カテゴリー「購入本」の6件の記事

2010/08/13

畠中恵/こころげそう

こころげそう (光文社時代小説文庫)
こころげそう (光文社時代小説文庫)

内容(「BOOK」データベースより) 
江戸・橋本町の下っ引き宇多が、恋しい思いを伝えられぬまま亡くしたはずの、於ふじが帰ってきた―幽霊の身となって!神田川でこときれた於ふじと千之助兄妹の死の真相を探るうちに、九人の幼なじみたちそれぞれの恋や将来への悩みが絡み合ってきて―ほんのりせつない大江戸青春恋物語。

内神田で下っ引きを勤める青年・宇多が主人公なので、「しゃばけ」シリーズよりも軽快でスピード感のある語り口。
そこは好感が持てたけど、ストーリー的にはは今ひとつ。

同じ町内で兄弟のように育った幼馴染9人の友情と恋愛+それに絡む不穏な事件の謎を解く、という構成だったんだけどどうも読後感がスッキリしない。
ラブストーリーとミステリー、どちらも詰め込みすぎで焦点がぼやけてしまった印象を持った。

だいたい、9人(男4人、女5人)もいれば1組、2組くらい好いた惚れたの関係になるのは判るけど、9人全員がその中の誰かが好きで三角関係、四角関係になるってちょっと不自然じゃないかと思う。
ただ、これについては「そういう設定なんだ」といわれれば「そうですか」と納得できる。
そういう閉じた関わりというのもアリでしょう。
でもだとしたらそれをメインにそれぞれの恋の顛末を描くだけで十分だったのでは。
9人の思うようにならない恋の行方をメインに、事件は起こっても「日常の謎」といった範囲のミステリーに留めておけば、その想いが上手くいっても行かなくてももっと後味がさわやかなお話になったんじゃないかと思う。
実際それがメインで書かれた「乞目」とか、「力味」のほうが、事件に直接絡む話よりも面白かったもの。

ラストも宇多が消えてしまった於ふじに対して心の区切りをつけるところで終わってるけど、いつも宇多の傍にいたお絹の気持ちには全く触れていないというのもちょっとひっかかった。

「恋はしがち」「乞目」「八卦置き」「力味」「こわる」「幼なじみ」の6編を収録。

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乙川優三郎/露の玉垣

露の玉垣 (新潮文庫)
露の玉垣 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
大火や洪水、旱魃に見舞われ、藩の財政は常に逼迫していた。国を思いながら一度の過ちで追放の身となった忠臣の決意、子宝に恵まれずに離縁された主家の女を見舞う下僕の情。困難に立ち向かう者もいれば、押しつぶされる者もいた…。儚い家臣の運命と武家社会の実像を描く連作短篇集。

江戸中期、貧困に喘ぐ新発田藩の中老に取り立てられた溝口半兵衛が政務のかたわらにしたためた代々の家臣たちの記録を元に綴られた短編集。

久しぶりの歴史小説、しかも内容がかなり地味目なので読むのに苦労した。
起こっていることの関連性が理解しにくいし、何より人間関係が煩雑でよく判らない。
普通の歴史小説とはちょっと趣が違い、同じ家中の家臣ばかり出てくるので同じ名前でも別人(先祖や子孫)の場合があって混乱してしまう。
なので、「読み終わった」と言ってもただ字面を追っただけで、殆ど内容を覚えていないというのが現状orz

ただ、困難な生活の中で武士としての誇りを貫いて生きようとする新発田藩士たちの生き様を淡々と描く抑制の効いた文章はとても美しいと思った。

特に自分の家からの出火で城を焼いてしまい一時は死を覚悟した主人公が思いがけない周囲の優しさ、励ましを受けもう一度新しい土地で生きなおすことを誓う「新しい命」は印象的だった。

「乙路」「新しい命」「きのう玉蔭」「晩秋」「静かな川」「異人の家」「宿敵」「遠い松原」の8編を収録。

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2010/03/06

近藤史恵/サクリファイス

サクリファイス (新潮文庫)
サクリファイス (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
ぼくに与えられた使命、それは勝利のためにエースに尽くすこと―。陸上選手から自転車競技に転じた白石誓は、プロのロードレースチームに所属し、各地を転戦していた。そしてヨーロッパ遠征中、悲劇に遭遇する。アシストとしてのプライド、ライバルたちとの駆け引き。かつての恋人との再会、胸に刻印された死。青春小説とサスペンスが奇跡的な融合を遂げた!大藪春彦賞受賞作。

自転車ロードレースのプロチームを舞台にした長編小説です。

面白かったです。

物語の多くの部分を割いて語られる自転車ロードレースのルールや試合の様子、メンバーのキャラクター、外国の有力チームからのスカウトの話、チームの中で囁かれる過去の噂、別れた恋人との突然の再会…全てのエピソードがその後に起こる不幸な事件の伏線となっています。
そしてその事件を含めた謎が全て解けたとき、この小説のタイトルの意味が改めて理解できる、そして更にはその不幸な事件も含めた物語全部が「自転車ロードレース」という競技に捧げられた物語なのだと思えました。

