボで、それだけでマルでした。

それに加えて好奇心旺盛でおしゃべり好き、何があってもある程度時間が経てば当然のように受け入れて順応してしまうV.ファーの住民たちの描き方も魅力的でした。
血塗れの惨殺死体や幽霊や超常現象などがたくさん出て来て重くて読みにくくなっていきそうな物語を、全体的に妙に明るい雰囲気にしてくれていたのは彼らの存在だったと思います。

全体的に緩急があったし「どこに着地するんだろう」と最後までワクワクドキドキさせてくれて面白く読んだのですが、唯一残念だったのは連続殺人事件の犯人との対決が何となく中途半端な印象で終わってしまったこと。
あれだけヤ~な感じの捨て台詞を残して去って行ったので、どんな対決シーンがあってどんな決着が着くのかと期待していたら、あっさり終わってしまって…ちょっとビックリ。
あれはちょっと納得行きませんでした。
ラインマンももっと活躍して欲しかったな。

あ、それと、主人公のジュンの一人称が「俺」だったのがちょっと引っかかりました。
あの性格設定だったら「僕」のほうが似合うんじゃないかなあ。

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2009/01/01

'09年1月の読了本

  • 翔田寛『消えた山高帽子-チャールズ・ワーグマンの事件簿』(創元推理文庫)
  • 上橋菜穂子『孤笛のかなた』(新潮文庫)
  • 別冊宝島編集部 編『「パクリ・盗作」スキャンダル事件簿』(宝島文庫)
  • 恩田陸『ネクロポリス(上下)』(朝日文庫)
  • 中野京子『怖い絵』(朝日出版社)

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2008/12/21

赤城毅/書物狩人、書物迷宮

書物狩人 (講談社ノベルス)
書物狩人 (講談社ノベルス)
書物迷宮 (講談社ノベルス)
書物迷宮 (講談社ノベルス)

内容(「BOOK」データベースより)
世にでれば、国を、政治を、歴史を揺るがしかねない秘密をはらんだ本を、合法非合法を問わず、あらゆる手段を用いて入手する。
その存在は謎に包まれ、彼らの活動が表に出たことは一度もない―書物狩人。バチカンから獲得を依頼されたギリシア語写本やナポレオンの旧蔵書…。書物狩人が鮮やかに稀覯本に隠された物語を紐解く。

依頼人の希望に応えて世界中の稀覯本をあらゆる手段を使って入手する「書物狩人」という設定が面白かった。
しかも、単にその本を入手する過程だけを描くのではなく、その本がどんな意味を持ち何故重要なのかを読者にも判りやすく、しかもリアリティを持って描かれているので歴史的蘊蓄本としても楽しかった。
(もちろんあくまでこれはフィクションなのだけれど)
また「ル・シャスール」と呼ばれる敏腕の狩人が、ただお金のためだけに動くのではなくそれ以上に自らも本を愛していることはもちろん、人間としての「情」もきちんと持っているバランスの取れた人物像であり、それに沿ったきれいな結末になっているのも読みやすさの要因かと。

3冊目以降も期待したい。

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石田衣良/反自殺クラブ、灰色のピーターパン

反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパーク〈5〉 (文春文庫)
反自殺クラブ―池袋ウエストゲートパーク〈5〉 (文春文庫)
灰色のピーターパン―池袋ウエストゲートパーク〈6〉 (文春文庫)
灰色のピーターパン―池袋ウエストゲートパーク〈6〉 (文春文庫)

IWGPシリーズの5冊目と6冊目。
この間最新刊を読んだので遡って読んでみました。

う~ん、読みやすいし、面白いとも思うんだけど…前みたいにガーッと入り込む感じではないなあ。

一番好きだったのは、『灰色の~』に収録されていた「野獣とリユニオン」。
重いテーマで、現実にある同じような問題がこんなふうな結末を迎えられることは難しいのかもしれないけど、それでも「そうあって欲しい」と願いを込めた希望のある明るいラストが良かった。

『灰色の~』の解説を吉田伸子さんが書いてるんだけど、その中の

マコトにとってタカシとサルは、「水戸黄門」の助さん、格さんのようなもの

という一文を読んで「ああ!」と納得してしまった。
そうか、そうだったのか!(笑)

ただ、タカシやサルのような力がある人物がそうやって助力してくれることもマコトの魅力であり、人望でもあるんだろうけど、そしてその自分が行使できる力を依頼者に無償で提供できるマコトと出会えたからこそ救われた人は多いのだろうけど、でもそこにもまた「持つもの」と「持たざるもの」、「ラッキー」「アンラッキー」というラベルは存在するんだなあ…と感じてしまうのは、私が疲れているからなのかな。
こういうエンターテイメントくらい素直に読んで、素直に楽しんだり感動したり出来る気持ちの余裕が欲しいと思う今日この頃です。

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大倉崇裕/福家警部補の挨拶

福家警部補の挨拶 (創元推理文庫)
福家警部補の挨拶 (創元推理文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
本への愛を貫く私設図書館長、退職後大学講師に転じた科警研の名主任、長年のライバルを葬った女優、良い酒を造り続けるために水火を踏む酒造会社社長―冒頭で犯人側の視点から犯行の首尾を語り、その後捜査担当の福家警部補がいかにして事件の真相を手繰り寄せていくかを描く倒叙形式の本格ミステリ。刑事コロンボ、古畑任三郎の手法で畳みかける、四編収録のシリーズ第一集。

面白かった。
最初に事件が起こって、そこで提示された状況から不自然な部分を拾い出し、それに対する証言や言い訳、説明、状況証拠でもって正しい結論を導き出すという、こういう形式のミステリーは判りやすくて好きだな~。
なんだかすごく難しいパズルを誰かが解いているのを、傍で

観戦(?)している感じ。
時間を掛けて少しずつ真実の姿が見えてきて、最後のピースがパチリと嵌って完成したときの気持ちよさ、鮮やかさが気持ちいい。
特に「オッカムの剃刀」は、途中の何気ない会話の内容が意外な力を持って蘇ってくるラストが素晴らしかった。

主役の福家警部補は、小柄で童顔、「刑事には見えない」女性、という設定。
面白い設定ではあるんだけど、事件解決に主眼が置かれているためか主役の彼女を始め登場人物にはちょっとインパクトに欠けるかな、という印象。
「古畑~」まで行ってしまうと遊びすぎかもしれないけど殆どのシーンやエピソードが彼女一人の力で進んでいくのを考えると、もうちょっと登場人物の人となりが判るエピソードがあってもよかったかも。
そんな中では「愛情のシナリオ」で明かされるマイナーな映画好きな一面や、「月の雫」の中での飲み比べのエピソードが楽しかった。

「最後の一冊」「オッカムの剃刀」「愛情のシナリオ」「月の雫」の4編を収録。

ちなみにこの作品、来年1月2日にNHKでドラマ化されるらしい。
福家役は永作博美。うん、いいんじゃないですか。
…と思ったけど、このページの写真を見たらちょっと不安になってきた…^^;
ちょっと作りすぎでは?
私はいつもの永作さんでいいと思うんだけどなあ。
(コケティッシュな部分はちょっと控え目で)
でも、まあ一応チェックしてみよう。

小説のほうはシリーズ化されてこのあとも順調に本数を増やしているとのこと。
今後の続刊が楽しみ♪

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2008/12/20

矢崎存美/訪問者ぶたぶた

訪問者ぶたぶた (光文社文庫)
訪問者ぶたぶた (光文社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
ホストのコウは焦っていた。ナンバーワンは引き抜かれ、オーナーは病に倒れ…。そんなとき耳にした“伝説のホスト”の噂。不滅の売上記録を持つ謎の男とは?(「伝説のホスト」)。もう〆切に間に合わない―。アシスタントたちに逃げられ、独り泣く少女マンガ家の元にスゴ腕の助っ人がやって来た(「ふたりの夜」)。笑いの後にじんとくる、人気シリーズ最新作。

久々(1年振り)のぶたぶたさんは相変わらず働き者です。
今回は、神様(?)、伝説のホスト(!)、小学校の先生、マンガ家のアシスタント、お菓子メーカーのセールスマン、というラインナップでした。
ピンクのブタのぬいぐるみなのに、何をやっても似合ってそうなのが不思議…(笑)

全て短篇なのでサクサク読み終わります。

「神様が来た!」「伝説のホスト」「気まずい時間」「ふたりの夜」「冬の庭園」の5編を収録。
私は「神様が来た!」が好きでした。

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2008/12/14

北村鴻/冥府神(アヌビス)の産声

冥府神の産声 新装版 (光文社文庫 き 12-4)
冥府神の産声 新装版 (光文社文庫 き 12-4)

内容(「BOOK」データベースより)
脳死臨調でリーダー的存在であった帝都大学医学部教授の吉井が刺殺された!かつて吉井の部下だった医療ライターの相馬は、やはり研究室を去った元同僚を追う。その男、九条は、新宿のホームレス街にいた。不思議な能力を持つ少女、トウトとともに…。九条と殺人事件との関係は?また、彼が行った禁断の実験とは?深い余韻を残す医療ミステリーの傑作。

日本で"脳死"という概念が法律的に認められたのが1997年。(臓器移植法
その"脳死"をテーマとしたこの作品の初出も同じ1997年。
帯のコピーに「北森鴻、初期の傑作」と書いてあったけど、この発表のタイミングを考えただけでも「さすが」という感じ。

内容は脳死の法整備に対して推進派のトップであった大学教授が何者かに殺された事件の真相をかつて彼の教え子であった医療ライターの相馬が一人で追いかけ、ついに意外な犯人をつきとめる…というストーリー。
登場人物が多いので途中ちょっと混乱するところもあったけど、全体的に読みやすく判りやすいストーリーの物語だった。

物語の中盤で推進派のリーダーと保守派のリーダーの考えが入れ代わっていたことが判明するんだけど、その原因がある酷似したことがそれぞれの身近に起こったことだった、という展開がとても印象的だった。
"脳死"というものの持つデリケートさ、割り切れなさが非常に巧く表現された部分だったと思う。

新宿西口のダンボール村の住人たちとか、製薬会社の怪しい営業部員とか脇役の使い方も巧かった。

ただ事件には直接関係しないものの物語の象徴的な存在として登場する謎の少女・トウトは印象的ではあるものの、結局何者だったのかよく判らないまま終わってしまったのがちょっと腑に落ちなかったな。
「敢えて」そういう書き方をしたのかもしれないけど。

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2008/11/13

石田衣良/非正規レジスタンス―池袋ウエストゲートパーク8

非正規レジスタンス―池袋ウエストゲートパーク8
非正規レジスタンス―池袋ウエストゲートパーク8

「IWGP」シリーズ最新刊。
この作品はシリーズ8作目なんだけど、私は4作目の『電子の星』以降読んでいなかったのですごく久しぶり。
以前は新刊が出るたびにサイン会にも行っちゃうくらい好きだったのに、最近とんとご無沙汰だった。
(というか、衣良さんの作品自体、最近読んでないな^^;)

そんな状態で何故いきなり出たばかりのこれを読んだかというと、会社の後輩くんが
「読み終わったんで貸しますよ~」
と言ってくれたから。
でなければ、この作品を読むのは早くても文庫に落ちる2~3年後だったかも…。

そんなわけでIWGP8作目「非正規レジスタンス」なわけですが。
…なんだかパンチが足りない…。
文章は相変わらずスピード感があってすごく読みやすいんだけど、あまりにもスムーズすぎて引っかかりが全然ないんだよね。
スルスルスル~ッと読めちゃうんで、ボーッと読んでいたらそのまま終わってしまった、って感じ。
特に最初の2作(「千川フォールアウト・マザー」「池袋クリンナップス」)にそれを強く感じた。

元々マコトたちっていろいろぶっ飛ばしているように見えて実は一番大事な、譲れない部分はきちんと守っているという人間的な正しさというものをちゃんと持っているところが魅力。
私もそこが好きで、その部分に何度も泣かされた。
だから今回も最後がきれいに終わるのはいいんだけど、そこに至るまでの展開がなんだか薄い感じがするんだよねえ。
「いや、そんなのマコトじゃなくても解決できるんじゃ?」と思ってしまうことが多かった。

