カテゴリー「購入本」の1件の記事

2004/09/20

タニス・リー/闇の公子

闇の公子
タニス・リー 浅羽 莢子/ハヤカワ文庫

まだこの世が平らかだった頃、地底に筆舌も及ばぬほどの妖しさと魔法に満ちた妖魔の都があった。
その都の主、美しくも残酷な闇の公子・アズュラーンが愛すべき玩具である人間達に仕掛ける気まぐれな悪行の数々を綴る美しき物語。


とても面白かったです。

とにかく訳文(訳者:浅羽莢子氏)が魅力的。
こんなにも美しい言葉で書かれた物語は久しぶりに読みました。

ベースにある原作の完成度が高く、そして主人公である闇の公子・アズュラーンと言うキャラクターが魅力的であるのはもちろんです。
でも幾ら美しくて魅力的な作品であったとしても、外国語で書かれた物語は日本語に訳して貰えないと読むことが出来ません。(少なくとも私は)
また仮に訳されたとしても、その訳が原作の物語をそのまま(あるいはそれに限りなく近い形で)再現できるかどうかも判りません。
その点、この作品は原作の美しさを再現することが出来る優れた、しかも原作を愛する翻訳者に巡り会うことが出来た、幸運な作品だと言えるでしょう。

翻訳物があまり得意ではない私ですが、この作品はその内容にあったクラシカルで威厳に満ちた(しかし古くさくも堅苦しくもない)文体と言い、音楽的でさえあるその豊富で美しい語彙の数々と言い、全てが素晴らしかったです。

そんな美しい言葉で紡がれるのは、多くの妖魔に傅かれながらも、闇の帝国で孤独に生きる美しき公子・アズュラーンの物語です。

公子・アズュラーンの人間に対する屈折した、しかし哀しいまでの愛情(なのでしょうね、きっと)が胸に迫りました。
気まぐれに人間を誘惑し、翻弄し、時に拒絶されるや、その人生に害をなし、絶望させ、破滅させる…しかし、その心の底にあるのは彼なりの「愛」であったのだと思います。
それは最後は(原因は自分の蒔いた小さな種であったわけですが)「憎悪」によって滅びようとしている人類をその身を挺して守ろうとした事からも明かです。

それに対し、ゾラーヤスやケバなどかつては全くの人間であったけれども、アズュラーンの怒りに触れ、その人としての生を踏み外してしまった者たちによる人類に対する復讐の方が、容赦なく、すさまじいものであった事にとても象徴的なものを感じました。

また、ラスト近くで出てくる「神」の存在も今までにない独特な描写で非常に印象的でした。


この作品は「サボテン島のハリネズミ」さんの『闇の公子:タニス・リー』の記事に触発されて読みました。
美しく完成度の高い物語を読むことが出来てとても楽しかったです。
ご紹介ありがとうございました。
トラックバックをつけさせて頂きました。

| | コメント (4) | トラックバック (2)