あまり馴染みのない競技を題材にした小説なので「理解できるかな?」と心配したのですが、杞憂でした。
スピード感は保ちながらも性急になりすぎず、じっくりと熱の籠もった文章で丁寧に描かれた物語は、あまり一般的でない競技を実に魅力的に表現していたと思います。

主人公・誓の別れた恋人 香乃があまり魅力的に思えなかったのが残念。
誓にとっては別れて何年も経つのに未だに夢に見るくらい好きな相手らしいのですが、読んでる私には付き合っていた当時も突然再会したあとも「う~ん…」という印象しか持てませんでした。(同性だから?)
自分ではそういう意図がないのに、影響力が大きくてものごとを悪い方向に進めていってしまうタイプのような。
名前(初野香乃(はつの・かの)の語呂も悪いし。
ただ、彼女が動かなければこの事件は起こらなかったし、最後には彼女自身あまりよくない(と読者には思える)選択をすることになったことを考えると、もしかしたら作者もそのつもりで彼女のキャラクターを作ったのかな、とも思えました。

今月末に続編(『エデン』)が出る予定とのこと。
過去のを乗り越え新たな旅立ちをした誓がどんな活躍をしているのか、読むのが楽しみです。

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2009/04/30

今野敏/心霊特捜

心霊特捜
心霊特捜

内容(「BOOK」データベースより)
番匠警部…R特捜班班長、背広はヨレヨレだが統率力◎。数馬主任…古神道伝承者、細身だが眼光鋭く迫力満点。鹿毛巡査…実家は密教系の寺、皮肉屋のパンクロッカー。比謝巡査…沖縄出身のノロ、桁外れにマイペース、紅一点。そして、岩切大悟…県警刑事総務課所属で、R特捜班との連絡係だが恐がり。神奈川県警 R特捜班、別名『心霊特捜班』。心霊現象が絡む事件を担当する特別捜査班。山本周五郎賞・日本推理作家協会賞W受賞後第一作、クールでちょっと切ない警察小説。

心霊現象による事件の解決を目的に鎌倉署内に設立された「R特捜班」(Rは霊(Rei)のR)の活躍を描いた短編集。
「死霊のエレベーター」「目撃者に花束を」「狐憑き」「ヒロイン」「魔法陣」「人魚姫」の6編を収録。

リアリティ満点の「安積班シリーズ」とは打って変わって、こちらは悪魔祓いだの狐憑きだの自縛霊だの憑依だのといったオカルトな内容でかなり意外な感じでした。
とはいえ、そうしたキワモノ的な題材を扱いつつも「R捜査班」のメンバーのキャラクター設定や事件の内容、物語の構成などはさすがにキッチリ作られているので、読みやすいし安定感もちゃんとある作品になっているわけですが。

かなり非現実的で「あり得ない」内容だけど、考えてみれば警察官というのも一般人とは比べられないくらい人の死に関わる職業であるわけだからそうした非現実的なものを否定しつつもどこかで繋がっている部分がもしかしたらあるのかも?なんてことを想像してみたり。
それに、他に人の目がないところでの犯行だったとしたら、幽霊でもいいから見ていてくれないかと思うこともあるんじゃないかなあ。
証言として有効ではなくても、そこから捜査の糸口が見つかる可能性はあるかもしれないじゃない。
(この本の中にもそういう内容の話があった)
もしかしたらこれから先の未来では、本当にそうした捜査を研究するようになってくるのかも。
あと、霊的なものとはまた違うけど「残留思念」とかね。
例えば死の間際といった極限の状態では人間の脳波や身体から何らかの物質(?)が放出されているんじゃないのかな。
(それが「思念」なのかどうかは判らないけど)
だから、それを何らかの方法で読み取ることが出来るようになったら、事件の解決に役立てられるのでは…なんてことを考えたのでした。
ただそこが人間の立ち入れる場所であったらその場所にいた人が必ずしもその犯罪に関係のある人とは限らないから何らかの方法でそれを特定しなくちゃいけないわけだよね。
例えば地質の鑑定みたいになんちゃらの含有量で時代が判定できるようになるとか?
すごく荒唐無稽の話のようにも思えるけど、例えば今は生きたままの人間の輪切り画像だって撮影できるようになってるわけだから、このあと何十年何百年経てばそうしたことが当たり前になっている時代だって来ないとは限らないよね。

ところで、この物語の中で「R特捜班」は鎌倉署にあることになってるんだけど(所属は本庁)、その理由は「古都であるため住民からのそうした通報が多いから」。
これを読んで、じゃあ京都や奈良はどうすんだ、と思ったのは私だけではないはず…(笑)