特に各編の最初の部分で、マコトの独白の形でこれから始まる物語がこんな話だって解説してあるのがすごく気になった。
(前もこんな始まり方だったっけ?)
確かに「切り捨てられていく社会的弱者」の問題も「環境」の問題も大切かもしれないけど、それをわざわざ「こういう話が書いてあるんだよ」って説明しなくてもいいんじゃないの?
それを言わなくても、理解させるのが「物語の力」ってヤツなんじゃ?
それとも、そうでもしないと伝わらないと衣良さんは思っているということなのかなあ…。

でもさすがに表題作「非正規レジスタンス」は面白かった。
これだけは積み重ねられたエピソードのバランスや細かい伏線、ざらつく手触り、愛すべき登場人物たちの痛みや苦しみがきちんと伝わってくる作品だった。
現実と比較して考えるとラストがちょっと上手く行きすぎって感じがあったけど…お話だからこれでいいのかな。

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2008/10/28

二階堂黎人/稀覯人(コレクター)の不思議

稀覯人の不思議 (光文社文庫 に 18-6)
稀覯人の不思議 (光文社文庫 に 18-6)

内容(「BOOK」データベースより)
手塚治虫愛好会の会長が自宅の離れで殺され、貴重な手塚マンガの古書が盗まれた。しかも犯人は密室状態の部屋から消え失せてしまった!犯人は愛好会のメンバーなのか?大学生、水乃サトルが持ち前の頭脳と知識と軽薄さを駆使し、高価なマンガ古書を巡る欲望と、マニア心が渦巻く事件の謎を解く。

けっこう長い(430ページ)しテーマがテーマなんで読み切れるかどうか心配したのですが、思った以上にサクサク読めました。

手塚ファンで、かつ稀覯本コレクターというのがこの作品の主な登場人物たち。
よって、作品中では手塚作品について、そして稀覯本についての蘊蓄が山ほど披露されています。

でも、それがマニアックな描写になり過ぎず門外漢でも興味を持って読める内容になっているところ(でも作品名の羅列はちょっとツライ…)や、そういった情報を交えつつ事件の関係者である登場人物たちの人となりや行動をきちんと誤魔化しなく判りやすく書いてあってとても読みやすかったです。

また、伏線もきっちり書いてあるので、最後の水乃サトルによる推理(謎解き)も納得出来ました。

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2008/10/19

高田崇史/QED ~ventus~熊野の残照

QED~ventus~熊野の残照 (講談社文庫 た 88-16)
QED~ventus~熊野の残照 (講談社文庫 た 88-16)

内容(「MARC」データベースより)
伝承にまつわる一寸の「?」から歴史を辿る桑原崇と棚旗奈々の旅路は、故郷を捨てた神山礼子と共に、和歌山・熊野を舞台に牛王宝印に秘められた八咫烏の正体と熊野三山の謎を解く。「QED」シリーズ第10弾。

QEDシリーズ第10弾。

今回の舞台は熊野。
タタルと奈々の勤務先の薬局が所属している学校薬剤師会の親睦旅行で熊野にやってきた、という設定。
例によって例の如く、熊野の歴史についてタタルがひたすら喋りまくってます。
で、読んでいる私のほうも例によって例の如く読んだ端からどんどん忘れていってしまい、本を閉じると「読み終わった!」とか「すごく大量な活字を見たぞ」という(変な)満足感はあるものの後に残るものは殆どなかった…という感じ。
何だかもう、面白いのかつまらないのかさえも判らない状態になってます^^;
私の頭で処理するには情報量が多すぎるんでしょうねえ。

でも、この作品はこの旅の中で殺人事件が起こったりはしないので、その点は気楽に読めたかな。

それから、物語の語り手が2人と一緒に旅行に参加している神山礼子という奈々より年下の女性で、タタルと奈々の関係(やり取り)がこの女性の目から見た形で語られているのがなかなか楽しかった。
といっても、この礼子自身が過去に秘密があり、それによって他人、特に男性に対してすごく偏見を持っているという設定なので奈々はともかく、タタルはかなりひどい言われようでちょっと可哀想に思えてしまうくらいだったけど(笑)
というか、確かに他人には理解できないような悲惨な経験をしているのかもしれないけど、それによって自分を特別視して自分以外の他人を全て低く見ている、といった態度を取る礼子は正直苦手なタイプ。
いくら「心の中で思ってるだけで、表面には出していない」と思っていたって、そんなのはちょっと付き合えば(タタルじゃなくても)すぐ見えてくるものだと思うんだけどな~。
礼子がバカにしていたおばさんたちは、そんな礼子の頑なな気持ちも全て理解した上でお節介焼いたり話しかけたりしてくれていたんじゃないかと思うんだけど。

その礼子の忌まわしい過去の真相も最後はタタルの知識+推理によって明らかになる…という結末。
いつもに比べれば血も流れないし、穏やかな雰囲気で終わる読みやすい作品でした。

でも、タタルが話した内容はもう一生思い出せないと思う。
たとえこの先実際に熊野に行ったとしても(笑)

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2008/10/16

米澤穂信/愚者のエンドロール

愚者のエンドロール (角川スニーカー文庫)
愚者のエンドロール (角川スニーカー文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
「折木さん、わたしとても気になります」文化祭に出展するクラス製作の自主映画を観て千反田えるが呟いた。その映画のラストでは、廃屋の鍵のかかった密室で少年が腕を切り落とされ死んでいた。誰が彼を殺したのか?その方法は?だが、全てが明かされぬまま映画は尻切れとんぼで終わっていた。続きが気になる千反田は、仲間の折木奉太郎たちと共に結末探しに乗り出した!さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリの傑作。

神山高校古典部シリーズ第二弾。

う~ん…相変わらず、導入部が苦手だ…。

いくら体調不良でダウンしたからといっても死んだわけじゃないんだから、物語のトリックと結末くらい本人に確認するのが一番早いんじゃ?とどうしても思ってしまうんだよねえ。
もちろん、最後には「そうできなかった理由」というのも明示されるわけだけれど、引き受けた時点ではそれは伏せられているわけだよね。
だとしたら、引き受ける前に、そこをもっと追求するもんじゃないの?
という(身も蓋もない)部分が気になって仕方ないのだ。

そこを超えて話に入ってからの進め方や推理合戦(?)はすごく面白かったんだけどね。

ちなみに私はこういうシチュエーションだった場合、人が考えた内容の穴を見つけたりは出来るけど、自分独自の考え方や合理的なトリックを発見したりは出来ないタイプです^^;

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2008/10/14

霧村悠康/脳内出血

脳内出血 (だいわ文庫 I 118-1)
脳内出血 (だいわ文庫 I 118-1)

出版社/著者からの内容紹介
医療ミス、論文捏造、殺人......。大学病院という迷路で、医師は倫理を捨ててしまったのか。現役医師が告発する衝撃の医療ミステリー!

東京近郊のホテルで女性の変死体が発見されたが、身元に関する手がかりは何一つ出てこない。同じ頃、都内のホテルで開催された日本代謝病遺伝子学会では、国立O大学大学院に所属する二十八歳の医師が注目を集めていた。世界最高峰の科学誌に若くして論文が掲載されたのだ。ところが、その論文に捏造疑惑が持ち上がる----。現役医師だから書ける衝撃の医療ミステリー!

将来を嘱望された若手医師が書いた論文の捏造と、千葉県内のホテルで発見された身元不明の女性の変死体という全く関係がないように思われた事件が一つに結びついて行く…という構成。
ストーリーの枠組み自体は面白そうだと思ったんだけど…読んでみたら長かった…(T_T)

ページ数自体は430ページくらいだったんだけど、なんだか全体的に無駄な部分が多かったような気がする。

作品の冒頭(20ページ付近)で女性の変死体が見つかるシーンが出てくるんだけど、その後すぐに論文捏造の話に移ってしまってその後大学の内部や研究の話や論文の話が延々と続くんだよね。
その間(2ヶ月くらい)変死体は身元不明のまま。
で、そのまま論文の捏造を告発するところまで行って、ようやくそこで冒頭の変死体がこの大学と関係があるってことで捜査が入るんだけど、ここまでで250ページを超えてるんだよ。
ちょっと長すぎるんじゃないかと思うんだけど。

その他の部分も全体的に書き込みすぎって印象。
同じことが何度も繰り返して書かれていたり、あまりストーリー展開に関係のない専門的な話が長々と書かれているのがすごく気になった。
その分、肝心のメインストーリーの展開が遅々として進まない、というか空回りしている、というか。
確かに専門的な知識は読んでいて面白い部分もあるけど、ストーリーの進行を阻害するほどの量を書かれても読者としてはツライ。

それから、セリフ、特に独白部分の書き方がすごく説明っぽくなっていて違和感あり。
これもあまりにも長く複雑になっているストーリーを補完するために使われているような気がする。

そもそも何故冒頭の変死体は「殺された」のではなく、脳内出血で「死んでから首を絞められた」という設定にしたかの理由がよく判らなかった。
別に「首絞めて殺した」でもそんなに状況は変わらなかったのでは?
あと、犯人にはもうちょっと犯行に結びつく伏線を張っておいて欲しかったなあ。

全体的にもっとシンプルに、スピード感を持たせたストーリー展開にして欲しかったなあ。
論文や実験の説明を簡潔にして、変死体と論文の関係をもっと早い時期に絡ませて書けば半分くらいのページ数で終わったのでは。
じゃなければ論文捏造をメインにしてひたすら大学内部の話にしたほうが判りやすかったと思う。
(「チーム・バチスタ~」みたいにね)

ただ、島田のヤな奴っぷりはよく書けてたと思う。
モデルがいるのかしら?(笑)

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2008/10/13

光原百合/最後の願い

最後の願い (光文社文庫)
最後の願い (光文社文庫)

内容(「MARC」データベースより)
新しく劇団を作ろうとしている度会恭平。納得するメンバーを集めるため、日々人材を探し回る。その過程で出遭う謎。日常に潜む謎の奥にある人間ドラマを、優しい眼で描く青春ミステリー。

面白かった!

新しい劇団を作ろうとしている一人の青年が、こいつなら一緒に出来ると見込んだ人物に会いに行き、その相手が語る昔話から彼(女)の物語に秘められた真実をあぶり出し、それによって相手の興味や信頼を得ていく…という設定。

1話完結の短篇のように描かれた6つの物語の中で劇団の脚本原作者、役者、制作、美術担当者らが集められていく。
そして最後の短篇で集められた劇団員たちが一堂に会し、遂に旗揚げ好演の幕が上がる…という良くできた構成。

物語の設定、謎解きは丁寧によく考えられていて納得できる内容で読みやすかったし、登場人物が(芝居関係者という設定らしく)みんな個性的なのも楽しく読めた。
何より会話のテンポがいいのが印象的。

彼らがどんな芝居をするのか見てみたい。
それがダメならせめて続編を!

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恩田陸/ユージニア

ユージニア (角川文庫 お 48-2)
ユージニア (角川文庫 お 48-2)

出版社 / 著者からの内容紹介
あの夏、青沢家で催された米寿を祝う席で、 十七人が毒殺された。
ある男の遺書によって、一応の解決をみたはずの事件。町の記憶の底に埋もれた大量殺人事件が、年月を経てさまざまな視点から再構成される。

過去の(解決した、と思われている)事件の関係者へのインタビューのような形式で始まるので、宮部みゆきの『理由』を思い出した。
でも読み進めていくと、(当然ながら)全く別の作品だった。

『理由』は、取材者がただ淡々とその当時の関係者の話を聞き、その内容がそのまま読者に届けられるという形式が最初から最後まで貫かれていたのに対して、こちらはインタビュー形式あり、登場人物の中の一人が書いたこの事件を題材にした本の内容の引用だったり、完全に登場人物視点の小説形式だったりとさまざまな手法で事件のアウトラインをなぞっていく。
そして『理由』では、そうして関係者によって明らかにされる事件の断片によって少しずつ事件そのもの、そして犯人の心のうちまでが明らかにされていくのに対して、この作品は最初は判りやすそうに見えた事件が話を聞くことによってどんどん曖昧で不吉な、不気味なものに化けていく、といった印象が残る作品だった。
相変わらず恩田陸は「不安」を形にするのが巧い。

一番色んな意味で印象的だったのは現在の緋紗子を登場させた部分。
実際に読んでいる時点では「なんでここにこれを持ってきたのかな?」と思っていた。
予想ではもっと曖昧に、もっと不安定な形で終わるのかと思っていたのに、あそこで事件のある程度の形が見えてしまったのが展開としてちょっと意外な感じがしたので。

でも、読み終わってからもう一度物語をなぞってみたらまた違ったイメージが残っていることに気が付いた。
緋紗子を昔とは全くイメージの違った存在として登場させることで、「事件」とはまた別の意味の不気味さ、残酷さを表現していたとも思う。
彼女が過去の、誰かの中の美しい(そして同時に禍禍しい)思い出として語られるだけだったら、または何年経っても変わらないままの姿で登場したとしたら、彼女がその事件の象徴であるという事実は残り、そのために起こったあの悲惨な事件に「赦し」を与えてしまうことになる。
でも現実はそうではなく、年月はすべての人々の下に等しく訪れる、それは彼女も例外ではない、と気付かせる。
そしてただ「事件」だけがそこに残るのだ、という事実の大きさ。
そんなものを表現していたように思う。

最後まで犯人が特定されない(少なくとも小説の中に「この人である」とは書かれていない)ということについては、確かにスッキリしない気持ちも残るけど私としては「これはこういう作品なんだ」と理解することが出来た。

ただ、最後の章はちょっと意味が判らなかった。
犯人を特定せずに終わるのであれば、あの章は不要だったような気がする。
何よりあの「勘違い」の説明は説得力がなさすぎると思うんだけど、どうだろう。

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2008/10/05

近藤史恵/ヴァン・ショーをあなたに

ヴァン・ショーをあなたに (創元クライム・クラブ)
ヴァン・ショーをあなたに (創元クライム・クラブ)

下町の気取らないフレンチ・レストラン「ビストロ・パ・マル」のお客が持ち込んでくる謎を無愛想なシェフ・三舟が解決する作品を中心にした連作短篇集。
表題作他「錆びないスキレット」「憂さばらしのピストゥ」「ブーランジェリーのメロンパン」「マドモアゼル・ブイヤベースにご用心」「氷姫」「天空の泉」の7作を収録。

先日読んだ『タルト・タタンの夢』の続編。
前作では、全ての作品が「ビストロ・パ・マル」で起こった謎をギャルソンの高築くん視点で書いてあったけど、今回は7編のうち最初の4編が同じパターン、残りの3編のうち「氷姫」は「パ・マル」とは全く別の場所、別の人間関係の中で起こった悲しい物語に三舟シェフが回答を与える物語。
(これはよく読む近藤さんの他の作品にイメージが近い感じ)
そして、残りの2編は「パ・マル」のシェフになる前に世界中を放浪していた三舟青年を描いた物語になっている。

作品の構成は若干変化があったけど、どの作品も柔らかい雰囲気と納得できる展開、そしてそこに上手く「料理」というモチーフをきれいに組み込んだ前作同様魅力的な作品集になっていた。
そして何よりも読み終わったあとに、ホッと息をつけるそんな結末が全ての物語に与えられているのが素晴らしかった。

どれもよかったけど、中でもこの作品集の多くの作品で、疲れ果てたお客に三舟が振る舞うヴァン・ショー(シナモンやオレンジなどのスパイスを漬け込んだ赤ワインを温めたもの)の由来を描いた表題作が絶品。
無愛想だけど、洞察力に優れて、何より美味しいものを食べること、作ることに情熱と愛を持っている三舟青年が老婦人の心に刺さった棘を抜いて「安らかさ」を取り戻してあげる結末が見事だった。

もっともっと続編が出るのを期待したいシリーズ。

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2008/10/04

ナンシー・アサートン/ディミティおばさま現る 優しい幽霊1

ディミティおばさま現わる (ランダムハウス講談社 ア 5-1 優しい幽霊 1)
ディミティおばさま現わる (ランダムハウス講談社 ア 5-1 優しい幽霊 1)

内容紹介
米独立系ミステリ専門書店協会による20世紀ベスト・ミステリ100選出
幼い頃に大好きだった物語。
でもまさか、その主人公から遺言状が届くなんて!?
英国の小さな家が舞台のほのぼのミステリ
幼い頃、いつも母が聞かせてくれた『ディミティおばさまの物語』。
優しくて冒険心いっぱいのおばさまは、ロリのお気に入りだった。
でもまさか実在していたなんて!?
ある日突然、ディミティの遺言状を受け取ったロリは、指示されるがままに英国のディミティ邸へ。
すると暖炉の火がひとりでに燃えたり、白紙の日記帳に文字が浮かびあがったり――。どうやら幽霊になってもなお、おばさまは何か心の傷を抱えているらしく・・・・?
幽霊の謎に迫る、シリーズ第1弾

本の裏表紙に書かれていたあらすじ(上記と同じ文章)と、表紙の可愛らしいウサギのぬいぐるみのイラストを見て(またしても(笑))勝手に
「おとぎ話を卒業した(12歳くらい?)女の子が、昔好きだったお話に出てきた登場人物が実在していたことを知り彼女の遺した家に遊びに行く。そこにはその登場人物が幽霊として住み着いていた。その家の周囲で起こる不思議な事件を少女とおばさまの幽霊が協力して解決していく」
って感じの話かと思って読み始めたんだけど…見事に違っていた(笑)

まず主人公のロリは10代の少女ではなく、30代の女性。
しかも離婚して家庭も仕事も友達も失った上に、意地を張って疎遠になっている間にただ一人の肉親であった母も亡くしてしまい生きる気力を失いかけている…という設定。
そんなロリが、かつて自分を楽しませてくれた物語の中のディミテイおばさまが実在の人物だということ、しかも亡くなった母と親友だったことを知り、おばさまの遺言に従ってイギリスにあるおばさまの愛した小さな村の小さな家に滞在することになる。
そこでロリはおばさまが自分の中に閉じ込めて、親友である母にも明かさなかった悲しい「秘密」の正体を探し、その哀しみからおばさまの魂を解放する。
そしてそれは同時に、自分に自信を失い、母を孤独の中で一人死なせてしまったことで自分を責め続けるロリへの救いと癒しでもあった…という感じの話だった。

というわけで、思っていたのとは全く違う話だったけど、すごく面白かった。
この作品の魅力は、展開がスピーディで、登場人物が個性的かつ魅力的、しかも作品中に出てくるいくつものディミティおばさまの物語を始めとした物語の設定がきちんと考えられ読者に対して丁寧に判りやすく書かれていたところ。
そして何よりもその作品の魅力を余すところなく伝えてくれた(のであろう)鎌田三平氏の翻訳がすごく良かった。

この旅行(冒険)の中で傷ついたロリは自分への自信と母への愛を取り戻すと同時に、自分が愛する人、大切にしたい人も手に入れることになる。
私は恋愛小説は殆ど読まないのだけれど、この物語は不器用な二人が時々ぶつかりながら、でも少しずつお互いを受け入れ信頼し、寄り添い合っていく様子が丁寧に、でも邪魔になることなく書いてあるので自然に読むことが出来た。

この作品は《優しい幽霊》シリーズの1作目、とのこと。
イギリスでは14作が発表されていて、それが順次翻訳される予定らしい。
なかなか読み応えのあるシリーズになりそうなので今後の出版が楽しみ。

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2008/09/27

山本一力/赤絵の桜 損料屋喜八郎始末控え

赤絵の桜―損料屋喜八郎始末控え (文春文庫 や 29-7)
赤絵の桜―損料屋喜八郎始末控え (文春文庫 や 29-7)

内容(「MARC」データベースより)
損料屋に身をやつし、与力の秋山や深川のいなせな仲間たちと力を合わせて、次々と難事件を解決する喜八郎。江戸で繰り広げられる痛快事件簿、シリーズ第2弾! 短編連作5篇を収録。

シリーズ2作目。
1作目(著者のデビュー作)を読んでいたので2作目も、と思って読んでみたんだけど…1作目を読んでから随分時間が経っていた(6年)ので設定を殆ど忘れていて、最初のうちなかなか物語に入っていけなかった。
特に登場人物が多く、それぞれが重要な役割を担っている山本作品なので、彼らの人間関係が不明なのは致命的。
喜八郎が(当然)主役なのは覚えているけど、喜八郎以外に頻繁に出てくる「伊勢屋」と「米屋」と喜八郎の力関係がよく判らないのがもどかしい。
加えて一話目の「ほぐし窯」はその中ではある組織による悪事と喜八郎がそれに対抗するために動き回る姿が描かれているんだけど、その悪事の仕組みもよく理解できなくてわけが判らないまま終わってしまった印象だった。

二話目以降からはそれでも何となく話が見えてきて楽しめた。
話の内容は一話目から基本的な部分はずっと繋がってはいるけれどそれを別の登場人物、別の角度から描いてそれぞれ単独でも読めるようになっているし、何より個性的な登場人物の設定や細かい場面描写、小さくそして何気なく見えて実は印象的なエピソードの積み重ね…といった山本作品の魅力が満載で読みやすかった。

ラストの「初雪だるま」では、前作の感想で「この後どうなったのか気になる」と書いた喜八郎と江戸屋の女将・秀弥のこともちゃんと書いてあった。
いくら気に入らない相手を慌てさせたいからといって、こんなに大がかりでお金も掛かることを企む江戸のお大尽たちの遊び心に驚く。
しかも、結果として相手を不幸に陥れるのではなく、幸せを手に入れる後押しをする形で終わるようになっているという人情と度量が生きた設定が素晴らしく、読んだ後満足して本が閉じられる内容だった。

でも、人物設定がうろ覚えってことで何となく気分的に中途半端な感じが抜けないので、近いうちに1作目をもう一度読み返してみよう。

表題作他「ほぐし窯」「枯れ茶のつる」「逃げ水」「初雪だるま」の5編を収録。

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2008/09/23

柳広司/ザビエルの首

ザビエルの首 (講談社文庫 や 60-1)
ザビエルの首 (講談社文庫 や 60-1)

内容(「BOOK」データベースより)
聖フランシスコ・ザビエルの遺骸は、死後も腐敗することがなかったという。鹿児島で新しく見つかった「ザビエルの首」を取材した修平は、ミイラと視線を交わした瞬間、過去に飛ばされ、ザビエルが遭遇した殺人事件の解決を託される。修平が共鳴したザビエルの慟哭の正体とは…。

面白かった。

タイトルと導入部の印象から、400年経って何故か鹿児島で発見されたザビエルの首を巡る歴史(またはホラー)ミステリーって感じなのかと思って読んでいたら、取材に行った主人公(フリーライターの片瀬修平)がいきなりザビエルが生きていた時代にタイムスリップしてそこで起きた殺人事件の謎を解く話だったのには驚いた。
しかも、飛んでいくのは修平の意識だけで、その意識がザビエルの傍にいる人間(通訳だったり、友人だったり、肉親だったり)の頭に入り込んで、最初はその人物として事件を見聞きし(その間、修平は自分の意志では動けない)最後になって呪縛が解けたように修平の意識でもってその事件の謎解きをする…というかなり手が込んでいる設定。

設定が凝っている分、事件に至るまでの展開やスムーズで、トリックも思い込みや錯覚を利用したシンプルなものが多く読みやすかった。

ただ、今まで普段と全く変わりなく自分の隣にいた人間がいきなりそれまでとは全く違う、まるで何かが取り憑いたような状態(ある意味ホントにそうだけど(笑))で喋り出すというのは、その周囲の人にとっては違和感アリアリなのでは?
修平の意識が抜けたあとその人たちがどうなったかに興味がある、というか心配だなあ。
それこそ「魔女裁判」にでもかけられそうな状態なのでは?^^;

それにしても「フランシスコ・ザビエル」って日本人ならたいていの人が顔も名前も知っている有名人でもちろん私も知っていたけど、これを読むまでそのザビエルに「キリスト教伝来」以外の歴史(どこで生まれて、どんなふうに育って、そしてどこでどうやって死んだのか)があったなんて考えたこともなかった。ましてその死後数カ月経っても遺体が全く腐敗しなかったため後に「聖人」となったなんて全く知らなかったので、そうした歴史的事実や当時の宗教観なども面白く読めた。

歴史ってやっぱり面白いよね~。
でもあまりにも膨大すぎてどこから手を付ければいいか判らないんだなあ…。

<参考>
フランシスコ・ザビエル(ウィキペディアより)

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2008/09/19

不知火京介/女形

女形 (講談社文庫 (し78-2))
女形 (講談社文庫 (し78-2))