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2008/09/14

太田忠司/奇談蒐集家

奇談蒐集家 (創元クライム・クラブ)
奇談蒐集家 (創元クライム・クラブ)

出版社 / 著者からの内容紹介
【求む奇談!】新聞の片隅に載った募集広告を目にして、「strawberry hill」を訪れた老若男女が披露する不思議な体験談――鏡の世界に住まう美しい姫君、パリの街角で出会った若き魔術師、邪眼の少年と猫とともに、夜の町を巡る冒険……謎と不思議に満ちた奇談に、蒐集家は無邪気に喜ぶが、傍で耳を傾ける美貌の助手が口を開くや、奇談は一転、種も仕掛けもある事件へと姿を変えてしまう。夜ごと"魔法のお店"で繰り広げられる、安楽椅子探偵奇談。

 

古めかしく重厚なバーの奥にしつらえられた特別室。
そこでくつろぐ変わった風貌の男。
差し出される名刺には「奇談蒐集家 恵美酒 一」の文字。
新聞広告に誘われてやってきた客は彼の前で自らの不思議な体験を語り始める。
「これこそは奇談!」と喜ぶ恵美酒を後目に、部屋の片隅にひっそりと控える恵美酒の美貌の助手・氷坂がその物語の謎を解き明かしていく…。
という、舞台設定はすごく凝っていて面白いんだけど、残念ながら内容は今ひとつピンと来なかったというのが正直なところ。

ただ、単純に「不思議な話をしてその種明かしをしてもらって終わり」ではなく、最後になって氷坂による種明かしを真実であると信じた訪問者たちがその内容に従って行動した結果…という後日談が入ってくる。
これがかなり辛辣、かつ不気味な内容。
多分、こここそが著者の本当に書きたかった部分なんだと思う。
確かにインパクトはあった。
でも、やっぱりここに至るまでの元になる話がちょっと弱かったのと、最後の仕掛けが出てくるのがちょっと遅すぎて、全体的に見るとちょっと曖昧な形で終わってしまった印象かな。

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2004/09/20

タニス・リー/闇の公子

闇の公子
タニス・リー 浅羽 莢子/ハヤカワ文庫

まだこの世が平らかだった頃、地底に筆舌も及ばぬほどの妖しさと魔法に満ちた妖魔の都があった。
その都の主、美しくも残酷な闇の公子・アズュラーンが愛すべき玩具である人間達に仕掛ける気まぐれな悪行の数々を綴る美しき物語。


とても面白かったです。

とにかく訳文(訳者:浅羽莢子氏)が魅力的。
こんなにも美しい言葉で書かれた物語は久しぶりに読みました。

ベースにある原作の完成度が高く、そして主人公である闇の公子・アズュラーンと言うキャラクターが魅力的であるのはもちろんです。
でも幾ら美しくて魅力的な作品であったとしても、外国語で書かれた物語は日本語に訳して貰えないと読むことが出来ません。(少なくとも私は)
また仮に訳されたとしても、その訳が原作の物語をそのまま(あるいはそれに限りなく近い形で)再現できるかどうかも判りません。
その点、この作品は原作の美しさを再現することが出来る優れた、しかも原作を愛する翻訳者に巡り会うことが出来た、幸運な作品だと言えるでしょう。

翻訳物があまり得意ではない私ですが、この作品はその内容にあったクラシカルで威厳に満ちた(しかし古くさくも堅苦しくもない)文体と言い、音楽的でさえあるその豊富で美しい語彙の数々と言い、全てが素晴らしかったです。

そんな美しい言葉で紡がれるのは、多くの妖魔に傅かれながらも、闇の帝国で孤独に生きる美しき公子・アズュラーンの物語です。

公子・アズュラーンの人間に対する屈折した、しかし哀しいまでの愛情(なのでしょうね、きっと)が胸に迫りました。
気まぐれに人間を誘惑し、翻弄し、時に拒絶されるや、その人生に害をなし、絶望させ、破滅させる…しかし、その心の底にあるのは彼なりの「愛」であったのだと思います。
それは最後は(原因は自分の蒔いた小さな種であったわけですが)「憎悪」によって滅びようとしている人類をその身を挺して守ろうとした事からも明かです。

それに対し、ゾラーヤスやケバなどかつては全くの人間であったけれども、アズュラーンの怒りに触れ、その人としての生を踏み外してしまった者たちによる人類に対する復讐の方が、容赦なく、すさまじいものであった事にとても象徴的なものを感じました。

また、ラスト近くで出てくる「神」の存在も今までにない独特な描写で非常に印象的でした。


この作品は「サボテン島のハリネズミ」さんの『闇の公子:タニス・リー』の記事に触発されて読みました。
美しく完成度の高い物語を読むことが出来てとても楽しかったです。
ご紹介ありがとうございました。
トラックバックをつけさせて頂きました。

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