出版社 / 著者からの内容紹介
乱歩賞作家が満を持して放つ驚異の歌舞伎ミステリー
京都と東京 同じ日、同じ時、遠く離れた舞台上で、2人の名優が怪死した。絢爛たる世界に潜む闇が蠢きだす!
2人の名優は、なぜ同時に死なねばならなかったのか。
演じる者の業、家門を守ろうとする執着 桔梗屋の内弟子・堀内すみれが、封印された梨園の謎(トリック)を解き明かしたとき、凄絶な愛憎の一幕が浮かび上がる。

歌舞伎界を舞台にしたミステリー。
事件の謎解きだけでなく、一般とは一線を画したその世界の内部事情も丁寧に描かれていて興味深いし、文章も読み易かった。
(でも、内部の人間関係は名前が入り乱れていて時々わけわかんなくなった^^;)

探偵役である若手歌舞伎役者のすみれが単に謎を解く役目だけでなく、彼自身ある秘密を持たされているところが普通のミステリーとはちょっと変わっていた。
最初は事件そのものとは無関係だったすみれがその秘密によって徐々に物語の中心人物になっていく構成が面白かった。
ただ、その秘密とは別に桔梗屋がそれほどに目を掛けるだけの実力・魅力をすみれが持っていると読者に説得する力が少し足りなかったかなあ、という印象。
加えて、作品中のすみれの言動が普通の若い子っぽすぎて、「歌舞伎役者」を感じることが少なかったのも残念だった。
いくら駆け出しとは言っても、もうちょっとそれっぽくてもよかったのでは。

ロシア系アメリカ人の歌舞伎役者 青松のキャラクターが秀逸。
2m近い身長と金髪碧眼という外見はどこから見ても外国人、とても日本人、ましてや歌舞伎役者には見えないのに、操る言葉、日本文化の知識、果ては情の世界までも日本人より日本人らしさを持つ青松に、最初は警戒していた"すみれ"や"やんま"が少しずつ心を開いて親しくなっていく様子が丁寧に描かれて、それが最後のキーマンとしての役割にきちんと繋がっているのがよかった。
また、本編にはあまり関係ないけど、彼が語る夢は「なるほどね~」と思わせられた。
そういうことを実際に考える人がいてもおかしくはないかも。
でも実際問題として、現在の歌舞伎界というのは彼のような人でも日本人と同様の条件で入門出来るのかな?

あと、名門・山城屋の御曹司 信十郎もよかった。

京都の観光名所などの話題もさりげなく入っていて、いろんな楽しみ方のできる一冊。

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2008/09/16

大崎梢/平台がおまちかね

平台がおまちかね (創元クライム・クラブ)
平台がおまちかね (創元クライム・クラブ)

智紀は中堅どころの出版社・明林書房の新人営業マン。
先輩から譲られた担当エリアの本屋をスムーズに回ること、自分の顔と名前を覚えてもらうことが当面の目標。
そんな智紀が出先の書店で遭遇するちょっとした謎を営業仲間の真柴らと一緒に解決していく連作短篇集。
表題作他「マドンナの憂鬱な棚」「贈呈式で会いましょう」「絵本の神さま」「ときめきのポップスター」の5編を収録。

面白かった!

大崎さんの本は「成風堂書店シリーズ」を3冊読んだけど3冊とも「う~ん…」という感想を書いてきたので、ここで「面白かった!」と書けるのがすごく嬉しい!(笑)
だって、タイトルが「平台がおまちかね」なんだよ。
本好き、本屋好きならどんな内容かな~と思うでしょう?(笑)
で、読んでみたらすご~く面白かったので、大満足!でした。

「成風堂シリーズ」と今回の作品は本質的にはそんなに差はないんじゃないかと思う。
一番の違いは成風堂の登場人物が女性の本屋の店員さんで、この作品は男性の営業マンって部分。
ここがやっぱり大きいのかなあ。
中にいる人と外に出られる人の行動範囲は格段に違うものね。
あと、主役(語り手)の傍で解決に手を貸してくれる人たちも今回の作品のほうが役割をきちんと果たしているように思えたし、間違った推理が出てきてもそれをいつまでも引っ張らずにすぐに修正するスピード感もよかった。

うん、全体的に「成風堂シリーズ」よりも謎にまつわる部分がスムーズに読めたのがよかったのかも。
その分、物語のその他の部分に気持ちを入れて読むことができた。

みんな面白かったんだけど、特に閉店してしまった地方の小さな本屋の看板にまつわる謎を描いた「絵本の神さま」がよかった。
初めて訪問した地方の書店が閉店していたことにショックを受けた智紀が、そのお店がどんな営業をしていたか、どんなにお客さんに愛されていたかを知っていく過程がすごくスムーズ。
その中で、その書店が抱えていたある問題に辿り着き、そこに存在していたわだかまりを解く手助けをする話。
最初に出てきたある小道具が最後の解決に生かされている物語作りもよかったし、同時に全体に流れる「町の小さな書店」への愛の籠もった視線もとてもよかった。

「成風堂シリーズ」同様、書店や出版社周辺のお仕事事情がさりげなく、でも丁寧に書き込んであるのも読み応えがあって○。
最後の「ときめきのポップスター」に成風堂の多絵ちゃんの話がちょっとだけ出して前作を読んでる読者をニヤリとさせてくれる辺りも上手い、と思った。

オススメです。

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2008/09/14

近藤史恵/タルト・タタンの夢

タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)
タルト・タタンの夢 (創元クライム・クラブ)

出版社 / 著者からの内容紹介
下町の小さなフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マル。風変わりなシェフのつくる料理は、気取らない、本当にフランス料理が好きな客の心と舌をつかむものばかり。そんな名シェフは実は名探偵でもありました。常連の西田さんはなぜ体調をくずしたのか? 甲子園をめざしていた高校野球部の不祥事の真相は? フランス人の恋人はなぜ最低のカスレをつくったのか?……絶品料理の数々と極上のミステリ7編をどうぞご堪能ください。

下町の小さなフレンチ・レストラン「ビストロ・パ・マル(悪くない)」にやってくるお客から語られる小さな謎を、無口で無愛想なシェフ三舟が鮮やかに解決する連作短篇。

いわゆる「日常の謎」&「安楽椅子探偵」もの。
それに合わせて謎の種類も、当事者にとってはちょっとほろ苦いけど血生臭い話ではなく、読んでいるほうとしては食事時の会話の中で「そういえばこんなことがあってね…」と話せるくらいの内容だったのが好印象。
解決の仕方も、全てが完全なハッピーエンドではないけど、きちんと納得できる、今夜は泣いてしまうかもしれないけど明日からはまた元気だそう!と思えるような形になっていて読後感がとてもよかった。

でも、それより何より、三舟シェフの作る料理の美味しそうなこと!
しかも、お料理の味だけではなくて、お客への気遣いやサービスといったホスピタリティもしっかりしてるんだよね。
こんなお店が近所にあったら…(笑)
以前、「美味しそうな食べ物が出てくる本」というテーマで記事を書いたことがあってそのときは北森鴻さんの『花の下にて春死なむ』をあげたんだけど、今同じテーマで記事を書くとしたら絶対入れちゃうぞ!という作品だった。

表題作他「ロニョン・ド・ヴォーの決意」「ガレット・デ・ロアの秘密」「オッソ・イラティをめぐる不和」「理不尽な酔っぱらい」「ぬけがらのカスレ」「割り切れないチョコレート」の7作を収録。

シリーズ2作目の「ヴァン・ショーをあなたに」も図書館に予約中。
もうちょっとで回ってきそうなので今から楽しみ~♪

ヴァン・ショーをあなたに (創元クライム・クラブ)
ヴァン・ショーをあなたに (創元クライム・クラブ)

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2008/09/07

米澤穂信/犬はどこだ

犬はどこだ (創元推理文庫 M よ 1-4)
犬はどこだ (創元推理文庫 M よ 1-4)

内容(「MARC」データベースより)
犬捜し専門の仕事を始めたはずなのに、依頼は失踪人捜しと古文書の解読。しかも調査の過程で、ふたつはなぜか微妙にクロスして-。いったいこの事件の全体像は? 犬捜し専門(希望)、25歳の私立探偵・紺屋、最初の事件。

読み始めたときは何故かなかなか進まなかった。
一旦読むのを止めて他の本を何冊か間に挟んだあと、1ヶ月ほど経ってから読み始めたら今度は(何故か)スルスル進んだ。
読み終わってみたら、今まで読んだ米澤作品の中でも一番読みやすい作品だった。

主人公の紺屋が探偵になった理由が「アトピー性皮膚炎」というのが意外性があって面白かった。
なるほど、人はいろんな理由で自分の進む道の軌道修正をしていくんだなあ。

行方不明になった佐久良桐子(さくらとうこ)の行方を追いかけるパートは面白かった。
特にネット上のトラブルが原因で…と判明してからの展開はスピード感があって一気に読めた。
曖昧にぼかして書いたつもりでも、いくつもの記述を丹念に一つ一つ積み上げると、本人に行き着いてしまう可能性がある…ということがかなりリアルに書いてあってすごく興味深かったし、「自分は大丈夫かな…」とちょっと不安になったり。

それに対して、古文書解読の依頼のほうはわざわざ紺屋に依頼してくる理由がイマイチ判らなかったなあ。
こんなの、どこから来たのか判らないような相手にお金払って調べてもらうよりも、地元の研究家でも探した方が早そうだと思うんだけど。
(実際に調査を担当した紺屋の部下(?)のハンペーはそういう人間を見つけて調査を進めたわけだし)
この古文書の内容が桐子の事件の解決にも繋がっていくので切り離せない話だったのだと思うけど、最後まで「取って付けた」感が拭えなかったのが残念。

ラストは紺屋が桐子を見つけてエンディングなんだけど、桐子が何をしたのか(またはしなかったのか)は不明のまま終わっている。
ちょっとスッキリしないけど、物語全編に登場していながら実際に姿を現して実際に話をするのはラスト近くのほんの2ページほど、という桐子の存在とともに作品に不気味さを与えていて私はけっこう好きな終わり方だった。
この作品はこのあともシリーズで続いているようだけど、桐子はその作品にもどこかに影を落としているのだろうか。
次の作品が楽しみ。

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2008/09/04

読み終わってる本リスト

またしても読み終わっているのに感想を書くところまで辿り着けない本が溜まってきたので、取りあえず名前のみ。

  • 近藤史恵/賢者はベンチで思索する
  • 森絵都/DIVE(上下)
  • 三浦しをん/夢のような幸福
  • 米澤穂信/犬はどこだ
  • 高橋克彦/紅蓮鬼
  • 太田忠司/奇談蒐集家
  • 近藤史恵/タルト・タタンの夢

一応全部感想を書く「つもり」。
少なくとも「書きたい」と思っては、いる(笑)
週末頑張ろう。

「奇談蒐集家」と「タルト・タタンの夢」は東京創元社から出ている『創元クライム・クラブ』というシリーズの中の作品。
このシリーズ、なかなか面白そうな作品が揃っていることに(今更ながら^^;)気づいたので、現在図書館を利用してバックナンバーを追っかけ中。
けっこう軽めの作品が多いので、サクサク読めて楽しめる。
最近出版されたものはさすがにしばらく待たないと順番が回ってこないけど、出て時間が経ってるものは予約しておけばすぐに読めるのが嬉しい。
今度は何にしようかな。

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2008/08/23

北上次郎×大森望/読むのが怖い!帰ってきた書評漫才~激闘編

読むのが怖い! 帰ってきた書評漫才~激闘編
読むのが怖い! 帰ってきた書評漫才~激闘編

出版社/著者からの内容紹介
書評界の両雄、北上次郎と大森望がオススメ本を持ち寄り判定しあう異色の対談ブックレビュー(季刊SIGHT誌連載)が3年ぶりに続刊刊行です!未発表分を大幅加筆し、各年のブック・オブ・ザ・イヤーを含むエンターテインメント小説談義・どっさりずっしり136冊分を完全収録! 冒険小説、ハードボイルド、SF、時代もの、恋愛小説にミステリ、青春、スポーツ、ラノベに果ては少女小説まで、業界最強の指南役がめくるめくエンタメ本の世界を本音でご案内します。
○単行本特別企画
北上次郎が大森望に/大森望が北上次郎に読ませたい オールタイムベスト3

いや~、面白かった!

書評なのに「面白かった」って感想もどうなのよと思うけど、この2人の噛み合っていないようで噛み合ってる掛け合いが絶妙ですごく楽しく読めた。

(お2人には足元にも及ばないけど)私も小さい頃からずっと本好きで周りにもけっこう本を読む友人知人が多かったけど、人に話す本の感想ってせいぜい「よかったよ」とか「つまんなかった」くらい。
それについて「自分はこう思う」「いや、それはこの本のテーマではないだろう」みたいな熱い語らいをしたことは殆どない。
だいたい、本の感想なんて人それぞれで当然だと思ってるし。
(多分多くの本好きはそんな感じなのでは?)

それなのにこの2人の本好きの自分の主張を譲らない熱い討論は何なんだろう? 
もちろん、よく読めば北上さんも大森さんも「自分が好きなものは好き、嫌いなものは嫌い」ってだけで、相手の趣味がどうこうってことは言ってないんだけどね。

特に北上さんの「我が道を行くぜ」っぷりは素晴らしく、「こういうのは嫌い」とか「読んだけど覚えてない」とか「○ページで挫折」とか平気で言っちゃったり(笑)
それに対して大森さんは(年下の遠慮もあるのか(笑))一応北上さんをフォロー(内容を忘れた本のあらすじを説明してあげたり)しつつも、自分の意見はきっちり主張してるって感じ。

「職業としての書評対談」というより「単なる本好きの飲み屋談義」みたいな自由でありのままの雰囲気が(賛否はもちろんあると思うけど)私はすご~く好きでした。

ただ、たくさんの本が紹介されているにも関わらず会話があまりにも楽しくて、肝心の本の内容をあまり覚えていない点は書評本としてこれはどうなのよ、と(笑)

副題に「帰ってきた」とある通り、これは2冊目。
1冊目(↓)も同じ感じで盛り上がってます。

読むのが怖い! 2000年代のエンタメ本200冊徹底ガイド
読むのが怖い! 2000年代のエンタメ本200冊徹底ガイド

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石田衣良/下北サンデーズ

下北サンデーズ (幻冬舎文庫 い 32-2)
下北サンデーズ (幻冬舎文庫 い 32-2)

内容(「MARC」データベースより)
春から大学生になる里中ゆいかは、芝居のおもしろさを生まれて初めて教えてくれた劇団「下北サンデーズ」に入るのが夢で…。演劇の街・下北沢を舞台に贈る、弱小劇団奮闘グラフィティ! 『パピルス』連載を単行本化。

う~む…衣良さんは何を書きたかったんだろうか?

弱小劇団とその劇団に魅了され演劇の世界に飛び込んだ少女が、注目され、人気が出て、TVに出て、大手のプロダクションに所属して、映画出演も決まり…と、どんどん劇団すごろくの「あがり」に向かって進んでいく物語なんだけど…ほんとにただ「それだけ」なんだよね。

最初に出てきた「演劇人のビンボー話」が延々語られるのかと思ったらそうでもないし、舞台の様子が詳しく書かれるわけでもないし。
サンデーズやゆいかが「上がって」いく、その過程で起きる出来事(劇団内外でのトラブルや人間関係の変化も含め)が時系列通りにずらずらと書いてあるだけなので、「ふ~ん」とは思うけど登場人物に感情移入するどころか、笑ったり、感動したり出来る部分が殆どなかった。

出てくるエピソードとか、サンデーズの上がり方なんかもあまりにも「ありがち」で意外性がないし、主役のゆいかも性格がよくて、かわいくて、一生懸命で…という何のひっかかりもない女の子だし。
弱小劇団とはいえ舞台に10年も立っている看板女優に敵愾心を抱かせ、彼女のおかげで劇団が上昇気流に乗ることが出来た、と読者も一緒に感じることが出来る強烈な個性が欲しかったな。
せめてもっと劇中劇のシーンをきちんと書いてゆいかがどんな芝居をする女優なのかをアピールして欲しかった。

だいたい、鳥取の高校生だったゆいかが何故下北の小さな劇場に迷い込んで、サンデーズと出会うことになったのかという説明が全くないというのが納得できない。
もともと演劇に興味があったなら多少は判るけどゆいかの場合そうじゃないみたいだし、だとしたらあんな怪しげな空間に一人で入っていくのってかなり勇気がいると思うんだけどなあ。
その辺の説得力がない、というか、説得する意欲が見られないというか。

私も昔は下北に何度も通って小劇団の舞台を見ていた時期があるし、ドラマ化までされたので(1回目しか観ていない)もっと面白いエピソードがたくさんあるのかと期待していたんだけどなあ。

ただ、ドラマ化されたときの「ゆいか=上戸彩」のキャスティングはピッタリだな~と思った。
あ、もしかして最初にドラマありきだったのかな?
(ちなみにドラマは視聴率低迷で予定より早めに打ち切られたらしい…(T_T))

「下北サンデーズ」公式サイト

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劇団ひとり/陰日向に咲く

陰日向に咲く (幻冬舎文庫 け 3-1)
陰日向に咲く (幻冬舎文庫 け 3-1)

内容(「MARC」データベースより)
お笑い芸人・劇団ひとり、衝撃の小説デビュー! 「道草」「拝啓、僕のアイドル様」「ピンボケな私」ほか全5篇を収録。落ちこぼれたちの哀しいまでの純真を、愛と笑いで包み込んだ珠玉の連作小説集。

発行部数100万部突破、映画化もされた話題作。
文庫化されたので読んでみた。

意外なくらい(笑)面白かった。
もっと適当なギャグで逃げてしまったりするのかと思ったら、登場人物のキャラクターは丁寧に細かく設定されているし、盛り上げ方も上手いし(泣かされちゃったシーンもあった)、ちょっとひねってからきちんと着地させるラストも上手かった。
時々書き込み過ぎでちょっとくどいかな~と思えてしまう部分もあったけど、全体的にかなり細かく考えて大事に書いてあるところ、それからテンポがあって読者を作品に引き込む力がある書き出しの部分が私は好きだったな。

100万部も売れちゃうほどの内容かというと疑問だけど(じゃあ「100万部売れて当然」な作品ってどんなの?といわれても困るけど^^;)、きちんと気合いが入っていてしかもそれが空回りせずに作品として成立しているいい作品だと思う。

著者の実の父親(国際線のパイロットらしい)による解説も親としての愛情が感じられて好感が持てた。
(「解説」ではなかったけどね(笑))

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2008/08/09

東野圭吾/容疑者Xの献身

容疑者Xの献身 (文春文庫 ひ 13-7)
容疑者Xの献身 (文春文庫 ひ 13-7)

内容(「BOOK」データベースより)
これほど深い愛情に、これまで出会ったことがなかった。いやそもそも、この世に存在することさえ知らなかった。運命の数式。命がけの純愛が生んだ犯罪。

直木賞受賞作。
映画化に合わせて(?)文庫になっていたので読んでみた。

「ガリレオ」シリーズ初の長編。(400ページ弱)
最近、本を読むパワーが衰えていてついつい短篇集を選んでしまうことが多かったので、長編を読むのは久しぶり。
特に東野氏の長編には苦手意識があったのでちょっと不安だったけど、全体の展開にスピード感があったし内容も判りやすくて読みやすかった。

ただ、短篇のときのようにトリック自体が物理学を応用した原理がどうのってことではなく、犯人側の登場人物が湯川の大学の友人だったということで「ガリレオ」シリーズになっているのは何となく微妙な感じ。
その友人も「不遇な日々を送る数学の天才」という設定だけど、数学がどうこうってことでもないし。
といっても、「だからこそ判りやすかった」という部分も否定できない、というかまさに「正解」なのでそこを突っ込んではいけないんだろうな(笑)

ラストの謎解きは想定していたわけではなかったけど、思ったほど意外な内容ではなかった。
あ、なるほど、そういうことか~という感じ。
それよりも、物語の中では真相を知らされた登場人物たちはみんな衝撃を受けているのに、読んでる私は「まあ、そのくらいするかもね」なんて暢気に思っているあたりの心情的ギャップは一体何なんだろう?という疑問のほうが大きかったかも。
もちろん私だって現実の世界でそんなことが起こったら驚くだろうけど、推理小説の世界って何が起きてもおかしくないって状況になってるから読者を驚かせることが出来るのか、感動させられるのかというのは難しい問題なんだろうな。

ただ、この作品の魅力は、そうした意外性とかトリックとかではなく「石神」という登場人物をひたすらストイックにぶれのない人物像として書き上げたということではないかと。
実際にそういうタイプの男性が魅力的かどうかは謎だけど(だってやってることはストーカーと紙一重なんだから、されてる方としては相手の心の中が見えない限りやっぱり怖いと思う…)、この物語の中ではそういったことも含めて「石神」という人物を描き切ったことが単なる謎解き以上のものを読者に与えることが出来たのだと思う。

小説では大学の同級生で刑事の草薙が湯川のパートナー。
大人の男同士の会話がスムーズで、お互いを思い遣る気持ちに余裕と長い時間をかけて積み上げてきた信頼があって安心して読めた。
それがドラマ版では草薙の後輩の女性刑事・内海(柴崎コウ)が湯川と絡む役割になった。
今回の映画版でももちろんドラマ版を下敷きにした役割分担になるのであろう。
絵的には男女のペアのほうが華やかで面白いのかもしれないけど、湯川と草薙のやり取りの部分が映画版ではどうなってしまうのだろうか。
不安だけど興味深い。

またそれ以上に興味深いのは登場人物のキャスティング。
石神が好意を寄せる隣人・靖子役は松雪泰子。これはいい。
問題は石神。
石神は小説中では、

ずんぐりした体型で、顔も丸く、大きい。そのくせ眼は糸のように細い。頭髪は短くて薄く、そのせいで五十歳近く見えるが、実際はもっと若いのかもしれない。

と書かれちゃうような、いわゆる(見た目は)風采のあがらないオジサンとして設定されている。
その石神を演じるのがなんと堤真一!
どこをどうしたら、そういうキャスティングになるのだ?!^^;
いくら服装を地味にしたところで、堤さんは堤さんだと思うんだけどなあ。
まあ、主役の湯川が福山だから相手役があまりにも地味すぎたら、食われすぎて話にならないのかもしれないけどね。
一方、靖子が昔働いていたスナックの常連で、靖子も憎からず思っている印刷会社の社長・工藤。
工藤は金持ちでセンスがいいって設定なんだけどこっちの配役はダンカンらしい。
別にダンカンが悪いわけじゃないけど…堤さんとだったら、ねえ…?(失礼!)
このキャストでこの作品の雰囲気をどうやって再現するのか、あるいはしないのか(!)非常に興味が沸いてきたな。

映画は10月4日公開。
容疑者Xの献身

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2008/08/03

松尾由美/ハートブレイク・レストラン

ハートブレイク・レストラン (光文社文庫 ま 12-4)
ハートブレイク・レストラン (光文社文庫 ま 12-4)

内容(「MARC」データベースより)
幸せな人は、入店お断り-? 「隅のお婆ちゃん」が解き明かす、不思議な恋愛ミステリー。「ケーキと指輪の問題」「走る目覚まし時計の問題」「不作法なストラップの問題」「靴紐と十五キロの問題」ほか、全6編を収録。

真以は駆け出しのフリーライター。
家からはちょっと遠いけれど、お客が少なくて居心地がいいファミリーレストランを仕事場代わりに利用していた。
そのレストランで気がつくといつも隅の席に座っている小柄で可愛らしいお婆ちゃんと真以はひょんなことから言葉を交わすようになる。
レストランで起こる「不思議な話」を外見からは想像のつかない推理力で謎解きしてしまうお婆ちゃんには人には言えない「秘密」があった…。

このお婆ちゃん(ハルさん)が実は幽霊で、レストランの従業員もわざわざそうしたわけではないけれど結果的にそうした現象に敏感な人が集まってしまい、何となく元気がなく幸薄い雰囲気のお店になっている…という設定が面白かった。
元気がないファミレスって…(笑)

謎解きはそんなに凝ったものはなくて中には途中で内容が判ってしまうものもあったけど、全体の設定に合った軽い雰囲気のものが多かったし説明の仕方に工夫があったので楽しんで読めた。

ただ「靴紐と十五キロの問題」の靴紐の説明はちょっと牽強付会な感がなきにしもあらず…。
いくら何も目印がないっていってもそれに靴ひもを使うってことにちょっと違和感を感じるなぁ。
「不作法なストラップの問題」も、外すのはともかく付けるのは難しいのではないかと。
それよりも、首のところに一旦溜めておいたと考えるほうが現実的だと思うんだけどどうだろう。

レストランのお客として来ていた南野と真以が「不思議な話」を通じて互いに惹かれ合っていく様子も自然に描かれていて好感が持てた。

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田中啓文/落下する緑

落下する緑 (創元推理文庫 M た 6-1 永見緋太郎の事件簿)
落下する緑 (創元推理文庫 M た 6-1 永見緋太郎の事件簿)

内容(「MARC」データベースより)
連綿と受け継がれたクラリネットの秘密、消えたトランペット奏者の行方…。孤高の天才サックス奏者・永見緋太郎の活躍を描く、本格ミステリ連作集。『ミステリーズ!』連載に、幻のデビュー作と書き下ろしを加えて単行本化。

プロのジャズバンドでアルトサックスを担当する青年・永見緋太郎が行く先々でぶつかる不思議な事件を、その直感力と洞察力で解決していく連作短篇集。
表題作他「揺れる黄色」「反転する黒」「遊泳する青」「挑発する赤」「虚言するピンク」「砕け散る褐色」の7編を収録。

ジャズをメインテーマとしたミステリーという珍しい作品集。
著者自身ジャズバンドに参加するほどのジャズ好きということで、「付け焼き刃的でない」と門外漢にも伺い知ることが出来る丁寧で突っ込んだ描写が随所に見られた。
内容によっては正直、「どんな状況なのかよく判りません」という部分もあったけど、読者に向けた安易に判りやすい書き方ではなくその世界特有の言葉を使ったことで世界観をストレートに表現出来ていたと思う。

探偵役の永見は上記の紹介文で書いてあるような『孤高のサックス奏者』というイメージではなく、ジャズ以外には興味がなくて、一般常識には全く頓着しない単なる「ジャズ・バカ」(誉め言葉です(笑))って感じの青年。
ただ、その分「本物」に対する鋭い洞察力と直感力は目を瞠るものがあり、それを武器に謎を解決していく、という設定。
この永見のキャラクター設定がかなり徹底していたのがとても良かった。

謎のほうは、血生臭いものではなくちょっとした舞台裏のトラブル系のものが殆どで安心して読めたし、読後感も悪くなかった。
ただ、7編中2編で同じようなトリックだったのはちょっと興醒めだったかな。
しかもそのうちの1編は実在の小説家(しかも大御所)を想像させる人物を登場させる内容で、その結末があれって問題ないんだろうか…?

雑誌の読者には人気があるけど、ジャズプレイヤーに評判が悪い評論家が登場する「挑発する青」が一番面白かった。

著者オススメのジャズレコード解説付き。

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2008/07/21

畠中恵/まんまこと

まんまこと
まんまこと

この間読んだ『文学賞メッタ斬り!~たいへんよくできました編~』で大森さんと豊﨑さんが揃ってかなり誉めていたので「どれどれ」と読んでみたところ、確かに面白かった。

八つの町を支配する古名主・高橋家の跡取り麻之助を主人公にした連作短篇集。
小さい頃は生真面目で勤勉、両親の自慢の息子だったけれど、16の年を境に突然「お気楽者」に豹変し親を嘆かせている麻之助。
そんなお気楽者が病で倒れた父親の代わりに町人のもめ事を評定することに…果たして上手く収めることは出来るのか。
表題作ほか「柿の実を半分」「万年、青いやつ」「吾が子か、他の子か、誰の子か」「こけ未練」「静心なく」の6編を収録。

お気楽者の麻之助と、同い年の親友・清十郎(女の子に大人気の色男)のコンビがいい。
基本的に自由でまっすぐで、それでいて自分の背負っているものをきちんと受け止めてそれを全うしようという心意気が感じられる若者らしい描写に好感が持てた。

麻之助が解き明かすそれぞれの謎もちょっと判りにくいけど、血生臭いところがないので安心して読めた。

ただ、麻之助が生真面目な青年からお気楽者へ変わってしまった原因はちょっとありきたりかなあ。
しかもそれが一番最初のほうでその原因が明かされてしまう(「噂」としてだけど)というのは。
もちろん読んでいればすぐに判ることだし、真実はもう少し奥が深い物語だったのである意味「ミスリーディング」を誘うための手法だったのかもしれないけど、それにしては真相に意外性が少なくてちょっと肩すかしな感じがしてしまった。
それにその原因に周りの大人(親)たちが全く気づいていないということもちょっと不自然だなと思えた。
もしかしたらみんな判っていて、それでも麻之助の傷が癒えるのを黙って見守っていたのかも。
そのほうがこの物語には相応しい内容だと思うな。

『しゃばけ』同様これもシリーズ化される模様。
それぞれ少しずつ大人になった麻之助と清十郎にまた会えるのが楽しみ。

まんまことうぇぶ

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2008/07/13

斎藤美奈子/物は言いよう

物は言いよう
物は言いよう

内容(「BOOK」データベースより)
性や性別についての望ましくない言動を検討するための基準です。しかし、意識のありようまではとやかくいいません(心の中で「このブス」「このクソババア」と思うのはかまわない。)せめて、おおやけの場ではそれに相応しいマナーを身につけよう、との趣旨で考案されました。本書を通して、笑いながらFC (フェミコード)感覚を身につければ、いやーなセクハラ、思わぬセクハラとは、もうさようならです。

政治家や作家、文化人などが語った公の発言を「FC(フェミコード)」を基準に考察する、という内容の本。

その発言内容によってFC判断の難易度を★の数(1~3)で示してある。
★1つの発言、例えば

子どもを一人もつくらない女性が自由を謳歌して、楽しんで、年とって税金で面倒見なさいというのはおかしい。

程度なら私にも「(思うのは勝手だけど)それを公式の場で言っちゃダメでしょう」とすぐに判るけど、★3つレベル、例えば

近い将来、日本で新しい小説的思想、思想的小説にはっきりした世界を達成するのは、若い女性だと思います。

あたりになると「え、これのどこが差別なの?むしろ応援してる内容では?」と思えてしまうような内容が多かった。
著者に「これはこうこうこういう理由だからFC的に×なんだよ」って説明されれば「なるほど」と思うものの、うっかりすると自分も使ってしまいそう。
こういうことに敏感でいるのは難しいことだなあ、と思った。

FC的な問題って微妙だからこそちゃんと考えなくちゃならないんだろうけど、あまりにも微妙すぎると「面倒だから触れないほうがいいや」って考えに流れてしまって不可侵領域になってしまうこともあり得るんじゃないのかな。
(放送禁止用語みたいに「言わなきゃいいのか」って感じ)
でも、そうやって隠されてしまうのは却ってマズイことだと思うので、そのあたりのバランスをどうとっていくか、が今後の課題かも。
(と、どうとでも取れる適当な感想でお茶を濁す私であった…^^;)

でも、基本的に一般論として「女性は~」とか「男性は~」とかいった大きなくくりで話をするからつい口が滑っていってしまうんじゃないかな。
そうではなく、目の前にいる誰かをちゃんと見据えてその相手に向けた言葉を発すればFCに引っ掛かることってかなり減るし、もし引っ掛かっていたとしてもお互いにそれについてきちんと話すことが出来るような気がするんだけどどうだろう。

それにしても、かなり有名な、しかもその業界では力がありそうな人ばかりの発言を実名入りで取り上げて、冷静に的確にそのFC的勘違いを指摘する著者の度胸の据わり方に拍手。

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2008/07/11

大森望・豊﨑由美/文学賞メッタ斬り!~たいへんよくできました編~

文学賞メッタ斬り! 2008年版 たいへんよくできました編 (2008)
文学賞メッタ斬り! 2008年版 たいへんよくできました編 (2008)

いつも発行されているのに気づかなくて半年以上経ってからしか読めなかった「メッタ斬り」シリーズ。
今回は発売直後に本屋で発見して図書館に予約したので、2ヶ月遅れで読むことが出来た。
と言っても、実際にここに取り上げられている芥川賞・直木賞が決まったのは去年の10月だからそれから10ヶ月近く経っているわけではあるのだけど。

今回の「メッタ斬り!トークショー」のゲストは芥川賞受賞作家の長嶋有さんと直木賞受賞作家の石田衣良さんのお二方。
長嶋さんは穏やかでちょっと控え目でいい人な雰囲気だったけど、問題は衣良さん。
読む前から「メッタ斬り!コンビと衣良さんって合わないんじゃ…」と思っていたら、やはり…。
メッタ斬りコンビのツッコミに対する、衣良さんの(判っているクセにわざと)核心を微妙にずらした回答が噛み合わないこと!^^;
衣良さんの受け答えってなんとな~く勘に障るんだよねえ。
作品は好きだけど、あまりお友だちにはなりたくないタイプだなあ…。
と言って、メッタ斬り!コンビだったらいいかというとそうでもないけど(笑)

各文学賞候補作・受賞作、選考委員へのコメントは、いつも通り。
唯一違うのはいつも「大ハズレ」で終わっている芥川・直木両賞の予想が、何と両方とも大当たり(138回。芥川賞/川上未映子『乳と卵』、直木賞/桜庭一樹『私の男』)だったこと。
こういう企画は「何だかんだ言っても思った通りにはならない」というのが次回も続ける存在意義になるんじゃないのかな。
そういう意味でこの企画も「その役割を終えた」ってことなんだろうか…?
確かに最初の頃のパワーはなくなって、内輪受けで成立してる部分が多くなって来ているように思えるし、何よりやっぱり1,400円は「高い」と感じてしまうところがね~。
(図書館から借りて読んでるのに値段に言及する私もどうかと思うけど^^;)

企画自体もマンネリしてる気がするので、ここで心機一転ふりだしに戻って再構築してみるのもいいのかも。

ちなみに先日発表された第139回の芥川賞・直木賞候補は下記の通り。
<芥川賞>

  • 磯崎憲一郎「眼と太陽」
  • 岡崎祥久「ctの深い川の町」
  • 小野正嗣「マイクロバス」
  • 木村紅美「月食の日」
  • 津村記久子「婚礼、葬礼、その他」
  • 羽田圭介「走ル」
  • 楊逸「時が滲む朝」

<直木賞>

  • 井上荒野『切羽へ』
  • 荻原浩『愛しの座敷わらし』
  • 新野剛志『あぽやん』
  • 三崎亜記『鼓笛隊の襲来』
  • 山本兼一『千両花嫁』
  • 和田竜『のぼうの城』

相変わらず、殆ど知らない作家さんばかりだ…^^;
選考会は7月15日。

あと、こんなニュースもあったり。
伊坂さん直木賞予選前辞退  「ゴールデンスランバー」

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2008/07/05

藤本由香里/私の居場所はどこにあるの?少女マンガが映す心のかたち

私の居場所はどこにあるの? 少女マンガが映す心のかたち (朝日文庫 ふ 26-1)
私の居場所はどこにあるの? 少女マンガが映す心のかたち (朝日文庫 ふ 26-1)

内容紹介
1960年代末から90年代末頃までの少女マンガの描写から、その心理や内面に焦点をあてて分析。女性の恋愛観、セクシュアリティ、家族観、職業観の変化を精緻に追う。同時に少女マンガにおける性的指向に関する描写の変遷もをたどりつつ、来るべきトランスジェンダーの時代の幕開けを告げる。「居場所」を求めてさまようすべての人々に贈る必読の書。少女マンガ評論の新境地を拓いたと評価の高い幻の名著、待望の文庫化。

面白かった。

かなりガッツリした評論作品だったけど、文章が読みやすかったし、何より対象が私も親しみのある「少女マンガ」だということで非常に楽しく読めた。
特にこの作品が単行本として出版されたのが10年前(つまりそれより前の作品しか扱われていない)で、最近はとんとマンガから遠ざかっている私にも理解できる作品が多かったのが嬉しかった。

でも、面白かったけど、実際に自分がマンガを読むときにこの本の中に書かれているようなことを感じながら読んでいたのか?というと、それは疑問。
なので、「なるほど、そういう考え方も出来るのね」とは思ったけど、「そうだったのか、納得した」という感じではなかった。
少女マンガは「ジェンダー」とか「アイデンティティー」というものに深く関わっているという主張で、それは私もそうだろうなと思うけど、それ以前に私はただ単に「面白いから」読んでいたって意識しかなかったから。
(それとも自分が意識しないどこか深い部分でそれを感じていたんだろうか?)

ビックリしたのはこの本の中でいくつかの作品のあらすじが解説されている部分があるんだけど、それが私も何度も読んでよく知っている大好きな作品であるにも関わらず「ええっ、あのマンガってそんな内容だったっけ?」ということが多かったこと。
特に萩尾望都さんの作品(例えば「スターレッド」とか「マージナル」とか)は、私が覚えている内容と比べると「別作品?」と思えるくらい違っていたので思わず笑ってしまった^^;
一体私は何を読んでいたのであろうか?
読み流すにもほどがあるって感じだなあ(笑)
確かコミックスや文庫で持っていたと思うので、もう一回改めて読み返してみよう。

それと気づいたことが一つ。
私は作品を読むときに主人公(を始めとした登場人物)に自分を重ねるということを殆どしないということ。
これはマンガ以外の作品(例えば小説やお芝居や映画とか)でも同じ。
感想として「もし私だったら」と考えることはあるけど、基本的にいつも作品は「作品として」鑑賞しているなあ…ということを、この本を読んで確認した。
だから、入り込める作品になかなか出会えないのかも。
その分、この本にあるようにそれを読むことで葛藤したり考え込んだりはあまりしないし、作品のイメージや雰囲気に囚われてしまうことがないので、どんどん色んな作品をサクサク読んでいけるってことでもあるんだろうと思う。

そんな私でも物心付く前から20年以上に渡って読み続けた少女マンガから受け取ったものは計り知れないほど膨大である。
文庫解説で作家の三浦しをん氏が

「心身の構成成分の大半が少女漫画」

と書いているけど、私も「大事なことはみんな少女漫画から教わった」なあ。
考え方の基本的な部分とか、人との関わり方、更には生きていくのに絶対必要ない知識までいろんな部分で今の私の血となり肉となっていることがたくさんある。
(少女に限らず)漫画というメディアにはそういうパワーがあると思うので、これからも良質な作品を提供し続けていって欲しいなあ、と思う。

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2008/06/22

宮部みゆき/孤宿の人(上下)

孤宿の人 (上) (新人物ノベルス)
孤宿の人 (上) (新人物ノベルス)
孤宿の人 (下) (新人物ノベルス)
孤宿の人 (下) (新人物ノベルス)

内容紹介
それは海うさぎとともにやってきた。
江戸から金比羅代参で讃岐を訪れた九歳の少女ほうは、丸海の港で置き去りにされ、たった一人見知らぬ土地に取り残される。幸い、丸海藩の藩医・井上舷洲宅に奉公人として住み込むことになった。それから半年……、この丸海の地に幕府の罪人・加賀殿が流されてくること……。海うさぎが飛ぶ夏の嵐の日、加賀殿の所業をなぞるかのように不可解な毒死事件や怪異現象が井上家と丸海藩に次々と起こっていく……。
宮部みゆきが紡ぎ出す時代ミステリーの最高傑作! 装いも新たにノベルスで登場。

ちょっと話が入り組みすぎていたかな~…という印象。
登場人物が多くて視点がその都度入れ替わってしまったことや、自然現象として起こったこと、人間が意図的に起こしたことの区別が曖昧だったこと、同じ内容がなんども繰り返されていたこと、などが原因かな。

江戸で重職に就いていながら、家族、部下を斬殺した罪で遠く離れた丸海藩に流され、幽閉されることになった加賀殿の存在。
この物語の中心となる人物の持つ意味や、裏に隠された真実というものがなかなか明かされず、その周辺で起こる不思議(不気味)な事件のみが前面に出てしまったことが物語を曖昧にしてしまっていたと思う。

登場する人物の多くは、そうした藩の重大事項に触れられる身分のものではなかったから、彼らの目や耳にはそうした「真実」は現れず、ただある意図をもった「噂」や「伝聞」だけで右往左往している姿が描かれているということなのだろうと思う。
そして最初のうちは、その描かれない加賀殿に対する不安が物語を盛り上げていたことも確か。
でも、それが何度も繰り返されるうちにちょっと飽きてきて「そろそろホントのことを明かしてくれてもいいのでは?」と思ってしまったのであった。

だから、下巻で加賀殿の事件の真実が明かされ、やがて「ほう」との交流が始まりその人間性が少しずつ明らかになってきてからは物語がスムーズに流れ出したように思う。

とはいっても、それでもどんどん読ませてしまう、そして最後に泣かせて納得のエンドマークで終わらせるところに宮部さんの実力を感じるわけだけど。

相変わらず心に沁みる小さなエピソードが巧い。
特にそれまで「阿呆の「ほう」」とバカにされ続け、自分でも自分に自信がもてなかったほうに、加賀殿から新しい名前の漢字を贈られるエピソードがとてもよかった。

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2008/06/16

金城一紀/映画編

映画篇
映画篇

出版社 / 著者からの内容紹介
物語の力が弾ける傑作!!
笑いと感動で胸が温かくなる傑作ぞろいの作品集。『ローマの休日』『太陽がいっぱい』など不朽の名作をモチーフに、映画がきっかけで出会った人々の友情や愛を描く。

映画をモチーフに、といってもその映画そのものをなぞるわけではなく、エピソードの一つとして使われているといった感じ。
いや、私が気が付いていないだけでもっと深くシンクロしているという可能性もあるか…^^;
でも、そういう知識がなくても気持ちよく楽しめる短篇集。
最初ちょっと重めな話で始まるので「ずっとこの雰囲気なのかな~?」と不安になったけど、だんだん柔らかで暖かな内容になってきたので安心して読めた。

特に愛する夫を亡くして元気がなくなった祖母を元気づけるために孫たちが2人の思いでの映画を上映する計画を立てる「愛の泉」がとてもよかった。
おばあちゃんの思い出話、個性的な孫たちそれぞれの生活と関係、そして中心人物(孫の1人)哲也の生活と恋の物語などいくつものストーリィが短い物語の中にきちんと収まっていて読み応えがあった。

昔自分の家族を殺した仇敵に立ち向かっていくパンチパーマで5等身のおばちゃんと両親が離婚しそうな小学生の男の子の1日だけの友情を描いた「ペイルライダー」も面白かった。

この作品で哲也たちが区民会館で無料上映する「ローマの休日」が全編に共通して出てきて、それぞれの登場人物たちが(そうとは知らずに)その上映会に集まってくるという設定が効果的。
映画という媒体の持つパワーを感じさせてくれる作品だった。

「太陽がいっぱい」「ドラゴン怒りの鉄拳」「恋のためらい/フランキーとジョニー もしくは トゥルー・ロマンス」「ペイルライダー」「愛の泉」の5編を収録。

「この世界は見えないシーソーみたいなものでさ、悪いほうに傾き過ぎたりすると、浜石教授みたいな人がそれに気づいてもう片っぽのほうに乗っかってくれるから、なんとかバランスを取れてるんだよね。わたしももっとがんばって、いつかちゃんとしたほうに乗っかれる人になりたいな」(「愛の泉」p342より)

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2008/06/01

米澤穂信/氷菓

氷菓 (角川スニーカー文庫)
氷菓 (角川スニーカー文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ登場!第五回角川学園小説大賞奨励賞受賞。

久々の米沢作品。
「古典部シリーズ」第一弾、とのこと。
舞台は部活動がさかんな進学校、神山高校。
「無駄なことはしたくない」がモットーの省エネ高校生・奉太郎がひょんなことから廃部の危機に瀕していた古典部に入部したところから事件は始まる…。

小さな謎の積み重ねがあって、そこから物語全体に関わる大きな謎解きに繋がっていくというスタイル。
各章に散らばった小さい謎解きのほうはけっこう面白かったけど、古典部の部長になる"千反田(ちたんだ)える"の持ち込んだ謎については引っ張ったわりに結末はあまり意外性を感じなかった。
これは、私が年齢的に奉太郎たちよりも、謎の中心人物であった"える"の伯父のほうに近いというのが影響しているんだと思うけど。
もちろん、私自身がそれを体験した世代ではないけど、「その頃そういうことがあった」というのは知識として知っていて当然という程度には近い世代であったということ。
(少なくとも「そんなことがあったんだ」と初めて聞く話ではなかった)
更には「何があったのか」と並んでもう一つの謎であった、古典部の文集の名前「氷菓」についての謎解きもヒントが提示された時点でピンと来た。
これについてはアイドル系の歌謡曲の歌詞として頭にインプットされていたので、作品の中で登場人物の高校生が(その意味に)衝撃を受けている描写と私の頭の中でグルグル回ってるその明るいフレーズとの間のギャップが凄くて全然感情移入が出来なかったのだった…^^;

でも、そんなことより私がずっと違和感を持っていたのは主人公・奉太郎の性格。
まだ高校1年生の奉太郎が、

「やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に」

という省エネスタイルを貫く理由がよく理解できなかった。
高校1年生の男子っていったら、放って置いても無駄なエネルギー放出しまくり、って存在じゃないの?
(すごい偏見ですが(笑)あ、そのエネルギーを何かに転換出来ればいいのかも~(笑))
もちろん、人はどんなモットーを持っていてもいいと思うし、実際私も基本的に「面倒くさいことは大嫌い。しなくていいことはしたくない」という性格なのでそういう考え方自体を否定するわけではない。
でもだからこそ、そういう性格って「気が付いたらそうだった」って類のものであって、「これが自分のモットーです」って他人に言ったりするものではないような気がするんだけどなぁ。
それを奉太郎はあまりにも何度も口にするから、私にはそれが自然と身に付いた、または元々彼が持っている性質なのではなく、敢えて自分に言い聞かせているように感じられた。
もしかしたらそれも一つの謎なのかしら。それとも考えすぎ?

ちょっと微妙な違和感があったけど短くて読みやすい作品、しかもシリーズものなので、このあとも読んでみる予定。

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東野圭吾/黒笑小説

黒笑小説 (集英社文庫 ひ 15-8)
黒笑小説 (集英社文庫 ひ 15-8)

出版社 / 著者からの内容紹介
東野圭吾が描く、「黒い笑い」
平静を装いながら文学賞の選考結果を待つ作家、内心では「無理だろう」と思っている編集者――。文壇事情を皮肉たっぷりに描く短編の他、笑いをテーマにした作品を収録した傑作短編集。(解説/奥田英朗)

東野さんの作品は「長くて、シリアスで、重いもの」のほうが評価が高いみたいだけど、個人的にはこういう「短くて、ふざけてて、ニヤッと出来る」作品のが好きだな。

誰かの行動やある現象を角度を変えて描くことでそこに立ち現れてくる違和感と可笑しさを扱った作品が多いんだけど、その題材の選び方、悪意の込め方、題材への執着加減が絶妙。
これ以上やったら醜悪になる、不愉快に感じられるというレベルギリギリのところで踏みとどまる自制心がスゴイ。
決して爆笑出来る内容ではないけど、「こんなことよく考えつくよな~」と思いながら読みながらニヤニヤ笑える作品ばかりで面白かった。

「もうひとつの助走」「線香花火」「過去の人」「選考会」「巨乳妄想症候群」「インポグラ」「みえすぎ」「モテモテ・スプレー」「シンデレラ白夜行」「ストーカー入門」「臨界家族」「笑わない男」「奇跡の一枚」の13編を収録。

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2008/05/31

坂木司/先生と僕

先生と僕
先生と僕

大学入学のために上京してきた極度の恐がり屋・二葉は、初対面の中学生・隼人に誘われ彼の家庭教師を務めることになる。
二人が一緒に歩くと何故かぶつかる不思議な事件。
トラブルに巻き込まれることを恐れて腰が引けている二葉を、都会っ子で頭のいい隼人が引っ張って事件(謎)を解決していく連作短篇集。

表題作他「消えた歌声」「逃げ水のいるプール」「額縁の裏」「見えない盗品」の5編を収録。

これも面白かった。
大学生と中学生の師弟コンビが遭遇する「日常の謎」系ミステリーで、内容もそれに合わせて血生臭いところは一切なくサクサク読める。
それでいて解決までの筋道やその途中で交わされる2人の会話に適度な深みがあって、読み終わったあとに爽快感とともにちょっとした深みも味わえる作品だった。

面白くしているポイントはやっぱり、二葉と隼人、主役2人のキャラクター設定の見事さ。
関東近県の田舎町から大学入学をきっかけに上京してきた二葉。
殺人事件が出てくるミステリーが読めないほどの恐がりだけど、「覚えよう」と思って見たものは5秒で記憶できるという特技を持っている、という設定。
一方、隼人はミステリーが大好きな東京生まれの中学1年生。
二葉よりも5つも年下だけど頭の回転の速さ、知識の豊富さ、観察力、洞察力、行動力、どれを取っても二葉の上を行き、彼を引っ張っていく。
その上、外見はジャニーズ張りの美少年で、謎の究明のためには女性陣に絶大な威力を持つその特徴を利用することも厭わない性格。
…という田舎者でちょっとドンくさい大学生と、都会生まれでスマートな中学生コンビのバランスがいい。
特に、顔がよくて頭がよくて生意気で…というだけでは、何となく鼻に付くヤなガキになってしまうであろう隼人を、例えば「区民プールのウォータースライダーに目を輝かせる」なんていうエピソードを入れて「なんだ、可愛いところあるじゃない」と受け入れさせてしまうちょっとした匙加減が「巧い!」と思った。
主役が好きになれるかどうかって、こういう作品では重要なことだよね。

ただ、隼人とのコントラストのためにあまりにも二葉に「田舎育ち、世間知らず」というキャラを振りすぎたという部分はあったかも。
あまりにも彼の理解力が乏しいのでそこにイラッとさせられることが時々あった。
確かに年齢や生まれた環境の違いはあると思うけど、6年というのは全く理解できないというほど離れているとも思えないし、環境的にもいくら田舎だとはいえTVや雑誌や新聞がある限りそんなに情報に疎いということは考えにくいと思えるんだけどな…。
しかも二葉は「そこにあるものを写真のように記憶できる」という特技があるわけでしょう。
「見える」「記憶できる」ということは、それだけで洞察力、想像力に繋がる才能だと思うんだけどなあ。

でも、そういう二葉の朴訥さに隼人が少しずつ(いい意味で)影響を受けていくという展開も狙っているなら、2人の「差」が大きいほうが効果的なのかも。
この後2人がどんなふうに成長していくのか気になるので、これもシリーズ化してくれると嬉しい。

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仁木悦子/仁木兄妹の探偵簿〈1〉〈2〉

仁木兄妹の探偵簿―雄太郎・悦子の全事件〈1〉兄の巻
仁木兄妹の探偵簿―雄太郎・悦子の全事件〈1〉兄の巻
仁木兄妹の探偵簿―雄太郎・悦子の全事件〈2〉妹の巻
仁木兄妹の探偵簿―雄太郎・悦子の全事件〈2〉妹の巻

1986年に亡くなった仁木悦子さんの作品の中から、著者と同じ名前の妹とその兄・雄太郎が探偵役を務める短篇を集めた作品集。

〈1〉「兄の巻」収録作品
「灰色の手紙」「黄色い花」「弾丸は飛び出した」「赤い痕」「暗い日曜日」「初秋の死」「赤い真珠」「だだ一つの物語」「(犯人当て)横丁の探偵」
〈2〉「妹の巻」収録作品
「木からしと笛」「ひなの首」「二人の昌江」「子をとろ 子とろ」「うさぎさんは病気」「青い香炉」「サンタクロースと握手しよう」「(犯人当て)月夜の時計」

背が高くてやせっぽちで大好きな植物の研究をしているのが一番幸せな兄・雄太郎と、チビで標準より太め、不思議なことに遭遇すると自分で解決せずにはいられない妹・悦子が様々な事件に遭遇し、持ち前の好奇心と探求心でその謎を解決する物語。

仁木さんの作品を読むのはこれが初めて。
安野光雅氏の表紙とタイトルに惹かれて図書館で借りてみた。

雄太郎も悦子も一般人なのに、こんなに次々と事件(しかも殆どが殺人事件!)に巻き込まれるという展開はどうなのよ?と思わなくもないけれど、最近のミステリのように殺伐とした雰囲気ではなく人情とか、人の温かさのようなものを最後にきちんと感じさせて終わるほのぼのした作風でとても読みやすかった。
謎解きもそんなにトリッキーでなく、普通の人がちょっと悪巧みして考えた、またはそういうつもりはなかったけど偶然が重なってそうなったといったちょっと緩めの雰囲気が私好み。

でも何より魅力的なのは、探偵役の仁木兄妹。
特に語り手である妹の悦子の好奇心溢れる行動力や、豊かな感情表現が物語を支えているといっても過言ではないと思う。
最初の作品で音楽学校に通う学生だった悦子は、その後新聞社所属のヘリコプターパイロットである浅田氏と結婚し、哲彦(テッチン)と鈴子(スウ子)2人の子どものママとして登場している。
結婚し子どもを持っても彼女の好奇心は健在で、時にはテッチンをお隣に預け、むずがるスウ子をあやしながら事件解明に駆け回ったりしている。
それでも彼女の行動が自分勝手で独善的に見えないのは、事件への好奇心と同時に、事件の関係者への思いやりと自分の家族(特に2人の子どもたち)への溢れるばかりの愛情もしっかり描写されているから。
悦子とテッチン、スウ子の、事件には直接関係のない他愛のない会話がさりげなく、でも愛情を込めて描かれているのが微笑ましかった。
(特に子どもたちを車に乗せるのを「積み込んで」って表現するのが私は好きだったな)

第一巻が「兄の巻」、第二巻が「妹の巻」となっているから、「兄の巻」では全て雄太郎が、「妹の巻」では全て妹が謎解きをするのかと思ったらそうでもない。
さすがに「兄の巻」では最初の何編かは雄太郎メインだけど、それも後半からは悦子に乗っ取られ(笑)「妹の巻」では完全に悦子の独壇場。
(時々思い出したように雄太郎が出てくるけど)
多分全体的に妹メインの作品数が圧倒的に多かった、ということなんだろうけど個人的にはちょっと仙人然とした部分もある雄太郎の存在もけっこう好きだったので、もうちょっと活躍してくれたらよかったな。
仁木兄妹の全集は長編ものもあるようなので、今度はこっちも読んでみよう。

仁木兄妹長篇全集―雄太郎・悦子の全事件〈1〉夏・秋の巻
仁木兄妹長篇全集―雄太郎・悦子の全事件〈1〉夏・秋の巻
仁木兄妹長篇全集―雄太郎・悦子の全事件〈2〉冬・春の巻
仁木兄妹長篇全集―雄太郎・悦子の全事件〈2〉冬・春の巻

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2008/05/18

西澤保彦/スコッチ・ゲーム

スコッチ・ゲーム (角川文庫)
スコッチ・ゲーム (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
通称タックこと匠千暁、ボアン先輩こと辺見祐輔、タカチこと高瀬千帆、ウサコこと羽迫由起子、ご存じキャンパス四人組。彼らが安槻大学に入学する二年前の出来事。郷里の高校卒業を控えたタカチが寮に帰るとルームメイトが殺されていた。容疑者は奇妙なアリバイを主張する。犯行時刻に不審な人物とすれ違った。ウイスキイの瓶を携え、強烈にアルコールの匂いを放っていた。つけていくと、河原でウイスキイの中身を捨て、川の水ですすいでから空き瓶を捨て去った、と…。タックたちは二年前の事件の謎を解き、犯人を指名するため、タカチの郷里へと飛んだ。長編本格推理。

今回は長編。
タカチこと高瀬千帆が故郷から遠く離れた安槻大学に入る(つまりタックやボンちゃん、ウサコたちと知り合う)きっかけになった、連続殺人事件の真相を探る物語。

お、重い…。
事件の内容も重いけど、解明された真実も動機もあまりにも重くて救いがない。

こんな事件の当事者(というか中心にいる人物)になってしまったとしたら、タカチがあんなにエキセントリックな性格なのも理解できる。
でも、タカチがあんななのは「この事件があったから」ではないんだよね。
逆にその前のほうが大学時代よりも更に(性格的には)過激だった印象。
その原因についても物語の中で言及されていたりはするんだけど、ちゃんと納得出来る回答は出てこなかったな。
どっちにしても「面倒くさい性格の人だなあ」という印象は変わらなかったけど(笑)

文章は簡潔で読みやすかったけど、人間関係が入り乱れていてしかもその間に事件とは直接関係のないタカチや他の登場人物たちの心情や考察が入ってくるので事件の動きを理解するのが難しかった。
しかも事実の提示方法(順番とか、タイミングとか)にちょっと違和感あり。
例えば、上のあらすじで書いてあるアリバイは同じことが小説の裏表紙に書いてあるんだけど、これが作品の中で明らかにされるのはかなり物語が進んでから、解決編の直前くらいなのだ。
あらすじを書くのは作家本人ではないんだろうけど…なんだかちょっと変な感じがした。

キャラクターの描き方は巧い。
ただ、あまりに巧すぎて誰がメインで誰が脇役なのかを判断するのが難しい、とか話が妙に長い(直接事件と関係ない話が多い)という難はあり。
私としてはその「関係ない部分」のほうが(今回も)面白かったので、個人的にはいいんだけど、ミステリーとして読んだ場合はどうなんだろう?

特にタカチやタックたちの関係性の築きかたについての考察はなかなか考えさせられるところが多かった。
ボンちゃん(ボアン先輩)みたいな人が実際にいたら救われる人ってたくさんいるんじゃないかな。
でも、もしかしたらその真意に気付かずに、単に「しつこい人」「空気が読めない人」と判断されてしまう可能性もなきにしもあらずかも…。
人間関係って難しい(というか面倒くさい^^;)。

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西澤保彦/黒の貴婦人

黒の貴婦人 (幻冬舎文庫)
黒の貴婦人 (幻冬舎文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
飲み屋でいつも見かける“白の貴婦人”と、絶品の限定・鯖寿司との不思議な関係を大学の仲間四人組が推理した表題作。新入生が自宅で会を開き女子大生刺殺事件に巻き込まれる「招かれざる死者」。四人の女子合宿にただ一人、参加した男子が若者の心の暗部に迫る「スプリット・イメージ」ほか本格ミステリにしてほろ苦い青春小説、珠玉の短編集。

先日読んだ「謎亭論拠」「解体諸因」と同じシリーズの短篇集。
表題作他「招かざる客」「スプリット・イメージ または避暑地の出来心」「ジャケットの地図」「夜空の向こう側」の5編を収録。

この間読んだ2作が面白かったので、追いかけて読んでいるけど物語中の時系列と発行順、それに発行出版社がそれぞれバラバラなのでこれがなかなか難しい。
しかも、いくら同じシリーズとはいえ、状況や設定が違えば(当然ながら)それぞれ別のアプローチの作品になっているわけなので、自分が希望する作品が読めるわけでもないというのもあるし。

この本は前に読んだのと同じように短篇集だけど、雰囲気はかなり違った。
前2冊のように事件の概要だけがどんどん提示されてそれをパズルを解くようにみんなで推理して…といったアッサリした展開ではなく(そういうのもあるけど)、それぞれの物語の登場人物の関係性が詳細に描かれていたり、心情が吐露されたりしているので事件そのものはそれほどでもないのに物語そのものはかなりヘビィな印象。
特に「スプリット・イメージ」はちょっと読むのが辛かった。

その他の話も、推理や展開にあまり説得力がなかったような気がする。
事件の話よりもレギュラーメンバーから出てくるサイドストーリーに繋がるのであろうこぼれ話のほうが面白かったかも…。

あと、太田忠司氏が書いている解説が面白かった。
「この世には『議論を好む人間』と『そうでない人間』の二種類がいる」って話。
氏自身は前者で、高校の学校帰りに級友と「カレーライスは和食か洋食か」を巡って議論した思い出などが書かれていた。
これを読んで「そういえば私も学生の頃は、結論が出ない(というよりも「ない)」話を延々と喋っているのが好きだった」ことを思い出した。
まともに利害関係が絡んでいたり、感情的になってしまう議論というのは苦手だけど、ただ言葉遊びのように議論のために議論する、というのはけっこう好き。
最近はそういう話に付き合ってくれる人がいないのであまりしないけど、例えば会社のミーティングなどでもどちらの意見が「いい、悪い」「賛成、反対」とかではなく、「こういう考え方も出来ますよね」ってそのテーブルに上がっていない考え方をただ提示していくってのは時々やってたり…(笑)
そう考えると、ある内容の事柄について頭から「絶対に○○だ」という考え方ってあまりしない人間かも。
どちらかというと「どうでもいい」「どっちでもいい」というスタンスでいることが多いので感情的に視野狭窄にならずに済んでいる部分はあるけど、反面あまり周囲に興味がないことが多いので(笑)情報量が圧倒的に少ないという弊害もあるかな。
物事に対する姿勢がニュートラルで、偏らない見方が出来る「バランスの取れた人」になるのはなかなか大変だ。

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